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第24話 妊娠

(注)本話にはブラックな要素が含まれています。


女同士の友情など紙より薄い。


――それはわたしとメリッサにも言えること。


“友達”になったからと言って心を打ち明けたりするわけではない。

それぞれに思惑があってそういう関係を選択しただけ。国家が同盟を結ぶのと同じ。

メリッサはわたしと結ぶことでウィルズに目をかけてもらえる機会が増える。

一方でわたしは彼女を自分の目の届くところに置くことで行動を監視する。


よく「友達になるのに理由など必要ない」という。

子供のころはこれを聞いて感動したものだ。


だが、後宮や王室においてそんな綺麗事は通用しない。


繋がりを重視したり、人望があれば何とかなると思っている女など序盤で姿を消す。

いかに腹黒く、狡猾で、あざとく、憎たらしいかで勝敗は別れる。思い遣りや優しさなんて必要ない。



「おめでとうございます。妊娠していらっしゃいます」


メリッサと同盟を結んでからしばらくして、王室専属医師から告げられた言葉だ。

しばらく食欲不振や全身のだるさといった症状が慢性的に続いていたためウィルズも気にかけてくれていたが、それが妊娠のせいだと分かるとわたしたちは抱き合って喜んだ。


このことをウィルズが国王に報告に行くと、大喜びした王の計らいもあってその日はちょっと豪華なパーティーが開かれた。

まあパーティーといっても王室メンバーが一同を介して楽しく夕食を摂るだけなのだが、わたしは友達であることを理由に、“あえて”メリッサを招待してやった。


しかも妊娠しているわたしの横に座らせてあげる。

渋々といった様子でやって来たメリッサは「ご懐妊おめでとうございます」とか口では笑えども、目が笑っていない。


(これは何?私へのあてつけ?)

(ええそうよ。この前、あなたが『ウィルズに目をかけてもらう機会が欲しい』って言ってたから招待してあげたの。ありがたくお思いかしら?)

(これはこれは。手の込んだ嫌がらせをありがとうございます)


時々、わたしたちは空中で視線を絡ませながら内心で本音をぶつけ合う。


「ご出産の予定日はいつごろで?」

「7月から8月が目安ですって」

「そうですか。では来年の今頃はもっと賑やかになっておられるに違いありませんわね」

「本当に」


お互い口に手を当てて上品な笑みを交換する。

ウィルズは自分の正妃と側妃が仲睦まじくしているのを見て安堵した様子だったけれど、実際はそんな甘い関係ではない。

口にしている言葉と内心で思っている言葉が背反しているのを知っているのは、おそらくわたしたちだけ。


 今日わざわざメリッサを会に呼んだのは他でもない。

ウィルズの目の前で仲睦まじく見せることにより、不穏な行動を起こさせないよう牽制する狙いだ。



 しかし一つ計算外の事態が発生した。


わたしの妊娠発覚からわずか一か月にしてメリッサの懐妊が発表されたのだ。

当初は何かの間違いじゃ無いかと思ったけれど、検査薬では陽性反応が出たのだとリサから内々に伝えられた。


――ともなれば、気を良くしたのはあの女だ。


「こないだはパーティーに御招待いただきありがとうございました。ですから今回はこちらが正妃殿下を御招待いたしますわね」


という具合に、わたしはフォルニクス家主催の大々的な宴会にお呼ばれしたうえ、彼女の右ではなく左に座らされる事態に。

しかも『正妃殿下のお世話はこちらの者が』と、わたしをリサから離して牙を削いだあと、メリッサは食事に手を付けないわたしを心配するような口調で訊いてくる。


「あら、今日のリミューアさまはお元気がありませんのね。具合が悪いとかでしたらご遠慮なくお申し付けくださいね?」

「ありがとう。でも何もないわ」


(あれほど私を辱めておいて、この場で何か言いたいことがあるんじゃなくて?)

(言いたいこと?お体に気を付けて、とでも言ってほしい?)

(どこまでも生意気な小娘ね。私より妊娠が一月早かったからって、調子に乗ってるんじゃないわよ)

(あら、調子に乗っているのはどちらかしら)


「わたしもメリッサさまの安産を祈願しておりますわ」

「ありがとうございます」


(ま、お腹の子が流れないよう、せいぜい気を付けることね)

(それはあなたにもあてはまるってこと、分かって言ってる?)


決して口と態度には出さないが、お互いに内心ではかなり激しい争いを繰り広げている。


 抗争の引き金となったのは恐らくわたしの懐妊発表パーティーだろうが、こうでもしておかなければこちらは利用されるだけの対象になりかねない。

特に後宮にもなってくると、食うか食われるかの厳しい世界。うかうかしているとあっという間に失脚してしまう。


 そうしてお互いを牽制する日を重ねる内に、わたしたちの仲はどんどん険悪になっていった。



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