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第17話 後見人

 目を覚ますと、時刻はまだ深夜だった。


ランプの灯が消えるように、フッと意識を無くしてしまっていたわたしはまだベッドの中にいる。

股間に冷たい感覚を覚えて覚醒した途端、裸の自分を見て意識を失うまでの記憶がよみがえった。


たしか30分ほど彼に抱かれたあと、わたしたちはお互いに重なり合うようにしてじっとしていた。

行為を終えても何度もキスを繰り返した。

そうして荒れた息を整えるためベッドに身体をもたげているうちに、いつの間にか寝てしまっていたらしい。



ふと真横に視線を向けるとウィルズの横顔が間近にあった。

ただし服を一切纏っていないわたしと違い、最低限の肌着を着ている。


「ねえ、旦那さま」


ガサガサと何度も寝返りを打っているのを見て試しに問いかけてみる。

案の定、彼の肩がピクッと反応した。


「なんだ」


少し怒っているような声だった。

彼らしくないというか、ちょっと冷たいような。

でもこちらが怒らせるようなことをした覚えはない。


「起きていらっしゃったのですか?」

「正しくは、『君に寝かせてもらえなかった』だよ」

「へ?」


ウィルズは身を90度傾け、わたしの顔を見つめる。

彼の鼻には丸めたティッシュが詰められていた。


「鼻血?」

「リミューに蹴られてベッドから突き落とされた際に」

「わたしそんなことしてません」

「ああそうだろうね。君が自分の意思で僕を蹴り飛ばして来るとは思えない。でもその寝相の悪さはどうにかならないか?」


よく見ればウィルズは二人用ベッドの隅に追いやられている。

布団もほとんどがわたしのところにあり、彼がどうして服を着ているのかがようやく理解できた頃には、わたしはカーッと赤くなってのぼせるような感覚に襲われていた。


「あっ、ご、ごめんなさい」

「別に謝られるほどじゃないよ。――ところで、なにか用?」


わたしは夫から視線を逸らすと、布団の中に沈む彼の手を握った。


「アーシェお嬢さまの件で少し」


そのとき、ウィルズの眉が一度だけピクッと動いた。

わたしにはその理由がわからなかったけれど、訊こうとはせずに言葉を綴る。


「縁起でも無いお話しですけど、もしも陛下が(ほう)じられた場合、アーシェさまはどうなるのですか?」

「どうとは?」

「後ろ盾のこと」


アーシェには母親がいない。

ましてや父である国王が病に臥せっているという今、第三者と繋がりを持たない事にはこれから不利を強いられることになりかねない。

ただでも権力闘争が激しい王室。王女だけでも25人おり、アーシェはその末っ子。

誰かが後ろ盾になって彼女を支えてあげないと、これから女の世界を生きていくのは厳しい。


「僕ができる限りで保護するつもりだが……」

「あの子を養子としてもらうことはできませんか?」


無理だ、とウィルズはあっさり首を横に振る。


「気持ちはわかる。けれどよく考えてみてくれ、僕とアーシェは異母兄弟だ。兄弟関係の養子縁組はこの国では法律で禁じられている」

「じゃあ――後見人なら?」

「リミューが?」

「ええ。後見人なら養子と違って間接的だから法には抵触しないわ」


将来の王妃が保護者となれば、わたしのように「末っ子だから」という理由で粗雑に扱われるようなこともないだろう。


「わかったよ。あとで手続きしておく」

「よろしくおねがいいたします」

「……それはそうと、僕もリミューに話さなきゃいけないことがあってね」


ウィルズはわたしの方に身を寄せると、仰向けになって天上を眺めた。


「昨日――いや、もう一昨日(おとつい)か。父上が勝手に僕の縁談を組んだ」

「縁談?誰かとご結婚されるのですか?」

「フォルニクス公爵令嬢と」


そのとき、わたしの心臓に電撃のようなものが走った。


噂には聞いたことがある。財政、軍事、情報、様々な面で太いパイプを持つ王国屈指の超有力貴族。


「では公爵の御令嬢を側妃に?」

「そうなる。でも大丈夫だよ、僕がリミューを好きであることに変わりは無いから」

「お気持ちは嬉しいですけれど、これからはお世継ぎの面からもそうはいかないでしょう」


特に一国の王ともなればなおさら。

わたしだってその覚悟はしている。一夫多妻が月並みの世界で「わたしだけを愛して」なんていう戯言を言うつもりは無い。

でも相手は……


「君には迷惑をかける」


彼はわたしの額に短いキスを落とすと、布団の中にうずくまり、しばらくして寝息を立てはじめた。




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