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第15話 夫からの伝言


 園遊会がお開きになったのは陽が西に沈みかけてからのことだった。


普段から運動をしているわけでもなく、長時間立っていることに慣れていないわたしは会が終わる頃には歩くのも辛くなっていた。

もうふくらはぎがパンパンで脚の付け根は痛むし、ヒールのせいで(かかと)も痛い。さらにはアーシェを抱っこしていたせいで腰も腕も痛い。

とにもかくにも休みたい、というのが本音である。


ゆえにウィルズから夜会という名の二次会に誘われても断った。

酒を飲み交わして笑顔を交換するだけの会など面倒以外の何物でもない。

でも流石に断る理由が「脚パンパンだから」でははしたないため、疲れて気力がないということを理由にした。



 夫が二次会で忙しい間、わたしは自室に籠って女官たちから全身マッサージを受けていた。

正直、もう一歩も動けないほど全身が疲労している。

さっきも椅子から立ち上がろうとした際に足が()って軽い悲鳴をあげたくらいだ。


もしもこんな情けない姿をウィルズに見られたら笑われるに違いない。


「ねえリサ」


自分の側に立つ侍女長を呼ぶ。

しかしいつまで経っても「はい」の一つ返事も返ってこない。


「ちょっといい?」

「あっ、はい!?」


俯いていた顔をパッと上げ、きょとんとした様子で目をパチクリするリサ。

考え事でもしていたのだろうか。


「どうしたの?ぼうっとしちゃって」

「反応が遅れて申し訳ございません。御用でしょうか?」

「ああ、喉が渇いたからお茶をお願い。あなたの淹れたお茶が飲みたいのよ」

「かしこまりました」


リサはいつものように略式の礼をすると音もなく踵を返す。

ベッドに寝転びながら彼女の動作を見ていたけれど、どこかぎこちないというか何かを気にして悩んでいるようにも見える。

一つ確実なのは、いつもの彼女らしくないということだ。


 リサは人前であまり笑顔をみせない。

でもそれ以外の感情は比較的顔に表れやすいのを知っている。

過去に彼女の祖母が死去したときも今日と同じような表情をしていた。

――ということは、訊いてはいけない事情が発生したのだろうか。でもそれならわたしの元にも情報が入るはずなんだけど。


「お待たせしました」

「ありがと」


無表情のリサからお茶の入ったカップを受け取ると、わたしは視線をテーブルの花瓶に逸らした。

飾られている花々は昼間にアーシェと一緒に摘んだものだ。

さきほどまでは全ての花がピンと背筋を張っていたものの、シクラメンはいつの間にかうつむいている。

その姿はリサと重なる気がしてわたしは複雑な気分になった。


「ねえ、」


落ち込んだ様相を呈するリサに理由(わけ)を訊こうとしたときだった。


コン、コン、とどこか慎まし気にドアがノックされた。


「だれ?」

『ウィルズ王子殿下の側近にございます。お伝えしたいことが』


わたしはリサに無言で指示を送る。

こちらの意を受け取ったリサは以心伝心で反応し、ドアへ歩を進めた。


「失礼しますリミューア正妃殿下」


駆け込んできたのはウィルズの側近の一人、ロッカスという年老いた男。

彼が生まれたときから身辺警護を担当し続け、5年前に還暦を迎えてようやく引退したんだとか。

今では使用人のような立ち位置にあり、ウィルズも随分馴れ馴れしく「爺」と呼んでいたからよく記憶に残っている。


「御取込み中恐縮です。王子殿下から伝言を預かってまいりました」

「ウィルズから?」

「さように。『リミューと大事な話がしたいから、起きておいてくれ』とのことにございます」


またか、と思った。

ウィルズが女の身体を求めているときの常套句だ。

わたしがマッサージを終えるとそのまま寝るつもりでいたのを悟り、釘を刺しにきたらしい。


「そう。それで、殿下のお渡りは何時(いつ)ごろになりそうですか?」


不思議と逃げようとは思わなかった。

いつもなら何かと理由をつけてお断りする夜伽だけど、今日はその逆。自分でも知らない間にわたしは夫を受け入れる準備ができていた。


「詳細な時刻まではお伝えしかねるとのこと。おそらく会が終わり次第に」

「わかりました。でもあんまり遅くなるようでしたら事前に連絡をくださるよう、旦那さまにお伝えください」

「御意」



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