裏話 3 ~頑張る女官!~(マリナ編Ⅱ)
「花瓶を」
息を切らしながらやってきたリサの開口一番がそれだった。
リサとは年齢も近いうえ、昔からの付き合いということでプライベートでは親友の仲。
なので出会ってすぐに彼女から片手を差し出された時は、握手と勘違いしてつい握り返してしまった。
「違う!花瓶を頂戴って言ってるでしょ!」
リサは天然女官の手を叩き落とすと、再び手の平を差し出す。
「花瓶?何するの?」
「何でもいいでしょう。とにかく早く頂戴」
「そんな急に言われても……」
「もうサイズとかどうでもいいから早く!姫さまが御所望なのよ!」
「ええっ!?」
姫と聞き、マイペースだったマリナの顔にも焦燥が浮ぶ。
「待ってて、すぐ用意するから!」
とは言ったものの、数分後に帰ってきたマリナが手にしていたのは水瓶だった。
「バカ」
「へぶっ」
ゴンッと頭にゲンコツが一発。
「花瓶よ花瓶!水瓶じゃ口が大きすぎて小さいお花が沈んじゃうじゃない!」
「だって『サイズとかどうでもいい』ってリサが――」
「花瓶のサイズよ!!!水瓶のサイズ言ってない!!」
「あっ」
納得! と言わんばかりにマリナはポンッと手を打つ。
「お願いだから早くしてちょうだい。分かる?花瓶よ、『か・び・ん』!」
「うん!今度こそ大丈夫だから!」
1分後、今度はちゃんと学習したのか、マリナはちゃんとした花瓶を二つ持ってきた。
よく机の上に置いたりする細長い瓶だ。
形も大きさも完璧で、これで一安心――
「ドアホ」
「ぶべっ」
またまたゲンコツ。
「何で中に水が入ってないのよ!普通は水を入れて渡すものでしょ!?噴水の水を汲めっていう気!?」
「あー、ごめん」
「マリナ。あなたよく今まで女官を解任されなかったわね」
「ついさっき解任されそうになったけど」
副長に。
「もう何でもいいからとにかく水を入れて来て!走れ!この超弩級バカ!!」




