プロローグ
あれはわたしがちょうど19になった冬のことだった。
「リミューア、お前に折り入っての頼みがある」
玉座に腰を据える父はわたしを見てそう言った。
わたしの祖国、シャーマリス王国は大陸の最東端に位置し、人口も500万人と小さな国。
周囲には列強と呼ばれるいくつもの軍事大国が控え、他国との同盟を持たないシャーマリスは先の内戦によって疲弊。
時が経つにつれ周辺国との摩擦は激化していき、亡ぶのも時間の問題かと思われた。
だがそんなある日。
とある列強国から縁談を持ちかけられたのだ。
国王である父から輿入れ先として告げられたのは、大陸を牛耳る大国フランシア。
祖国の数十倍もの兵力、経済力、国土で勝る同国とは長らく国交が無かった。
しかし近年になって状況は一転し、フランシアの融和政策に便乗して同国と同盟を結ぶに至った。
これにより相互に侵攻しない約束――いわゆる『不可侵条約』が締結された。
ここで話が終わってくれればよかったのだけど、同盟なんて所詮は書面上の約束。その気になれば一方的に破棄することも可能。
フランシアは条約の脆弱性を理由に、同盟を確固たるものにするべく『人質』を要求してきた。
――そう、政略上の婚姻を。