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第43話 厄災


「この番号?はなんだ。何かの製造番号かなにかか?」

国のトップである以上それなりの知識はあるものの、この文字列は分からなかった。するとまた、おどおどと説明を始める。

「えーとですね。まずこの文字列から説明しますと、正式名称-AN602-開発時コードネーム"Иван"(イワン)。広く知られている名前ですと、つ、ツァーリ・ボンバです」

「・・・・・すると、なにか?冷戦の産物をどこかに落とすとでもいうのか?」

「現在、2機のTu-160が離陸を完了し西へ進路をとっています。もちろん護衛機付で」

汗だくの小太りしたおじさんの説明を見かねたのか香川ろ同じぐらいの職員が取って代わって説明し始めた。

「解体費が出せず、格納庫に眠っていたのを引っ張り出してきたのでしょう。威力が当時のままならば50メガトン。強化済みであればゆうに100メガトンを越えます。現在、西へ向っていることから投下目標は、ドイツ・ヨーロッパのどこかでしょう。いずれにせよどこに落ちても被害は計り知れないものになります」

香川はしばらく言葉が出なかった。史上最悪の核兵器が恐らく2発、同盟国であるドイツに落とされるかもしれないのだ。

「ド、ドイツには連絡を」

「はい、入れてあります。現在占領中のモスクワ手前で防衛戦を築いています。我々は見守るしか・・・・」



数時間後・・・。


2機の内1機が高高度を加速しさらに西へ向い飛んでいた。

「目標、編隊を2つに分断、片方はさらに加速に西へ。もう一方は旋回し現空域に留まっています」

ピコン!という腑抜けた音と共に航空宇宙防衛作戦室のメインモニターにロシア語の文章が映り、女性の声が響く。

『こちら天照、例のTu-1602機の出撃コードを辿って指令書を見つけたわ。作戦名”母なる祖国”。モスクワ、ドイツ・ベルリン爆撃任務。戦力:護衛戦闘機Su-27:25機、MiG-29:20機、Su-35:15機、T-50:4機。戦略爆撃機Tu-160:2機。使用兵器-AN602-:2発。・・・・これが全容。香川総理、私達には手の打ちようがありません』

「・・・・・ただ・・・・傍観している事しか出来ないのか」

『仕方の無いことです、総理。今から追撃を行っても爆弾投下時刻には間に合いません』

「・・・・・あれは!富士の!あれでなんとかならんのか!」

『空中艦隊迎撃の時とは距離が違いすぎます。それに山岳が射線上に重なることが多いため大陸方面には・・・・・』

「・・・・クソォッ!!」


その後、モスクワ防衛線、ドイツ手前での迎撃、戦闘が行われた。しかしSu-27SM3やSu-35に性能と数で劣るタイフーンは無残に落とされた。現代では珍しい格闘戦に持ち込まれ、あっというまだった。

他にも、地対空ミサイルでの迎撃を行ったが、高度15,000m超を飛行するTu-160に届くことは無かった。


そして運命の時。

航空宇宙防衛作戦室のメインモニターに表示されていた時間が0で止まった。

遥か上空、カチン、という金属音と共に遠く離れた2箇所で計2発の爆弾が投下された。

投下後、その爆弾は減速用パラシュートを展開。落下速度を緩めていった。投下した爆撃機とその護衛はアフターバーナーを点火し一気に北上。爆発の被害の及ばない安全圏へ離脱していった。

高度10,000mに到達した爆弾はパラシュートを破棄。落下速度を速めていった。


そして、高度5,000m。信管作動。その該当2箇所は光と熱に包まれた。



「・・・天照との通信回復。爆心地の映像来ます」

誰も声が出なかった。

観測によると火球は直径16,000mを超え、爆発により生じたキノコ雲は現時点で50kmを超えた。致死半径、被害半径は計りきれず、モスクワ、ベルリンは蒸発し巨大なクレーターが形成されていた。



同時刻、横須賀基地。

自身の艦橋頭頂部にて整備の様子を眺めていた長門は、違和感を感じた。

「大気が震えている・・・・?」

よっ、と艦橋を蹴って数十mを飛び降り41cm連装電磁投射砲の上に着地した。そして岸壁でなにやら携帯で話している拓也に駆け寄る。

「ーーはい、はい。失礼します。・・・」

「どうした?拓也。それとな、今さっき」

そこまで言ったところで、拓也に言葉を遮られた。

「あぁ、分かってる。ロシアがやりやがった。これが現在のモスクワとベルリンだ」

そう言って長門に先程、航空宇宙防衛作戦室に映っていた2枚の衛星写真をタブレットに映して見せる。

それを見た長門は思わず後ずさる。

「ベルリンって・・・何かの冗談だろ?確かドイツに中心都市だったよな?」

「あぁそうだ」

「これはただの更地じゃないか・・・・何かの間違いだろ、なぁ」

「真実だ。現在ドイツ政府は壊滅、都市機能は完全に沈黙、事実上ドイツは・・・もう・・」

いや、でも、そんな。と目の焦点を合わすことが出来ず、ぺたんとしりもちをつく。

「欧州連合が核報復を決定。ロシアは滅ぶ。世界は3次大戦から核戦争へと確実にシフトしている」

長門は地面にへたり込んだままだ。

「そこでだ、日本政府は現行の米政府に対し講和は無意味と判断、無条件降伏のみを目標として一気に攻勢に出る。今、太平洋はもぬけの殻だ。米軍がハワイから引いたことが幸いだった」


しゃがみ、長門の顎を掴みクイッ、と上げ目線を合わせる。

「本土攻撃だ。先達のなしえなかった夢を、果たそうじゃないか。この日本には勇敢な人間がいたことを忘れてはならない。一度自らの手で荒らしてしまった世界だ。また次の世代の為に俺達で平和を築こうじゃないか」

涙を流しむせび泣く長門の頭をポンと叩き、一言、大丈夫だ。と言い残し、最後の命令を正式に受ける為に執務室へ向った。



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