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第41話 未知への恐怖

恐怖の表現が難しい・・・

小笠原諸島より500km 

米別動艦隊 戦艦1、巡洋艦3、駆逐艦6、強襲揚陸艦3、その他艦艇多数


日本時間0551。ようやく日が差してきたその海域にいるのは戦艦アイオワ率いる隠密強襲艦隊だ。


徐々に明るくなる水平線をアイオワ艦橋から眺める艦長。

「今のとこ気付かれた様子は無いな。CIC艦隊周辺に艦影及び機影は?」

『いえ、何も。ですが前方の濃霧、降雨のせいで前方は良く分かりません』

「そうか、対潜警戒のヘリを数機前方へ飛ばせ」



この時海の下ではこんな会話が交わされていた。

「艦長。米艦隊捕らえました」

「よし、本部からの指示だと何もしなくてもいいらしい。ただ攻撃された際は全力で反撃せよとの事だ。姿を晒せばいいらしい、あっちはこの伊601を知らないからな」

「姿を晒す、ということは海面浮上・・・ですか?」

「いやいや、それはただのアホだろう。海面付近まで浮上して艦影を晒すんだ。いっちょやりますか。アップ25°、深度25mへ。これだけなら戦艦の高い艦橋からなら見えるだろう」

潜水艦だとどこでもそうだと思うが、長い期間この密閉空間で過ごす為乗組員同士の仲が非常にいい。それは艦長も含めてだ。特に伊600型潜の乗組員同士は家族同然だった。



場所は戻ってアイオワCIC。

そこに突然通信が入る。

『ダリル4よりアイオワCIC!艦隊7時時方向より海中から何かが接近中!』

唖然とした通信担当が慌てて聞き返す。その様子を見て周囲の注目が集まる。

「何かってなんだ!潜水艦か!?ソナーに反応は無いぞ!!」

『いえ・・・潜水艦にしてはでか過ぎます。目算ですが・・・・ヤマトクラスに迫るでかさです・・・』

その返答を聞いたCICが凍る。

「と、とりあえず艦長に知らせろっ!」

その知らせを聞いた艦長は艦橋を走り後方が見える位置に行き報告通り7時方向に双眼鏡を向ける。

そこには真っ青な海面の下を何か黒いものがこちらへ向ってきていた。

確かに潜水艦にしてはでか過ぎる・・・。なんだあれは・・・。

目の焦点を定められず己の持つ知識を漁っていると、後ろから声が聞こえた。

「艦長!CICがこのようなものを」

そう言って海兵が見せたタブレットにはいくつかの資料と写真が2枚映っていた。

そこに映っていたものはイギリス軍の偵察報告の資料だった。写真は偵察機か衛星から撮ったものだろうか、少々粗いが北の黒い海にはっきりと映った真っ白な物体だった。こちらも巨大で資料には約300mと書いてある。資料によると現在イギリス軍はこれを”クラーケン”と呼称しているらしい。まぁ実際は独後方火力支援に向う伊600なんだが。

そんなことはつゆ知らず。

「ク、クラーケン・・・そんなものがいる訳・・・」

無意識の内に頬が痙攣する。

「誰かこれを納得できるよう説明してくれ・・・・・」

そうこうしているうちにその黒い物体は戦艦アイオワの真下に差し掛かる。その音も無く過ぎ行く不気味さに艦橋にいるものはただの一人も動けずにいた。甲板には発狂し備え付けの機銃で海面を乱射する者も出る始末だ。


ーこれで恐怖は終わらないー


またも凍りついたCICに途切れ途切れの通信が入る。対潜哨戒ヘリからだ。

『こちら・・・ダリル7・・・・前方の霧の中に巨大な影を確認・・・・」

その通信を通信担当の横で聞いていたレーダー員が慌てて機器に目を戻す。とそこには・・・


何も無かった。正確には艦隊を囲むようにある濃霧と味方艦艇のみしか映ってなかった。

前方には何も無い・・・。

そう返すがヘリからの応答はない。

先の黒い物体と言い今回の前方の正体不明の巨大物体。

もう艦橋、CIC、甲板、他の艦は壮絶なものだった。目を閉じ十字を切り祈るもの。訳の分からない奇声を発し走り回るもの。隅でガタガタ震えるもの。神にすがるもの。

すると、CICにいた一人が機器を振るえる手で操作した。

アイオワの第1砲塔が稼動し始め、仰角を取り、発射。

米海軍が開発したレールガンが実戦で初の発射をした瞬間だった。発射時第1砲塔甲板付近にいたものは発射の放電で見るに耐えない(むご)い死を遂げた。

一発の砲弾が前方の巨影へ向け飛んでいく。が何も起きない。


直後


アイオワ前方10kmを飛行していた巨影発見の知らせを入れた対潜哨戒ヘリが青白い”光の槍”に貫かれ撃墜された。

それまで、知識的恐怖で満たされていた心に生存欲求と言う本能に起因した肉体的恐怖が芽生える。その変化が人の心を暴走させ各艦絶叫しながら全砲門一斉射を開始した。

はぁはぁ、とレールガン、実弾系銃器の砲身、銃身が発熱しシューと音を立てるまで連射し終えた米艦隊全員が濃霧の立ち込める前方を見据える。


霧の中が青白く光った。するとその”光の槍”がアイオワの横を航行していたイージスミサイル巡洋艦レイク・エリーの艦橋に穴が開ける。その着弾部円周はオレンジ色になっていた。そのコンマ数秒後爆発を起こし艦橋が消し飛んだ。どうやらオレンジ色に見えたのは金属が溶けたものらしい。

またも発狂しがむしゃらに撃つがあたっているのか分からない。


ずっと艦橋で立ちつくしていたアイオワ艦長がようやく口を開いた。

「て・・撤退だ・・・。こんなものに・・・勝てるわけが無い・・・・」

それを辛うじて正気を保っていた水兵が撤退!撤退!と叫ぶが艦隊はもうぐちゃぐちゃだった。

アイオワ以外の艦は指揮系統が壊滅。士官は逃げ出しただ砲撃をする動きもしないただの浮かぶ砲の着いた鉄の塊になっていた。

アイオワは他の艦を文字通り押しのけながらその巨影から機関の出来る限りの速力で逃げた。


艦長は後ろは振り返りはしなかった。

その光景はただの一方的な殺戮と化していた。捕食者が被捕食者を貪り食うような殺戮・・・・。




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