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ユーマ探検隊の冒険



 今日もお父さんの授業が終わってから、空き地で遊ぶことにした。

 またぐんにゃりして気分が悪くなるのは嫌だから、魔力の使いすぎには注意しなければ。


「今日はなにをしよう」


 ふぬぬ、一人だとやることも限られてしまうなー。


「……今日は指輪であそぼっかな」


 使いすぎなければいいんだもん。

 ご利用はほどほどに、だね。


「なにしよう?」


 やっぱり上手く使えるようになりたいなー。


「そういえば、どんな能力があるんだろ……」


 指輪そのものの使い方は分かったけど、どんな能力が付けられるのか知らないや。

 ……どんなのがあるんだろ。試していくしかないかな?


 ――よし。


「とりあえず石ころでいっか。よいしょっと。初めは……そうだなー」



[対象指定:石ころ]

[能力変化:燃える]



「うん、これで出来るかな? ま、試せばわかるさー」


 ところが石ころに魔力を込めようとしたが、込めることは出来なかった。

 これはつまり、能力の付与が出来ていないことを示している。


「んん? ダメかな。……言葉の問題なのかなー」


[対象指定:石ころ]

[能力変化:追いかける]


 もしこれで駄目だったら、完全に言葉の問題になるよね。

 追尾で出来たんだから、追いかけるで出来るかどうか。それが問題だー。



 …………


「――あー、ダメだー。言葉次第ってこと?」


 ってことは、もっと頭をつかわないとダメなのか。

 ……え、ほんとに? いやだなー。


 燃えるって言いかえるとなんだろね。

 『ぼーぼー燃えるぜ』とか?


 ……燃焼ですね、はい。



――――――――――

 対象指定:石ころ

 能力変化:燃焼

――――――――――



 あ、上手くいった。

 そっか、そもそも成功すれば指輪が光るんだ。


「よーし、さっそく魔力を込めてー」


 魔力が体から抜ける感覚があってすぐ、右手にある石ころがぽわわーんと輝きだした。

 それと同時に、自分の中にスイッチが現れる。


「それじゃあ――」

「――ちょっとまって! ユーマ、ダメ!」


 この声は、トアだ。


 声が聞こえた方を見ると、両手両足をばたばたさせて走るトアの姿がありました。

 なにか慌てているようにも見える。


「おお、トアだ。どうしたの?」

「どうしたの、じゃないよ! 自分ごと燃えるつもり!?」


 ……おお? 自分ごと?


「あー、ほんとだ。このままだと手が燃えそーだね」

「石が燃えるのはいいけど、ユーマが燃えちゃダメ!」


 一生懸命とはトアのことですね、分かります。

 ふっふっふ、おれのお友だちだからね。


「うん、ありがと。……っていつから聞いてたの?」


 なぜにそこまで分かってるんだろ?

 まるで初めから聞いてたかのような……。



「……え。あ、その……はじめから……」

「お? つまり、おれが来る前から空き地にいたの?」

「う、うん。……あはは」


 おお、これは照れ笑いか?

 顔が赤いぞ?


「ま、いっか。よーし、遊ぶぞー」

「あれ、石はもういいの?」

「あ、燃えるところ見たい……」


 せっかく作った燃える石ころだもん。

 燃えるところが見てみたいじゃないか。


 というわけで、トアの忠告に従って地面に置いて燃やすことにした。



「――よーし、今度こそー。燃えろぉー」


 スイッチを切り替えた瞬間、シュボッっという音とともに勢いよく炎が上がる。

 赤く燃え上がるその炎は、おれやトアの身長を超えるほどに高く揺らめいた。

 あたりを一層明るく照らしだし、その熱は少し距離のあったにも関わらず肌にチリチリと感じられた。


 初めて見る大きな炎。

 その迫力を感じて、おれは胸がどきどきして止まらなかった。

 時間にしてみればほんの数秒の出来事だったけど、その光景はおれの目にしっかりと焼きついた。



「――す、すげー!」

「……うん! ビックリした!」



 こんなに燃えるなんて思ってなかった。

 もっと小っちゃく燃えるもんだと思ってたのに……。

 しかも、持ったまま使ってたら本当にヤバかったね。


「今度から気をつけて使うことにします、はい」

「……そうだね、気をつけようね」


 周りにもっと気を配れるようになりたいです。

 以上、まとめ終わり!



「――というわけで、遊びにいこー」

「あ、うん。――ユーマ、あの……」

「ん? どうしたの?」

「その……冒険に行ってみない……?」


 ……ぼうけん?

 何そのワクワクする単語。


 でもトアがそんな事を言い出すなんてちょっと意外かも。



「ちょっと行きたいところがあるんだけど、一人だと不安で……」

「へえー、どこどこ?」

「……魔法花を取りに外まで」



◆魔法花……花弁に多くの魔力を含んだ植物の総称。摘み取ってから数時間で魔力が失われる。


 おー、魔法花かー。

 外ってつまり街の外だよね。


「そういえば魔法花って何に使われるの?」

「――え? 回復薬の材料にもなってると思うけど……?」


 ……うそだ。おれは信じない。

 っていうか回復薬の作り方まだ教わってないや。


「そんで、トアは何に使うの?」

「あ、ぼくじゃなくて……おつかい頼まれちゃったんだ」


 おつかい、だって……!?

 やっぱりいい子だね。


「でもいつものとこに売ってなくて……」


 まあ、売ってるところの方が少ないのは仕方ない。

 うちの店にも置いてないからね。 


「そっか、じゃあ取りに行こーか」

「ほんと!? あ、あの……ありがと」


 トアの声が少しずつ小っちゃくなってくよー。

 ふっふっふ、最後までちゃんと聞こえたけど。


「ううん、いいのだよー。こっちこそ、色々ありがとね。感謝してるよー」

「――え?」


 驚くようにおれの顔をみたまま停止したトアだったが、みるみる顔が赤く茹だっていく。


「トアの顔が真っ赤~!」

「うぅ」


 なんだろ。見てるとほんわか和む。

 このまま放っておくとどうなるか気になるけど、再起動させなくちゃ。


「さてさて、さっそく外に行きますかー。ほら、置いてくよ?」

「ええ!? ち、ちょっと……」



 すたすた歩き始めたおれを追いかけるように、トアはあたふた走るのでした。

 何も言わずに外に行くと怒られるのは目に見えていたので、道具屋うちに戻って声をかけてから行くことにした。

 ……もちろん、トアも一緒に連れて行きました。



 トアと一緒にお店の入り口をくぐると、丁度お母さんがカウンターで接客しているところだった。

 こういう時はお客さんとの話が終わるまで待っているように言われている。


 お母さんが話をしているお客さんは、どこか不思議な雰囲気を纏っている男の人だった。

 すでに春にさしかかり、温かい日が続くようになったにも関わらず肌の露出はかなり少ない。

 手の先でさえグローブで覆われているのだから、もはや異様と言ってもいい程だった。


 その中でも更に異彩を放っていたのが、左に佩いていた一振りの剣。いや、剣と呼べるかどうかさえ怪しいモノだ。

 というのも、柄(剣を持つ部分)は両手で持てるだけの長さがあった。そして――刃を持っていなかった。


 ここでふと、隣の気配が薄いことに気付いた。周りを見渡してみると、トアがいなくなっていた。

 すかさず入口の方を見ると、トアはいつの間にか外からこちらを覗いている。


「おーい、トアー。はやく戻ってこーい」

「……え、いや……ぼく外で待ってる、よ?」


 うむ、トアは恥ずかしがり屋さんだなー。

 ついでにお母さんにも紹介しておこうと思ったのに。


「あら、おかえりユーマ。今日は早かったのねえ?」


 気付けばあの男性とお母さんの話は終わっており、商品を受け取った男性はそのまま外へ出て行った。



「ただいま、お母さん。えっと、ちょっと遊びに行ってくるね~」

「あらあら。ふふ、帰ってきたと思ったらすぐ遊びに行くのね」

「ふっふっふ、お友だちと一緒なんだよー」

「あら、お友だちが出来たの!? 良かったじゃない!」


 おー、なんかお母さんも嬉しそう。

 ふむむ、やっぱりトアを紹介しときたいなー。


「お母さん、ちょっと待ってて」

「はいはい、待ってますよー」


 正攻法だとトアを紹介するのは難しそうだからね、ここで1つ策を講じるぜー。

 お母さんにこっそり耳打ちしてから、おれは真っ直ぐ入口へと向かった。

 そこでおれが見た光景、それは――入り口のすぐ横でうずくまり、耳まで真っ赤に染まったトアでした。


「トアー、ちょっといい?」

「……ダメ! 絶対ダメ! 無理だからぁ!」

「まだ何も言ってないんだけど……?」

「うぅ……お母さんに会わせるつもりでしょ?」


 どうやら先ほどの会話をばっちり聞かれていたようだ。


「絶対にいや? どうしても?」

「……いや、じゃないけど……」


 しどろもどーろにも困ったもんだねー。

 はあ、こうなったらお手上げかな――なんて言うわけは無いんだけど。


「『引いてダメなら押せばいいじゃん……』って言葉、知ってる?」

「――え?」


 おれがお父さんから教わった言葉。

 ダメなときは方法を変えてみると上手くいくんだぜって意味らしいです。


「――というわけでお母さん登場!」

「え? ……ええ!?」


 トアからじゃなくてお母さんが会いに来るっていうね。

 これならトアも逃げられない。


「じゃじゃーん。ユーマの母です。いつもユーマがお世話になってます」


 おれの言葉に反応して、お店からお母さんが顔を覗かせた。

 びっくりした顔で口を開けたままのトアだったが、状況が理解できるとすぐにワタワタし始めた。


「ふふ、緊張してるのかしら? これからもユーマと仲良くしてやってね」

「あ、あの……こちらこそ、よろしくお願いしましゅ…………」



 …………


 …………


 …………



「噛んだ」

「噛んだわねー」


「……うぅ、噛んだぁ……うわぁあ」



 トアが顔を真っ赤にしたまま、どこかに走り出してしまった。

 なんか同じような光景をどっかで見たような……?


「ふふ、あの子、とってもいい子ね」

「トアはおれのお友だちだからね! あげないからね!?」

「もらわないわよっ! ……ふふふ、帰ってきたらお話する必要がありそうね?」


 あれ、お母さんがまた笑ってるよ?

 お母さんが笑ったその瞬間、お店の奥にいたお父さんの肩がびくんと動いたように見えたけど……気のせいかな?


「うん、お話するー。じゃあ行ってきまーす」

「……はあ、日が暮れないうちに帰ってくるのよー」


 そうだね、ご飯が待ってるからね。

 お母さんの声を背に受けて、おれは外へ飛び出した。


 まず、トアを探し出さなければ。

 そう思っていたけど、案外すぐに見つけられた。

 ……というか、向かいの空き地にある木の後ろからこっちを覗いてた。


「ほらトア、いくよー」

「……うぅ……うん」


 この調子だと日が暮れてしまう。

 トアが魔法花の群生地を知っているとのことなので、とりあえず北に向かって歩き始めた。




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 街の外へ出るには東西南北に設えてある門を通らなければならない。

 頻繁に人の出入りがあるのもあって、ひとりひとり検問するなんてことはしない。


 街の外に出ると、延々と続く道が幾筋にも分かれていた。この道を辿っていけば、きっと見たことのない街に着くのだろう。見たことのない光景に出会えるのだろう。

 爽やかな風を浴びながら、おれはそんなことを考えていた。



「トア、魔法花のとこまでどれくらいかかるー?」

「えっと、そんなに遠くはない……かな。この速さなら10分くらい」


 うん、そっか。それならいいんだけどさ。

 ……目の前に広がってるのが山じゃなかったら、もっと良かったんだけどさ。


「道がでこぼこしてきたー」

「気を付けて歩かないと転んじゃう……」


 でっこぼっこ。ぼっこぼっこ。


「うわっと。これぞケモノ道だね」

「……け、けもの!?」


 トアの顔が青白くなってく。

 赤くなったり青くなったり忙しい子ですなー。


「大丈夫でしょ。この山にケモノなんて……いないよね?」


 ……え? いないよね?

 街の外のことなんて何も知らないけど。


「……ぼく何も考えてなかった。もし魔物とかいたら……どうしよう!?」


 おお、今度はワタワタし始めた。

 もし魔物が出てきたら……うん、たしかに困る。


「そういえば魔物って……動物なの?」

「え……そうだよ? 魔力を持った生物を総称して魔物って呼ぶんだけど」

「へぇ~、じゃあ人間も魔物だねー」

「……たしかに」


 おれらも魔物だったかー、びっくり。

 ふっふっふ、面白いかも。おれ魔物だぞー。


「魔物ユーマ……いいかも」

「……いいの?」


 え、普通によくない?

 なんかかっこよくない?


「ふっふっふ、魔物が来ても返り討ちにしたりされたりするから大丈夫!」

「されたらダメ!」


 ん? そっか、されたらダメか。

 じゃあ返り討ちにしてやるー。


「でもユーマ、どうやって返り討ちにするの?」

「え? ………………さあ?」


 おう、何も考えてなかった。

 ま、指輪があるから何とかなるよね。


 ……え? なるよね? ……念のため何か作っておこうか。



「トア、ちょっと待って……あの枝でいいかな」


 おれは道のわきに落ちていた枝を拾い上げた。杖として使うにはあまりに短いが、今回はそれで十分である。

 すぐさま指輪に魔力を送ろうとしたところで、おれは動きを止めた。


「……あー、なに付けよう?」

「その枝に能力付けるの? ……何がいいんだろう」


 どうしようかなー。さすがに燃焼はやめた方がいいのは分かる。

 だって周りに木とかあるし、火事になったら困るし……。


「ねえユーマ、放電ってどうかな」

「おっ、雷かー。いいかも……!」


 さっそくおれは指輪に魔力を込めて言葉を紡いだ。


――――――――――

 対象指定:枝

 能力変化:放電

――――――――――


 指輪がほのかに輝き、そして失われる。

 これはすなわち能力が付与されたことを意味する。


「おお、できた! ……やっぱり一回は見ておかなきゃね?」

「う、うん。いいと思う」


 できあがったばかりの『放電』の枝に魔力を込める。

 魔力に反応して微かに輝きをみせた枝を掴んだまま、おれは内にあるスイッチを切り替えた。

 しかし――


「……なにも起きなーい」


 光ったんだから魔力は込められたハズなのに……。

 うーん、なんでだろ?


「……ごめん、ユーマ。放電じゃダメかも」

「え、なんで?」

「放電とは、溜まっている電気を放つこと。だからまず電気を溜めないとダメだと思う」

「そうなのか、むずかしいなー」


 つまりまず電気を溜めないと使えないっと。


「どうやって電気溜めればいいんだろ?」

「……ぼくもまだ雷魔法は使えないから……」

「もしかして無駄なモノ作っちゃった?」

「えっと、別の枝とかに『蓄電』を付与してみれば……どう?」


 ちくでん……?

 なに、どういう意味?


「……蓄電ってなに?」

「蓄電とは、電気をたくわえること」


 ふーん、上手くいくかな?

 やってみるしかないか。


「ちょうどいい所にいい大きさの石ころが……」


 道端に落ちていた石ころを拾い上げて、指輪に魔力を込める。

 魔力が抜け出る感覚があったが、まだまだ魔力不足は気にしなくても大丈夫そうだ。



――――――――――

 対象指定:石ころ

 能力変化:蓄電

――――――――――



「よっし、できーた。早速いくよー」


 『蓄電』の石ころに魔力を注ぐ。

 すぐさまスイッチを切り替えて能力を発動させた。


 ――ジジジッ


 電気特有のくすぶるような音がした。そして――おれの髪の毛が逆立った。



「うおっ! なにこれ!?」

「うわあ……」

「……もしかしておれに溜まったんじゃないかー?」

「みたいだね」


 これ使い方が難しいんじゃないだろか。

 どうやったら枝に電気が溜まるかな?


「……ユーマ、もう着いた」

「まじかー」


 あれこれやってる内に到着してしまった。

 目の前には赤や青、黄色や紫などの彩り豊かな花々が、天を仰いで活き活きと一面に咲き誇っている光景が広がっていた。


「うわー、すっげーなー」

「うん、キレイだね」


 ただ問題がひとつあった。それは場所の高さが違うということ。花が咲いている場所は、いまおれらがいる場所よりも5mほど下にある。



「どこか降りられるところを探そっか」

「そうだね。……ユーマ、てっきり飛び降りるとか言うのかと思った」


 それはない。


「それじゃ、捜索かいし~」

「おー」


 おお、意外とノってくれる。やっぱり良いやつです。


 そのままふちに沿って左右を調べていった。

 魔法花はすぐ目の前にあるのに、そこに辿りつく方法が見つからず時間だけが過ぎていった。

 そして、一周して初めの位置まで戻ったことに気付いた。



「どこからも降りられない……」

「トア、ちょっと飛び降りてみる?」

「いや!」


 この子は否定ができる人間に育ったみたいです。

 よかったよかった。


「まあ飛び降りたとしても、そこから登る方法がないからねー」

「分かってるなら言わないでよ……」


 うむ、それは置いとくとして。

 せっかくここまで来たのに何とかなんないかな?

 指輪のちからを使って……。


「トア、指輪使えば何とかなんないかな?」

「うーん、でもなんの能力を付与するの?」


 それが問題なんだよね。

 どうすれば下まで行けるか。


「分かった! これならいけるかも」

「ユーマ、なにするの?」

「ふっふっふ、地面を掘ればいいんじゃないだろうかー」


 おれすげー。

 頭いいなー、とくに形が。


「……地面を掘るの?」

「そーそー。どうかな?」


 下に咲いている花の場所まで行くには、まずこの高さをどうにかしなくてはいけない。

 崖のように直角というわけではなく、とてつもなく急な傾斜になっている。だから地面を掘ることで、より緩やかな傾斜を作りだそうというわけだ。


「けっこう大変だと思うよ?」

「そうかな?」

「うん。たとえば落差が5メートルとするでしょ? そして傾斜を30度にするとして、通るための幅を1mとする。このとき……」



 ……トアが意味不明なことを言い始めた。なんか頭の中で計算してるようだ。

 そして10秒ほどして再び話し始めた。


「およそ22立方メートル掘らないといけない。これじゃ日が暮れちゃうかも」

「ソウダヨネー。……まじかー」

「あ、でも一辺が1メートルの階段状に掘っていけば10立方メートルで済むよ」

「……デスヨネー」


 トアさん、まじすげー。

 なに言ってるかさっぱり分かんないけど、なんかすげー。


「別の方法を考えます、ごめんなさい」

「……ユーマ、誰に謝ってるの?」


 誰って……強いて言うなら自分に、かな。


「いっそのこと空を飛ぶとか……?」

「良いとは思うけど、魔力不足は間違いないかな」


 あー、そうだよね。

 多分だけど、飛んでる間はずっと魔力を使わなきゃいけないよね。

 ……そんなのムリ――って


「――ああ、そっか。二人とも降りる必要はないんだよね?」

「あ、確かにそうだね。ひとりだけでも降りられればいいと思う」

「じゃあさ――」




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 運ぶための布やらカゴを持ってきてなかったため、服のすそを掴んで引っ張り、そこに魔法花を目一杯のせた。

 無事に採取できたおれらはそのまま帰路につき、エンゼルシアにある我が家へと帰って行った。



「じゃっじゃじゃーん、これなーんだ?」


 裾の上に乗っかっている色彩豊かな花々が、仄かに甘い匂いを店内にばらまいた。

 煌びやかに輝く花弁がすれ違う人の目を奪う。


「こらユーマ、帰ってきたら『ただいま』でしょ? そしてキレーだから許します」


 帰ってきて早々お許しを頂いたおれはお母さんに戦利品を渡した。

 まだ採れたての魔法花は、その花びらにたっぷりと魔力を含んでいる。


「……ユーマ、帰ってきたから約束通りお話しましょうか」

「お話? うん、するー」

「というわけで、あなたー? カウンターよろしくお願いしますねー」


 お母さんが奥で作業をしているお父さんに声をかけた。すぐに返事が返ってきてお父さんが姿を現す。


「おーう、別にかまわんが……どうした?」

「……ちょっとユーマとお話してきますね」

「お、お話……!?」


 なんかお父さんが驚いてる。どうしたんだろ?

 あっ、さてはお父さんもお話したいのかな?


「お父さんも来るー?」

「えっ!? いや……お、俺は店番する。……ユーマ、頑張れよ」

「うん……?」


 お父さんがなんか青くなってる。

 よく分かんないけど頑張ってお話するかー。


 どたばたすると怒られるから静かーに歩いて居住スペースへと赴いた。

 畳のあるお部屋です。他の部屋にはない良い匂いがします。


「ほら、座りなさい」

「座るー」


 促されるままにあぐらを掻いて座った。

 どんなお話をするのかワクワクだね。お父さんも一緒に聞けばいいのにー。



「さてユーマ、まず言いたいことはありますか?」


 お母さんがすごくニコニコしている。なにか嬉しいことがあったに違いない。

 なにか言いたい事……って言われても特にない、よね?


「えっと……ただいま……?」

「違います」


 帰ってきたらただいまでしょ。


「じゃあ……お腹空いたー」

「……真剣に答えないとご飯抜きです」


 なんでっ!?

 このままではご飯抜き!? そんなぁ!

 こういう時は取りあえず――


「ご、ごめんなさい……」

「……はい、分かればよろしい」


 一体なんのことだろう。分かってないんだけど。


「まず細かいことは置いといて、魔法花を取りに行きましたね?」

「……うん、行ってきた」


 うう、お母さんが敬語つかってくる……。

 笑ってるのになんか怖い。


「それ自体は良しとしましょう。ですが、それはつまり外へ出たということですね?」

「……うん、北の山まで行ってた」


 おれの言葉を聞いたお母さんは頭に手を当ててため息をついた。ほんの少し気難しい沈黙が流れ、その間お母さんは同じ体勢のまま静かに目を閉じていた。


「……お母さん?」

「ユーマ、勝手に外へ出ることはいけない事だと教えませんでしたか?」


 うっ、なんか言われたことがあるような……。

 でもでも、ちゃんと行く前にお母さんにも言ったよね……?


 ……あ、しまった。

 遊びにいってくるとしか言ってない気がしてきた。



「……ごめんなさい」

「外へ出れば安全は保障されません。いつ魔物が襲ってくるかも分からない上に、まだ戦い方を知らないあなたが生きられる世界ではないんです」


 うう、思わず涙目になってきた。

 あと2分ほどこの状況が続けば、おれは泣ける自信がある。


「魔法花は流通量が少なく、また管理が難しいものです。それを取って来てくれたことに関しては本当にありがとうという気持ちです。でも――」


 言葉が途切れ、沈黙が流れた。

 ふと顔を上げてお母さんの顔を見てみると、その双眸には涙が浮かんでいた。ここまで来ておれはようやく、とても大事な話をしていることに気付いた。そしてどれだけ心配させたのかも。



「……でもね、ユーマ。あなたは世界でたった一人の大切な息子。私たちのかけがえのない家族……。大好きなユーマがいなくなるのは、想像するだけでも耐えられない……」


 お母さんの両の手は拳を握って膝に置かれており、両の目は真っ直ぐ見開かれていてその視線はおれを射抜いた。溢れる涙を拭うことなく、零れた涙は机の上に数滴の雫を残す。


「……ごめんなさい、おかあさん」


 考えるよりも先に、言葉が出た。心の底から反省した。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 そして――手の甲で雫が弾けるのを感じた。なんだろうと思って下を向くと、さらに数滴の雫が零れ落ちていった。


 ああ、そういうことか。

 濡れる頬を袖で拭って、目のふちを掌でごしごしと擦った。じゃりじゃりと砂を感じて袖を見てみると、茶色ずんでいて砂塵が付着している。どうやら山で動き回っている間に汚れてしまったらしい。袖だけでなく裾や襟も土やら何やらで汚れていた。拭ったハズの涙が再び溢れようとしている。


「ユーマ、分かった?」

「……うん…ぅん…ぐすっ……わかったぁ…」


 まさか本当に自分が泣いてしまうとは思ってもみなかった。泣き止もうと思っても勝手に涙があふれてくる。自分の意思と乖離して、おれはしばらく泣き続けた。なんでこんなに泣いてるんだろうと思いながらも涙は止めどなく流れた。


「さっ、お話はおしまい。ほらユーマ、泣かないの」



 まるで赤子をあやすように慰めてくれる。

 頭をなでなでしてくれるけど、それでも涙は止まらなかった。





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 どうやらあのまま泣き疲れて眠ってしまったようだ。

 目が覚めるとそこはいつもの寝床で、ちゃんと服も着替えてあった。


「……ふう」


 窓からは光が射しこんでいて、どちらかと言えば昼に近い。ずいぶんと眠っていたようだ。

 おそらくすでに開店していて、お母さんもお父さんも働いているのだろう。そう思いながらリビングへ向かった。



「あら、おはよう。よく眠れたみたいね」


「あれ? うん、おはよ」



 お母さんがリビングにいた。てっきりカウンターで接客してると思ったんだけど……。


「なんか不思議そうな顔してるけど、今日は定休日よ?」


 お母さんは呆けたおれを見てクスクス笑いながら朝ご飯を準備し始めた。 

 そっか、今日は定休日だったんだ。


 というかこのお店、定休日あったんだ。今まで知らなかった。



「そういえばお父さんは?」


「お父さんは仕事部屋に籠ってるわよ。ユーマに『ご飯食べたら来るように』って言ってた」


 

 仕事部屋に……?

 いつも通り授業する……んだよね、きっと。


 ま、よく分からないけど取りあえずご飯食べよー。



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