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指輪のちから


 おれの家は道具屋さん。色んな道具を売ってるお店。

 変な緑色の液体から変な赤い石ころまで、道具なら何でも売ってる……ような気がする。


 でもまだ道具の作り方とかは何も教わってない。まだお前には早いってさ。


 あまりにやることがないからお外で遊ぶことにした。

 遠くまで行かないようにって言われてるから、家の向かいにある空き地で遊ぼっと。



「おおー、やっぱりきれーだなー」


 空に掲げた指輪が太陽の光を反射して金色に輝いている。

 ちょっぴり汚れてるようだけど、それでもピカピカしてる。

 きれーな指輪だなあ。


 これはこの前、家にある地下室を探検してるときに見つけた。

 なんかお父さんもお母さんも不思議そうな顔してたけど、なんだったんだろ?


 ……ま、いっか。


 これはいいものをもらった気がする。

 もっときれーに磨いてみよっと。


「よっしょっと、ごしごし」


 おお、ちょっときれーになった。

 さらにピカピカしてるぜー。


「ういしょっと、ごしごし」


 うおー、もっとピカピカしてきた。

 やっぱりきれーだなー。


「……あ、やば。」


 しまった。

 指輪がきれーになったのはいいけど、服を汚しちゃった。

 お母さんに怒られる気がする、まずい。


「……ま、いっか。」


 こどもは遊ぶのがお仕事なんだって言ってたもんね。

 指輪は……右手の人差し指に付けとこ。


 さーて、あそぼー。

 ……っていっても、何しよう。



「うぬぬ、やることないかも……」


 1人であそべる遊びってあんまし無いよね。

 まわりを見渡しても木が何本かあるだけだし……。


 おっと、石ころ発見。

 うん、的当てでもしよっかな。


 こっから……あの木でいっか。


 おれは地面に落ちてた石ころを拾った。

 絶対に当ててやるー、と意気込みながら大きく振りかぶる。

 そして石ころが指先から離れて――


 ――大きくすっぽ抜けた。



「あれ? ちがうとこに飛んでってしまった。」


 それから何回も投げてみたけど、上手くいかなかった。

 そして再び変なとこに飛んでいってしまった石ころを拾い上げる。


 うーん、思ったよりむずかしっ。

 なんとか当てたいなあ。というか絶対に当ててやるぜー。


 そう強く思ったとき、急に指輪がほんのりと淡く輝きだした。

 それと同時に、頭に言葉が流れ込んでくる。



[対象指定:石ころ]

[能力変化:追尾]



「なんだろ……? しゃべればいいのかな?」


 すーっと息を吸って、ゆっくりと吐く。

 深呼吸をして、気分を落ち着かせた。



「対象指定:石ころ、能力変化:追尾」


 ……数秒待ってみたけど、何も起こらなかった。

 何なんだー、と思って右手で握っていた石ころを見てみると――


「……ただの石ころです、分かってます。……あーあ」


 ――まったく変わりのない石ころでした。

 てっきり石ころがこう「ズガガガ、ピカーン」と変化するのを期待してたのに。


「――ってあれ? 指輪がピカーンってなってる……」


 なんだろ?

 指輪がうっすら輝いてるよ。

 ふっふっふ、きれーだねー。


「お母さんにも見せてあげよっ。ゆーびわー」



 家に帰ってお母さんを探します。

 すると、台所でご飯の準備をしていました。


「見てみてー。きれーでしょー。きれーでしょー」

「あらあら、キレイねえ。――なんか見覚えのある光だけど……なんだったかしら?」

「ふっふっふ、でもあげないからね。おれの宝物なんだもん」

「ふふ、いいわねー。宝物だったら大切にしなきゃダメよ?」


 大切にするー。

 だって宝物だもん。


「あ、お父さんにも見せてあげよっと。どこにいるんだろ?」

「お父さんなら、仕事部屋にいるわよ。お仕事の邪魔にならないようにね」

「うん、わかったー」


 仕事部屋か。

 ってことは何か作ってるんだね。


 ……見たいなあ。何作ってるんだろ。





 ――コンコン


「お、ユーマか? 入ってもいいぞ」


 この部屋はノックして入るようにって言われてるからね。

 ちゃんとノックしました。えらい。


「じゃじゃーん、ユーマ登場!」

「はいはい。それでなにかあったのか?」

「うーんとね、指輪がピカーンできれーだから見せに来た。」

「指輪がピカーン? どういうことだ?」


 首をかしげるお父さん。

 その手元には種類の違ういくつもの草が置いてあった。

 そしてビンみたいな容器には、得体のしれない緑色の液体が入っていた。


 お父さんに指輪を見せる。

 すると、納得したように数回だけ頷いた。


「ああ、そういうことか。……ユーマ、お前に教えなきゃいけないことがある。」

「なになに? お仕事の手伝い?」

「……まあ、それもある。が、ちょっと違うかもしれないな」


 これまでは「お前にはまだ早い」とか言って、道具屋さんらしい仕事はなにも手伝わせてくれなかった。

 おれも何か作ってみたいのにー。

 でもまあ、何か教えてくれるみたいだし、がんばろっ。



 お父さんはそれまでやっていた作業を一旦やめて、こっちに向き直った。

 そしておれの指輪を指して話し始めた。


「いいか、その光は魔力を込めた時に出るものなんだ。つまり今、指輪には魔力が込められている」

「……でもおれ、何もしてないよ?」

「だろうな、まだ魔力の使い方なんて教えてないから。ってことは、指輪が勝手に魔力を吸い取ったんだな」

「え、なにそれ。こわいんだけど」


 そもそも魔力ってなに?

 勝手に吸い取られるってなんか怖いんだけど。


「まあ怖いよな。だから今から魔力の操り方を教えようと思ってな」

「……おお! 教える~」

「ユーマ、お前は『教わる』だろ? 教えてどうする」

「……ん? んん? ……じゃあ教わる~」


 それが終わったらお仕事の手伝いかな?


「ねえねえ、それ何?」


 ふと机の上に目をやると、そこにはお父さんが作ったと思われるモノがあった。

 いかにも怪しい緑色の液体。

 なんか飲んだらやばそうな見た目だけど……。


「うん? ああ、これは回復薬だな」

「これが? てっきり飲んだら危ないものだと思った」

「一目で回復薬って分かるようにワザと色をつけてるんだ」


 おお、なるほど。

 みんな色がおんなじだと困るもんね。


「早速だけど始めるか。すぐに終わるし」

「始める~」


 お父さんは黒板の前に移動した。


「魔力とは、魔子と呼ばれる粒の集まりだ。そして血液のように体内を循環している。今回の目的は、その魔力の放出をコントロールすること。」


 大切なことだけ黒板に書かれていく。

 粒や人体の絵などの図も合わせて書かれている。


「コントロールってどうするの?」

「体内を流れる魔力を意識すればいい。ただそれだけだ」


 意識するって言われてもなあ。

 いままで感じたことのないものだしー。


「急に言われても困るだろう。そこで俺が手助けをする」


 そう言って、真っ直ぐおれに近づいてきて、そのままおれの頭に手を置いた。

 なんかくすぐったいけど……おっきいね。それに温かい。


「いまからお前の魔力を少しだけ吸い出す。その流れを感じ取るんだ。」

「へ? いきなりそんなのわかんないよ……」

「『考えるなよー、感じろよー』って言葉があるだろ?」

「……うん。分かった」


 何かちがった気がするけど、気のせいだよね。


「じゃあいくぞ?」


 その言葉が耳に届いた瞬間、これまで感じたことのない感覚に襲われた。

 手が置かれているところから明らかに何かが漏れ出している感じ。

 なにかが体から抜け出して、その分だけ体が重くなっていくような気がする。


 そして足先から頭のてっぺんまで、何かが駆け巡っていくのを感じた。

 初めて感じるこの一本の流れは、とても熱く感じられた。



「……な、なにこれ!?」

「それが魔力の流れだ。感じ取れたようだな」

「うん、お父さんの言うとおり『考えるなよー、感じろよー』だったね!」

「なっ? 言った通りだろ?」


 初めてのことでビックリしたけど、これが魔力かー。

 一回でも意識できると、まるで初めから知ってたみたいに感じ取れる。


 ……お父さんすごい!


「これで勝手に魔力が吸われることもない」

「うん、これで安心してお手伝いできる~」


 はやくお手伝いしたいです。

 なんでもいいから作りたいです。

 あの緑色の液体……じゃなかった、回復薬でもいいから作りたーい。


「その前に、その指輪で何が出来るんだ?」

「……何ってなに?」

「魔力が込めれるモノなら、その魔力を消費する方法があるはずだ」



 お父さんいわく、普通の物には魔力が込められない。込められるということは、その魔力を使って何かできるはず。

 たとえば「炎の杖」。これに魔力を込めて使用すると「ファイアーボール」を放つことが出来る。


 この指輪にも何かしらの効果があるのだとか。


「あれれ? もしかしてあれかな?」

「何か分かるのか?」

「うーん、多分。ピカーンって光る前に言葉が聞こえたから~」


 ……ええっと、なんだっけ?

 石ころがどうのこうの……?

 当ててやるー、だったっけ?


「言葉……?」

「うん、聞いたんだけど……全部わすれちゃった」


 なんだったかな。

 『石、飛んでくぜー』みたいな感じだった気がする。


「状況は覚えてるか?」

「えっとね、石ころで的当てしてた」


 ……


 ……


 ……


 あれ、ちがった?



「……それで?」


 あ、続きを待ってたのか。

 びっくりした。ずっと静かに見つめてくるんだもん。


「まったく石ころが当たんなかった。それで、また石ころを拾ったら言葉が聞こえたよ…?」

「――その時に拾った石は今持っているか?」


 ……たしかポケットに入れたと思う。

 ポケットに右手を突っ込むと、すぐに固い感触にぶつかった。

 固いソレをぎゅっと握ってポケットから引っ張り出すと、やはりあのとき拾った石ころだった。


「うん、これがその石ころだよ」


 そのまま石ころをお父さんに渡した。

 見た目はどこにでも落ちている普通の石。

 丸っこくてちょっと黒ずんでる。


「これが……」


 お父さんは石ころに向かって、鑑定魔法を使い始めた。

 淡い光の粒が宙を舞い、お父さんの持っている石ころに纏わり始めた。

 光に覆われること数秒、どうやら鑑定の結果が出たようだ。


「――なるほど。さすが俺の息子だな」

「……ん?」

「まず石の効果から説明しよう。この石には『追尾』という能力が付いていることが分かった」


 追尾?

 どっかで聞いたことのあるような……。


「普通に考えて石に能力がつくなんてあり得ない。つまり何か原因があるわけだが、それこそが指輪の能力だと思われる。指輪そのものでは鑑定がはじかれることから高等級の阻害魔法がかけられていると推測されるが、俺の鑑定魔法で破れない阻害魔法は今のところ存在していない。従って外因があることになるのだが――」


 お父さんが熱い。

 見ててビックリするくらい熱い。

 むしろ見てる人が冷めていくほどに熱い。


「……つまり?」

「指輪は『ほかのモノに能力を付与する能力』を持っている」

「なんか、ややこしいね」

「だがユーマにはピッタリの能力だと思うぞ。こういうの好きだろ?」

「うん、好きー」


 こういうの良いよね。

 道具屋さんにはピッタリです。

 これでお手伝いが~、はかどる~。


「おれ将来お店つぐ~!」

「おっ!? あー、うん。はっはっは。嬉しいが……、嬉しいな。おいお~い!」


 あれ、お父さんの顔が赤くなってる。どうしたんだろ?


 そしてまたおれの頭に手を置いてきた。


「もう魔力吸い取らないで!」

「違うわ! 撫でるだけだってのに……」


 ああ、なんだ。ビックリした。


「これずっと大切にするー。もっと宝物にするからね」

「そうしとけ。さて、教えたいことが沢山できたんだが……、続きは明日からにしよう」

「ええ……!? このまま教わるよー」


 はやく何か作りたーい。



「……駄目だ。腹減った。もうそろそろご飯の時間だろ?」

「おお! ご飯が待ってる! やっぱり明日からねー」


 それじゃ仕方ない。

 ふっふっふ、今日のご飯はなんだろ?



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