少年は出会う
超不定期更新です。月末に更新の確認してもらうくらいが丁度いいと思います。書き溜めて一気に放出するという方法でいきます。基本1人称ですが、初めだけ3人称になっているので注意。
世界は魔力で溢れ、それにともない魔法が発展していく。
また、邪悪なるものも姿を現し蔓延るようになった。
人は魔物と戦い、時には人同士で争う。
世界はまさに弱肉強食の様相を示していた。
ここはエンゼルシア魔法学校がある都市「エンゼルシア」。
今まさに産声を上げた幼子が母親の手に抱かれていた。
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数年後、あの幼子は少年になっていた。
少年の名前はユーマルト・エクリーバ。
彼の好奇心には目を瞠るものがあった。
親にとって自分の仕事に興味をもってくれるというのは、とても嬉しいことである。
教えれば面白いほどに吸収していくユーマは、そのうち道具屋の手伝いもするようになった。
そんなある日のこと。
彼は、初めて地下のとある部屋に来ていた。
「おおー、なんかいっぱいあるー」
そこは彼が見たことのない未知なるモノに溢れていた。もちろん知っているモノも転がっている。
父と母が冒険者をしていたことを知っていたユーマは、そのときに手に入れたモノだと考えた。
そもそも彼がこの部屋を見つけたのも偶然だ。
いつも使う倉庫自体はまた別にある。「ユーマ探検隊を結成して地下を捜索する」という遊びをしていたとき、偶然この部屋を見つけたのだった。
「おー、なんか発見」
無造作に置かれている沢山のモノ。
その中から吸い込まれるようにそれを見つけ、手に取った。
彼が手にしているのは、少し薄汚れた指輪。
指にはめてみると、ユーマの指にピッタリの大きさだった。
それを指に付けたまま、一度お店のカウンターまで戻る。
「じゃじゃーん、何これ?」
効果音つきで見せるユーマに対してノリのいい両親は――
「……じゃじゃーん、何それ?」
「……じゃじゃーん、俺も見たことないぞ」
家族全員、不思議そうに首をかしげる。
「あなた、鑑定してみてよ」
◎鑑定…何のアイテムなのかを調べる。
付与されている属性や魔法、加護の内容が分かる。
道具を使うか、魔法を使うかの2通りの鑑定方法がある。
妻に促されるままにユーマ父は鑑定を始める。
ところが指輪に鑑定を使った瞬間、魔力がはじかれた。
その事実に驚愕する両親の姿を見て、さらにユーマは首をかしげた。
彼の鑑定魔法は、エンゼルシアではトップレベルである。
冒険者時代に磨き上げ、道具屋を始めてからは更に力を注いできたのだ。
そんなユーマ父でも鑑定できないアイテム。
「ユーマ、それをどこで見つけた?」
「へ? 地下の部屋、だけど……」
「地下室……!?」
ユーマの答えを聞いて、父親は驚きを露わにした。
母親はなんの事かさっぱり分かっていない様子で夫を見つめている。
「ユーマ、大事にしろよ」
「うん。……ん?」
いつになく真剣な父の顔。
なんだかよく分からない。
事態がまったく飲み込めていないユーマだったが、この指輪を宝物にしようと決めた。
そしてユーマは、そのまま外に遊びに出かけていった。
「まさか、あなたの鑑定で分からないなんて……」
「仕方ないさ。そういうモノなんだから」
夫の発言に「?マーク」を浮かべる。
その様子をみたユーマ父は、ふっと笑みを浮かべて答えた。
「地下の部屋ってどうなってるか覚えてるか?」
「ええと、たしか物置きよね?」
あまり入ることのない部屋を脳裏に思い浮かべる。
道具屋を始めるとき、あの部屋を物置きに使うと決めたはずだ。
「ああ、あそこは物置きだ。危ないものもあるからって部屋には鍵をかけてるよな」
「……そうよね。ユーマはどうやって入ったのかしら……?」
「いや、そうじゃない。ユーマは物置きに入ったんじゃないんだ。」
「……どういうこと?」
ますます分からない。
そんな顔で夫の言葉を聞いていたが、冒険者時代を思い出して結論に至った。
「えっ? まさか……」
「そう、そのまさかだ」
「……初めて聞いたときは半信半疑だったけど、本当にあったのね……」
「俺が嘘つくわけないだろ? 俺だって経験してるんだからさ。」
「……エクリーバに伝わる伝承『神なる蔵』か。あなたは弓だったのよね。」
昔を懐かしむように言葉を漏らす妻。
2人で冒険をしていた時の記憶を辿り、弓で戦う夫の姿を心に描いていた。
「そうだな。……ユーマもついにそんな年なんだなあ」
「……そうね。この前まではこんな小さな赤ちゃんだったのに……」
過去を懐かしむ2人は同じものを見つめている。
それは未来。それは過去。そして今。
外で遊ぶ少年の姿を窓越しに眺める2人を、柔らかな光が照らしていた。