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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第三章 双子とアメジーナの秘法》
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決定と歩み

「そろそろ…、行こう」


 少しばかり身を休めていたフィリアが立ち上がろうとする。しかし、その顔色は真っ青を通り越して白と言った方がぴったりなほどに悪くなっていた。


「フィ、フィリア姉ちゃん、まだダメだって! 顔色すげー悪いぞっ!?」

「……まだ、ダメ」


 見るからに調子が最悪だと分かるフィリアを、アルタットとメイルディアのふたりが一生懸命に止めようとする。


「大丈夫。さっきよりかは気分がすっきりしてるから。それにこれ以上ここにいると、魔物が寄ってくるかもしれないからね」


 自分の身体がぼろぼろだということを、フィリアはよく分かっている。だが、心配してくれるふたりに力強い笑顔を見せることで、なるべくそれを感じさせないようにしようと思った。

 落ちた直後は衝撃と音に驚いて、一旦は離れてたはずの魔物たちが、そろそろ様子を見に来る頃だ。

 弱い魔物ならばいい。しかし、中級以上の魔物相手と戦闘になった場合は、今の体調では厳しいと言わざるを得ない。

 自分だけならば逃げるなりできるかもしれないが、非戦闘員の子供がふたりのいる現状はそれも適わないだろう。よって最優先事項は安全地帯までの退避と、出来るならばレミアータとの合流だ。

 アリヴィードと対峙しているとはいえ、彼女が死ぬとはフィリアには到底思えなかった。


「レミさんもたぶん山を降り始めてると思う。だから、予定通りに昨日の野営地点まで進もう」


 こちらに向かっていることも考えられるが、もし落下中の魔法を見ていた場合は、こちらを無事と判断して野営地点での合流を考えるはず。

 万が一、そちらで合流できなかったとしても、そこまで行けば中級の魔物は格段に減るので安全度は跳ね上がる。


「一応ふたりにも伝えておくけど、野営地店はえーと、歩いていた方向があっちだから…、うん、ここからこの方向。北に向かえばいいからね。

 周りに草原が広がってるところまで出たら、そこが昨日わたしたちが野営してたところだから」


 落ちてきた道の場所と、自分たちが降りていた山道の道筋。そこから方向をある程度割り出して、フィリアはアルタットたちに向かうべき方向を指を指して示した。


「ああ、うん。分かったぜ。だからフィリア姉ちゃん、ゆっくり行こうぜ」

「……フィリアお姉ちゃん。手、繋ごう」

(子供は勘が良いなぁー)


 そもそも誰が見ても病人にしか見えないのだ。いくら強がって見せても無理していることは子供にも分かるのだから、兄妹が心配するのは当たり前である。

 手を差し出しながら、自分を見つめてくるメイルディアの姿に苦笑して、フィリアは諦めたようにその手に自分の手を重ねた。


「……ん。疲れたら、教えて」

「ありがとう、メイちゃん」


 フィリアが笑いかけると、メイルディアは照れたように顔を赤くしてそっぽを向いた。


「……お兄。出発」

「おうっ。それじゃ、出発だーっ」


 元気な声とは反対に、進むペースはフィリアを気遣ってゆっくりしたものだ。


(ちょっと範囲は狭くなるけど、警戒しとかないと)


 ふたりの優しい子供を守るため、フィリアは重たい身体とは別に、軽くなった気分で頷くと魔力探査網をあたりに広げた。

 そして腰に下げているナイフを、メイルディアと繋いでいる手とは逆側に移動させ、いつでも抜けるように準備する。杖もいつもは見えないところに装備しているが、今回はそうはいかないのでナイフの下あたりに下げ直した。


「……フィリアお姉ちゃん?」

「ああ、うん。大丈夫。ちょっと物が邪魔にならないように移動しただけだから」


 ごそごそやっているフィリアを、不審に思ったメイルディアが眉根を寄せて尋ねる。よく見れば汚れてしまっているが、メイルディアはかなり可愛らしい顔立ちをしていることにフィリアは気付いた。


「メイちゃんって可愛いね」


 突然フィリアの口から零れた言葉にメイルディアは目を丸くして、そのあとすぐに顔を赤くした。


「……そんなこと、ない」

「ううん、可愛い顔してるよ。将来は絶対に美人さんになるねー」

「当たり前だろっ。メイは可愛んだからな!」


 兄バカともいえるアルタットの発言にフィリアは思わず噴出した。


「身内でそんな断言するのも面白いね。うん、だけど、確かに可愛いから仕方ないかも」

「……お兄、フィリアお姉ちゃんも。怒る」


 言葉とは裏腹に耳まで真っ赤にしたメイルディアが、アルタットとフィリアを睨みつける。しかし一度可愛らしいと認識してしまうと、その表情も可愛らしく見えてしまうのが不思議なところだ。

 だがこれ以上何か言って、彼女の機嫌を損ねるのは本意ではないと、フィリアは素直に謝ることにする。


「ごめんね、怒らせるつもりはなかったんだけど。許してくれる?」


 妹を怒らせたかもしれないと慌てたアルタットも、フィリアに続いて謝る。その様はまさに必死という言葉がよく似合う。


「わ、悪かったよ、メイ。この通りだから許してくれっ」

「……分かった。許す」


 あまりの兄の慌てように溜息をついて、メイルディアは謝罪を受け入れた。

 もともと本気で怒っていたわけでもない。それにこんなに一生懸命に大事な兄に謝られたら、メイルディアとしても許さないわけにはいかなかった。


「ほんとかっ!? ほんとに許してくれるのかっ!?」

「……お兄、しつこい。許すって言ってる」

「わ、悪いっ。ありがとな、メイっ」


 小躍りしそうな勢いで妹に許してもらえたことを喜ぶ兄の姿に、メイルディアは微妙な気持ちになったが、あえてそれを口にすることはなかった。


「あ、でもメイちゃん。王都に着いたら一緒にお買い物しようね」

「……お買い物? フィリアお姉ちゃんも一緒に?」

「うんっ、もちろん。そのときはアルくんも一緒だからね」

「決まってるだろ、メイをひとりで行かせるもんかっ」


 無事に王都に着けたあとのことを3人で話すことで、気分がさっきよりも上昇して、体も少し軽くなっような気がした。

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