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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第三章 双子とアメジーナの秘法》
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衝撃に備えて

  その瞬間をレミアータはスローモーションで見ているような気分だった。

 自分からそう遠くもない距離で、護衛対象フィリアと助けたはずの兄妹の足元が崩れる。そうして、呆然とした表情を浮かべた3人の姿が自分の目の前から消えたのだ。

 体中から血の気が引いた。護るべき人たちが失われるかもしれないことに、レミアータは心の底から恐怖を覚える。


「フィリアさん! アルくん、メイちゃんっ」


 崩れた先から3人の叫び声が聞こえるも、それはどんどん遠ざかっていく。

 目の前のアリヴィードのことも忘れて、慌てて崩れた場所に駆け寄り、そこから下を覗き込む。


(そんなっ、そんなそんなそんなっ!)


 恐慌状態とも言って良い思考に支配された彼女は正常な判断が下せなかった。

 少しでも可能性があるならと必死に、もう地面に叩きつけられていてもおかしくはない3人の姿を探す。


(………っ! あれはっ)


 そこでレミアータは目に映ったそれに希望を抱いた。

 空中で輝く魔法の光。あれは間違いなくフィリアだろう。彼女は空中で魔法を使い、地面への無事な落下を試みている。

 ならば自分がやることは1つ。

 ゆらりとまるで陽炎のようにレミアータは立ち上がると、眼前のアリヴィードに向かい合う。

 すでに反動が抜けきった巨大な刃の怪鳥を睨みつけ、片手に握りしめていた自分の相棒つるぎを脇に構えた。


「申し訳ありませんが、貴方に構っている暇はありません。さっさと通してもらいます」


 闘気を身体中から発散させたレミアータの姿に、圧倒的優位に立っているはずのアリヴィードが思わず怯む。


「早く皆さんと合流しなければならないので、始めましょう」


 怒りに狂いそうな心と比べて、かつてないほどに冷静になっていく思考で最善の行動を割り出し、レミアータはアリヴィードに向かって駆け出した。


 ◇


  空中に投げ出される形となったフィリアたちは、口から自然と叫び声をあげていた。

 先ほどまで自分たちがいたはずの山道はすでに遠く、視線を下に向ければ地面が急激に近づいている。


(このままだと、ぶつかる――っ!)


 どんなときでも冷静に集中し、生き残るすべを探す。魔法という深淵を武器にする魔法使いたちは思考操作にどんな者よりも長けている。

 フィリアは混乱していた思考を一瞬で落ち着かせると、一瞬の間も置かずに現状において最善の魔法を割り出した。


「エラス ヒットラァ アルゥ! 空気を熱せよっ」


 《ヒットラァ》 司る力は熱。

 《エラス》の力で風と空気を操作。そして《ヒットラァ》の力でその空気を熱して、意図的に熱上昇気流を作り出す。

 地面との距離はすでに間近まで迫っているため、どこまで落下速度を緩められるかが分からない。


(せめて、この子たちだけでも!)


 フィリアは真横を同じく落下していたアルタットとメイルディアを引き寄せ、ふたりを抱え込むように姿勢を取る。

 自分の身を地面側に向けて、ふたりへの落下の衝撃を最小限に留めるように計算した。


「メイ! フィリア姉ちゃん…っ」

「やだぁっ、お兄っ、お姉ちゃんっ!!」


 泣きながらフィリアの身にしがみついてくるメイルディアと、彼女の胸の中でさらに妹を守るためにその身を抱きしめるアルタット。


(まだ、ここから!)


 地面にぶつかる寸前、フィリアはもう1つの魔法を発動する。


「セグロ アルゥっ! 我が身を護る盾よ!!」


 《セグロ》の詠唱を変更。衝突時の衝撃を和らげるための不可視の結界を自分たちの身を包むように展開する。


「歯を食いしばってっ」


 抱え込む兄妹に警告を発する。フィリアの声に兄弟たちは身体を縮めて落下に備えた。

 そして次の瞬間、身を引き裂くような衝撃がフィリアたちを襲う。

 森の木々の中に飲み込まれ、葉の音が耳にうるさい。そして数えきれないほどの枝が折れて、結界を叩く。


「くっ、うぅぅっ!!」

「わああぁぁっ」

「………っ!! ……ぁぁっ!!」


 木々を抜けて地面に激突するが、すぐには止まらない。上昇気流で勢いが少し減少しているからまだマシだが、その衝撃の凄まじさで彼女たちの口から苦痛の声が漏れる。

 何度となく地面をバウンドする身体と軋む結界の音。そしてそれに伴って抉れる地面が数メートル続く。そのまま転がり、その先の木の幹にぶつかることで、ようやっと止まることができた。


「………痛ぅっ」

「うぅ…っ」

「………ぁ」


 短い時間、気絶していたらしい。フィリアは痛む頭を押さえて、ゆっくりと目を開く。


「……生きてる、みたいだね」


 静寂を取り戻した木々が目に入り、どうやら自分は生きているようだと判断する。続いて、自分が抱えていた小さな兄妹の状態を確認すると、確かな呼吸と僅かに聞こえる声からふたりとも無事だと安堵した。


「ふたりとも、大丈夫?」

「……フィリア姉ちゃん? あ、うん。俺は大丈夫だけど」

「………うぅ、フィリアお姉ちゃん。大丈夫?」

「とりあえず起き上がれる?」


 今の状況をきちんと確かめたい、とフィリアはふたりに起き上がれるかを尋ねた。ふたりの下敷きになっている現状のため、上にいるアルタットとメイルディアが起きてくれないことにはフィリアも起き上がることができないためだ。


「ご、ごめんっ」

「……ごめんなさい」


 ふらふらとしながらもアルタットとメイルディアはしっかりと身体を起こす。

 上の重みが消えて、フィリアも起き上がろうと体に力を入れたところで、全身に激痛が走った。


「い……つぅっ!!!」

「フィリア姉ちゃんっ!?」

「……お姉ちゃんっ!」


 フィリアの苦痛に満ちた声に慌ててアルタットとメイルディアが駆け寄る。


(これは…、骨が結構な数折れてるかなぁ)


 激痛に苛まれる体とは反対に、フィリアの頭は現状を冷静に分析していた。

 このままでは歩くことはおろか、立ち上がることもできないと判断したフィリアはふたりにポシェットを目の前に持ってきてくれるように頼む。


「これでいいんだよな?」

「ありがとう、アルくん」


 腕を少し動かすだけで痛みに顔をしかめることになるが仕方がない。

 ゆっくりとポシェットに手を差し入れて、目的の物を引っ張り出す。その手には上級治癒薬が握らていた。

 それを飲もうと蓋を外そうとするが、指に力が入らない。


「……貸して」


 見かねたメイルディアが薬を受け取ると、蓋を取り外して飲み口をフィリアに差し出す。


「ありがとう」


 ふたりの優しさにフィリアは弱々しくも微笑むと、少しずつ薬を飲み下し始めた。

 薬は飲むとすぐに効果を発揮し始める。折れていたであろう骨が少しずつ繋がっていくのが実感できる。痛みが和らぎ、呼吸をするのも楽になった。

 しかしそれと比例して身体を恐ろしい程の倦怠感が襲う。これが上級治癒薬の副作用。回復力と比例して、体力を多く使うために使用後は大変な疲労感がある。


「……大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。悪いんだけど、進むのは少し休んでからでいいかな」

「もちろんだって。フィリア姉ちゃんを置いてくなんて嫌だからなっ」


 ふたりの励ますような言葉にフィリアは先ほどよりも少しばかり明るい笑みを零した。

追記:後日、番外通りの方に移す予定ですが、小話を活動報告で2本ほど掲載してます。


日付的には4月1日と、本日4月6日分です。

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