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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第三章 双子とアメジーナの秘法》
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巨大百足【※残酷な表現あり】

  戦場は一瞬で展開する。

 フォリムノピエスが胴体を鞭のようにしならせ、高速で振るう。

 レミアータがそれに恐れを感じさせず、前に出て弾き返す。

 一瞬出来た隙を逃さず、フィリアがフィアの魔法で敵を牽制する。

 フィリアはその場から動かない。後ろにはふたりも子供がいるのだ。戦闘の危険にさらすわけにはいかない。


「ふぅっ!」


 レミアータが息を詰め、フィリアの魔法で怯んだフォリムノピエスへと斬りかかる。

 《斬鉄》により、研ぎ澄まされた剣閃が百足の甲殻に傷をつけた。

 中から溢れ出る緑色の体液が人の血液のように傷口から溢れ出し、あたりに飛び散る。

 痛みにのたうつフォリムノピエスががむしゃらに振るった胴体がレミアータに襲いかかり、彼女の胴に軽く掠った。


「――っ」

「レミさんっ」


 僅かに掠っただけで、軽いとは言えない怪我を負う。運が悪いことに防具の隙間に当たったようだ。

 下から血が滲み、服に赤黒い染みができる。それを見たフィリアが焦りから声をあげた。


「問題ありませんっ。フィリアさんは魔法に集中を! 早めに決めなければ他の魔物も来ます!」

「……うぅっ。分かりました! 一気に決めます」


 友人が怪我を負ったことで、フィリアの腹が据わる。瞳から今まであった弱さが消え去った。


「45追、持ちこたえてください。攻撃はしないで、凌ぐだけでいいです」

「――承知っ」

「トルーツ クレース シェスィ アディ。 我が下に集え、雷撃の力よ!」


 かつてシャウラーレニエを打ち破った雷の魔法。今回は速度優先で上昇アディを1つに指定する。

 呪紋陣がフィリアの足元に現れ、輝きを放つ。集中するフィリアは視線をレミアータと相対するフォリムノピエスに固める。

 途轍もない魔力ちからの集束に気が付いたフォリムノピエスが、魔法の発動を阻止しようとフィリアの方へ向かおうとした。

 しかしそこに剣の騎士が割り込む。フィリアの下へと向かおうする敵を《斬鉄》再び斬り、その前に回り込んで剣を構える。 


「彼女の下には行かせませんっ」


 睨みつける眼光の鋭さにフォリムノピエスはこちらも放っておいては危険だと判断する。

 巨大なアゴをカチカチとぶつけあって、怒りを露わにするとレミアータに突撃を敢行した。

 レミアータよりも圧倒的に大きな体だ。ただ突っ込むだけでも相当なダメージを与えられる。

 さらに、抑えきるにはフォリムノピエスは巨大すぎて、レミアータひとりでは厳しいのも事実。

 彼女が突撃を抑えきれずに吹き飛ばされれば、フォリムノピエスはそのままフィリアに向かって行くだろう。


「それならば……っ!」


 レミアータは自分にスキル《肉体強化》を加える。そうして次にスキル《残影》の力を溜め込む。

 《残影》の剣撃はそのままでは普通の剣だ。そこで身体には《肉体強化》と《残影》を、剣には《斬鉄》の力を篭める。

 3つのスキルの連続発動。肉体に相当な負担が掛かるが、今だけはそうも言っていられない。

 迫り来る百足の巨体を前に、レミアータは集中力の最大値を持ってくる。

 そして、ここしかないという最高のタイミング。


「―――ここっ、です……!」


 霞むようにレミアータの体がブレる。幻のように姿を消したレミアータは敵の側面に回り込む。

 それに動揺したフォリムノピエスが一瞬、動きを鈍らせた事を見逃さず、レミアータが最速の一撃を放つ。

 《肉体強化》で力を増した剣に《斬鉄》の力が加わり、フォリムノピエスの無数の脚をまるで布を裂くかのように一文字に切り落としていく。

 片側の脚の大部分を落とされた巨大な百足はバランスを崩してあらぬ方向に倒れこんだ。


「フィリアさんっ」


 そうしてちょうど45追が経過。

 レミアータの声に応えるようにフィリアの周囲の呪紋陣が輝きを増す。


「いっ、きます!」


 フィリアが杖を振るうと同時、集束、そして展開。

 彼女の前に雷撃の力が現れる。


「いっけぇ―!」


 気合いの叫びに合わせて、青白い巨大な稲妻がフォリムノピエスに襲いかかった。

 そうして遺跡中に響くような轟音と閃光。

 それが収まったとき、倒れていたフォリムノピエスは黒く焼け焦げて息絶えていた。


「はぁ…、はぁ…。やった…」

「ええ、なんとかですが」


 ふたりは戦闘により、疲労の息を漏らす。


「お、おいっ」

「えっ!? あ、はいっ」


 戦闘の余韻が抜けきらないうちに、背後から声をかけられたことでフィリアの身体が跳ねる。

 背後の子供のひとりがもうひとりを庇うように立ち上がる。

 だいぶ汚れているが、年齢は10歳程度だろうか。声からこの子供は少年のようだとフィリアは判断した。


「あんたたち誰だよっ。その、助けてくれたのには感謝するけど…」

「あっと、わたしたちは冒険者でってそれより怪我は?」

「それは、そんな酷くないけど。それより」

「話は後にしましょう」


 少年の言葉に割り込んで、レミアータが3人に歩み寄る。


「周りの魔物たちが興奮状態になっているようです。どこかに隠れてひとまず落ち着きましょう」

「あ、ほんとだ…。分かりました。えと、君たちもそれでいいよね?」

「……、分かった。メイ、いいよな」


 メイと呼ばれたもうひとりの子供がコクコクと頷いたのを確認して、少年もフィリアたちの指示に従うと頷く。


「それでは急ぎましょう。魔物たちが近づいてくる気配がします」


 レミアータの声を合図に、4人はその場から離れるために走り出した。

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