介入
「――何もいないですね」
「ええ、大丈夫なようです」
壁に1つだけある出入り口から顔だけを覗かせて周囲を見回すフィリアたち。
さすがに無用心に出て行って、魔物と遭遇するのは避けたいところだ。
「行きましょう」
「脱出ですっ」
「……それは意味が違いますよ」
こんな開けた場所にのんびりしているわけにはいかない。
ふたりは周りに魔物がいないことを確認すると扉から静かに出て、障害物となる建物群のあたりまで走った。
少しの緊張感。しかし、隠れられる場所が多いところまで着くと、安心感から息が漏れる。
「索敵、……よーし。近くには今のところ敵影無しです」
「ここから近い坑道は西ですか」
遺跡は元々は鉱山都市として使われていたらしい。そのため出入り口となる坑道はいくつか存在する。
最初に入ってきた入口が北にある坑道で、今から向かうのは西の坑道だ。
昨日野営した地点からは少し離れているが、道をいくつか変えて通れば戻ることはできる。
ふたりは西の坑道に針路をとると、身長に歩き出した。
しばらく歩いているとフィリアは微かな音を捉えた。聞こえたわけではなく、散布している魔力に音のような何かが引っかかる。
最初は魔物同士がまた争っているのかと思ったが、何か違和感を覚えた。その違和感は何故か放っておくことが出来ないような気がする。
「レミさん、すみません」
「フィリアさん? どうかしましたか?」
「たぶんですけど、何かあるんです。あっちに」
確信を持てていないような表情で、フィリアは坑道から外れた道を指差す。
どこか不安そうな、しかし焦った様子の彼女を見て、レミアータは頷く。
「承知しました。行って様子を見てみましょう」
「…はいっ」
慎重に進むはずが自然と速度が上がっていくフィリアに、これは何かあるとレミアータは確信する。いつしか駆け足になった彼女に遅れを取らないように自身も速度を上げた。
やがて見えてきたのはかつての都市の名残の広場。朽ちた噴水に割れた石畳。
そこに来てふたりはそれを目撃する。
「レミさんっ、あれ…!」
「あれは、まずいですね。フィリアさんはそこ、って待ってください!!」
「危ないっ」
「まったくっ! 護衛は本来、護衛対象を危険にさらさない事が前提条件なのですがっ」
静止の声も聞かずに飛び出したフィリアをすぐに追ってレミアータも広場に飛び出す。
先に広場に飛び出したフィリアは迷わず呪紋を唱えた。
「セグロ アルゥ! 障壁よ、出でよっ」
唱え終わると同時、魔力の障壁が彼女の前に展開される。
その壁に向かって長い胴体を振るってくる1匹の巨大な虫。フォリムノピエスという百足型の中位級魔物だ。
その大きさは2メートルを軽く超す大きさであり、その大きなアゴには毒がある。また、固い甲殻に覆われた身体はただの剣撃では傷をつけることすら難しい。
振るわれた胴体が激しい衝撃を受けて障壁に弾かれる。しかしその一撃で障壁にはヒビが入った。次は耐え切れないだろうことは誰の目にも明らかだ。
ノピエスが再び胴体による打撃を障壁に与えようとしたところで、横合いから疾風の如き速度で剣が振るわれる。
スキル《斬鉄》。
「はぁぁっ!」
気合の声と共にレミアータが鈍い光を放っている甲殻を斬り裂く。
突然、傷を負うことになった百足は身を捩らせて痛みと怒りから全身を震わせる。
「レミさんっ!」
「無事ですかっ」
「はいっ。なんとか! ――後ろの子たちも無事ですっ」
背後を確認するフィリアの視線の先。
そこにはふたりの子供が傷を負った状態で尻餅をついていた。




