山道
今日はだいぶ遅い更新となってしまい、大変申し訳ありません。
山の間から日が昇るのが見える。
天気は快晴。正直な話をしてしまうと、クビュタル鉱山に登るのには天気が良すぎて面倒な所もある。
鉱山上空の支配者たる鳥類系は、天気が良いほうが活動が活発になることは有名な話だ。
そのため天気の良い日に鉱山内部の遺跡に向かうには通常よりも高い隠密技術や戦闘技術が必要となる。
「途中までは基本的な気配遮断で行って、麓に着き次第、魔法での気配遮断の付与を加えるのが良いでしょう」
「そう、ですね。魔法の持続時間も考えればそれがいいかもしれません。途中、どっかでかけ直しも考えたほうがいいですけど」
方針は簡単なもので、とりあえず今の段階で一番確実な物を選ぶ。前衛と近い範囲の警戒はもちろんレミアータが行うのだが、魔法の補助と広域範囲の索敵はフィリアが担当する。
それぞれの得意な点で互いを補助し合うのは、パーティーよりも人数の少ないバディならば常套手段だ。
フィリアはネイトと共に組んでいたときも同様の役割をこなしていたため、気負いはなかった。
「行きましょう」
今から進む場所はもうどこから強力な魔物が襲いかかってきてもおかしくない領域だ。
極力、声も抑えて行動することが好ましいのでフィリアは前を歩くレミアータの言葉に黙って頷いた。
鉱山周囲は小さな森になっている。
これは獣系魔物相手には厄介だが、空の相手にはカモフラージュになり、こちらを発見しづらくさせるというメリットもある場所だった。
また、獣系の魔物にとっては確かに有利な場所ではあるが、障害物を無視して索敵が可能な人間相手にはそれも例外となる。
周囲に魔力を散布して魔物の気配を探るフィリアには、獣系が得意とする奇襲が通用しない。
「もうすぐ麓に着きます。あの岩の影で準備をしましょう」
小声でレミアータが少し離れたところにある大岩を指差す。女性にしては背の高い彼女よりもかなり大きい岩なようで、確かにあれの陰に隠れながらであれば、魔法も比較的安全に使えるだろう。
ふたりは素早く岩陰に移動すると姿勢を低くする。それでもいつでも動けるように体勢は保つようにしていた。
「イルヤル バンスィ アルゥ。我らの敵を惑わせ、防げ」
幻惑の呪紋と妨害の呪紋を組み合わせた魔法で気配遮断の効果の強化と自分たちの生気と魔力の波動を周囲の環境と馴染ませる。
これを見破れる相手は中位級の魔物でもそうはいない。
「――さすがです。ここまで気配を消せるとは」
「まぁ、小技を少しでも良くしないとここまで無事ではいられなかったですからね」
素直に感心しているレミアータの賛辞に対して、フィリアは昔のことを思い出しながら苦笑を漏らす。
下級から中級にかけての魔法の高速発動と活用範囲の広さを自身の得意分野と認識しているフィリア。純粋な火力不足をその豊かな魔法バリエーションでカバーしている身としてはこれくらい出来て当然といったところか。
「さっ! 今日中に採掘も出来る限りやっちゃいたいですし、そう考えるとあまり時間もありません。急ぎましょう」
麓から遺跡まではそう時間がかからないとはいえ、魔物を回避しながらの採掘を考えるとそう時間もないのは事実。目的地を目指してなるべく最短コースで遺跡までは行きたいところだ。
ふたりは顔を見合わせて頷き合うと、足早に鉱山へと歩を進めた。
「……っ」
大きな岩がそこかしこに転がっている山道。その岩影を渡り歩くように警戒しながら進んでいた彼女たちだったが、途中でフィリアがレミアータの肩を慌てて叩く。
背後にいる方が前の人の肩を叩いた場合、『魔物あり。止まって様子見』とここに来る前に決めていたこともあって、レミアータは足を止めてフィリアの方を振り向く。
フィリアは数回ほど頷くと片手で上空を指す。それと共に向けた視線の先には大きな鳥の影。つい最近、見たことがあるシルエットがそう遠くない上空を旋回していた。
声を出しても聞こえることはないだろうが、念の為に身振り手振りでの会話方法、手話に似たもので意思疎通を図る。
『アリヴィードみたいです。旋回はすぐに終わるでしょうから、ここで様子を見たほうがいいですかね』
『ええ。それが最も安全でしょう』
『それにしても大きいですね。見た感じですけど前回、皆さんと戦った個体よりも一回り大きいですよ』
『そのようですね。さすがにあれに見つかったとなれば厄介なことになるでしょうから、大人しく隠れてやり過ごしましょう』
様子を見て、上空からいなくなったのを確認してからの移動再開と方針を決定したふたりは警戒を緩めずに巨大な影を睨む。
幸いなことにアリヴィードはこちらには気づかなかったようで、少し旋回を繰り返すとその場から離れていった。
『大丈夫、みたいですね。進みます?』
『………ええ、完全にどこかに移動したようですから行きましょう』
ふたりは自然と低くしていた姿勢から立ち上がると、再び移動を再開した。




