襲撃と迎撃【※残酷表現あり】
広大な草原をふたつの影が疾走する。それにまとわりつく様に、6頭の獣が影の後を追う。
影を落としているのはフィリアとレミアータだ。ふたりが草原を歩いていると、遠方からこちらを発見したヴルフスキニスの群れが襲いかかってきたのだ。
彼女たちも敵の姿を認識すると同時に戦闘態勢に入り、迎撃を開始した。
「エラス アルゥ。風刃よ、疾走れ」
フィリア放った魔法の風刃がヴルフスキニスの1頭に迫る。しかしそれを感じ取った獣はその場から横に跳び、余裕を持って刃を回避した。
「その隙は命取りですっ」
回避に成功したが、その急な動作で一瞬動きが止まった相手にレミアータが詰め寄り、剣でスキニスの胴を両断する。
仲間の1頭が倒されたことに動揺したのか、群れの動きが鈍った瞬間を狙って、フィリアが連続で魔法を繰り出す。
「フィア アルゥ。五の炎弾よ、駆けろ」
威力よりも牽制を目的とした炎弾を獣の数だけ作り出し、狙い撃つ。
空を炎が走り、獣たちに命中すると小さな爆発が敵に炸裂した。
「レミさんっ」
「承知!」
一言で合図を交わすと、前線に出たレミアータが戦闘のリズムを切り替える。
爆発で怯みはしたが、大したダメージの無かったスキニスたちは怒りを眼に宿してレミアータに襲いかかった。
「その程度で冷静さを欠くようではまだまだです―!」
足運びを切り替えた彼女に飛びかかる1頭のスキニスだが、眼前に迫っていたはずの獲物の姿が突然消え失せる。
そうして、何が起こったのか把握する前にそのスキニスは首を断ち切られていた。
「《残影》。習得するのに手間が掛かっただけはありますね」
体術系スキル《残影》。
特殊な足運びと生気を組み合わせたスキルで、残像を作り出し相手の視覚的認識範囲から一瞬だけ外れることができる技術。
これをカウンターに利用すると攻撃に集中していた相手は、より視界が狭まり何が起こったか分からないままに打ち倒すことができる。
ただし、高い技術と相手の呼吸を読むことができる冷静な判断能力、観察能力が必要になるので習得は困難だ。
暗殺者に襲撃された際に力量不足を痛感させられたレミアータが、何度も倒れるほどに努力を重ねてついに習得した技である。
実践で使ったのは今回が初めてだったが、使いこなせれば戦闘を有利に進められると彼女は確信した。
「ふっ!」
さらに1頭、首を目掛けて背後から跳んできた相手を素早く反転するのと合わせて斬り裂く。
仕留めきれなかったが、決して浅くはない傷を受けた敵はそのまま地面と衝突して倒れ伏した。
一瞬でさらに2頭の仲間がやられた敵は警戒を強めて、レミアータの周囲に別れて多方向からの攻撃を狙う。
「トルーツ アルゥ! 雷撃よ、討て」
高らかに響く詠唱の声。
後方で隙を窺っていたフィリアが、レミアータから3頭が離れた隙を突いて雷の魔法を放った。
放たれた雷が敵に当たると、相手は痺れ、電気の熱により表皮が焼かれる。
不意の攻撃により苦痛の鳴き声を漏らすスキニス。すでにその動きの中には、先ほどの俊敏さは見る影もない。
「終わり、ですね」
抵抗できなくなった相手を殺すのは躊躇いがあるが、魔物は食う食わないに限らず、人を認識すると襲いかかってくる相手だ。
理由は解明されていないが、今のところ安全な魔物というものは発見されていない。
このまま群れを放置しておけば、傷の癒えたこのスキニスたちはまた人を襲い出す。
後味の悪さはあるものの、仕方がないと割り切ってレミアータたちは倒れている魔物たちに止めをさした。




