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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第一章 目玉商品とフレイル草》
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1日の終わりに その1

 中央通りから自宅兼雑貨屋店への帰路を歩いている間、フィリアはずっとコーネリアやボルドーの警告について考えていた。

夜道とはいえ、今日はよく晴れているため月の光でとても明るい。


「ヤバイもの、かぁ。何だろう…? あんまり酷いものじゃないといいけど、きっとそうも行かないんだろうなぁ」


聞いた話ではCランク冒険者のパーティーも帰って来れないくらいのモノらしいから相応に危険な何かである可能性の方が大きい。

一人では無理だろう、と考えたフィリアはまず帰ったらネイトに連絡を取ってみることを決める。

ネイトの家のルードス伯爵家は騎士の家系だ。

その家の嫡子であるネイト自身も騎士を目指しているので、学園でも騎士科に入っている。さらに家の名に恥じず成績も優秀で、すでに本職の騎士を相手にしても互角に戦うことができる実力を持っていた。


魔法使いの弱点は魔法の構成から発動までに時間がかかってしまう事だ。

もちろん優秀な魔法使いともなれば下級魔法くらいなら呪紋陣破棄ノータイムで使用することができるが、それ以上の中級や上級クラスの魔法にはやはり時間が掛かる。

絶大な威力を誇る魔法というものは一見便利でいてその実、魔法発動までは無防備な状態となるために一人での戦闘行為は不向きと言われていた。だが逆にその時間を護ってくれる前衛がいる場合は無類の強さを発揮する。

ネイトが手伝ってくれるならば、たとえ強敵と戦闘するような事態になったとしても何とかなるとフィリアは考えていた。


「夜遅いけど、まだ大丈夫だよね…。さすがに16歳にもなって21の刻を過ぎたあたりの時間に寝てるってことはないだろうし」


今日は夕方から訓練があったようだが、ネイトのことだ。

家を継ぐために自主的な勉強をするのだろうから、今日も寝るのは遅いだろうと当たりをつけている。


「それにしても上位冒険者による調査ってなると、ほんとに急がなくちゃ」


ネイトについては帰ってからということで、フィリアは次の懸念事項について考えを巡らす。

こちらの内容もかなり重要なことであるために色々と考えておかなければならないことが多いのは確かであった。


「なんとかギルドよりも先に見つけなきゃ。

公式依頼ってことは発注から参加冒険者を募って出発まで長くても3日くらいだろうし、早ければ明日には依頼が貼り出されるはず。そうするとできるなら明日には出発したいなぁー」


――公式依頼は最優先依頼として集会所の依頼板に貼り出される物だ。

さらに公式依頼に関しては冒険者ギルドから数名の冒険者が指名され、指名された人物は必ず依頼を受ける義務が発生する。

依頼板に貼り出されるのは、その冒険者たちの他にも参加者を募るためだ。

公式依頼は最優先かつ重要な案件のため、その報酬も高額に設定されている。

そのためギルドとしては公平をきするために指名した冒険者以外にも一定期間、参加者を求める必要があるわけだ。


今回の案件レベルだと参加者募集期間は2、3日程度だろう。

それを考慮すると、出発から洞窟を探すまでにも時間がかかることが予想されるため、明日には王都を出る必要がある。お店の方は急な話だが一時的に休業することになってしまうが、フィリアにしてみればこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。


「フレイル草の群生地、しかもまだ手付かずの場所があるかもしれないなんてこと、奇跡としか言い様がないもん。

これから先にまたそんなことあるか分からないし、ううん、きっとないだろうし! 今回の話は絶対に逃がすわけにはいかなのよ!」


うんうんと頷きながら歩いているうちに、目の前には『フルハーモニー』の扉があった。

どうやら考え事をしている間に着いてしまったらしく、その事に無意識に目的地に向かう癖はどうにも危ないかもしれないなぁとフィリアは思わず眉を寄せた。

とりあえず続きは家の中で考えようと鍵を開けて明かりのついていない店の扉を開くと、真っ暗な中にベルの音が控えめに響く。


「ただいまー」


返事はないと分かっていながらもついつい言ってしまうのは長年の癖だ。

父がいた頃なら学園から帰ってきた自分がただいまと言うと、すぐに店の奥からおかえりと声が返ってきていたなぁと昔のことを思い出してフィリアは急に悲しくなった。

今の店の中は春先で寒いというのを除いてもどこか寒々しくて、嫌でも父がもういないという現実を実感させる。

普段は未だに慣れない仕事ばかりでそんなことを考える余裕もないが、ふとした時にそれを感じてしまうと途端に寂しくてたまらなくなってしまうのだった。


「……お父さん、なんで死んじゃったの……?」


小さな声で思わず呟いてしまった言葉が静かな店内に静かに溶けていく。

そうしてそのまま泣き出してしまいそうになるものの、まだ泣けないとフィリアはぐっと涙を堪えた。


「……とりあえず、お風呂入ろ」


帰ったらすぐにネイトに連絡するつもりだったが、今の声を聞かれたら心配させてしまうだろうと考えてフィリアは先にお風呂に入ることにした。

出てくる頃には調子もいつも通りになっているはずだ。


「さ、そうと決まれば早くお風呂に行こー。あったかおっ風呂は天国っだよ~」


謎の鼻歌を口ずさみながらお風呂へと向かうフィリア。

お風呂に入ることは彼女の最大の楽しみの1つということもあって、暗くなっていた気分をひとまず浮上させることに成功した。


他の国がどうだかは分からないが、リフェイル正統王国ではお風呂とはシャワーのみというのが一般的だ。

しかしフィリアの父はお湯に浸かることこそお風呂だ!と強く主張していたため、彼女の家には浴槽が設置されている。

《建築》と《製造》のスキルを持っていた父が自ら用意した一品だ。

フィリア自身もそんな父の影響を受けてお風呂では湯に浸かることが当たり前になっていた。


「はふぅ~…。あぅ~、生きかえる~」


湯気が満ちた浴室に、緩みきって、つきたての餅のようにヘタレた表情のフィリアがいた。

足を伸ばせるほど広くはないが、浸かるのには問題がないくらいの大きさの浴槽で彼女は生きていることの喜びを感じている。


「お風呂ってなんでこんなに気持ちいいんだろー。体の疲れがとれていくよねぇ…。そだ! マッサージでもしよっと!」


荷物を運ぶのに使う腕や足、最近は発注書などを書く事務仕事が増えたおかげで凝った肩などを中心に揉みほぐしていく。

そうしている内にフィリアは、自然と自分のスタイルについて悩み始めた。


顔は悪くない…と思う。比べる対象がいないし、そもそも比べるなんてそんなこと失礼だ!という考えをフィリアは持っているために判断はつかないが、自分ではそう思っている。

身長は高くもなければ低いわけでもないが、しかし、如何せん体つきがあまり年齢に見合っていない気がすると彼女自身は常々感じていた。

胸はまったく無いわけではないのだが慎ましいことは確かだし、お尻だって女性らしいかと聞かれれば首を傾げてしまう。

つまるところほとんど一直線(なにがとは明言しないが)に近い体型なのだ。


「……これからだよね、うん、これから。わたしはまだ15歳。これからまだ成長するに決まってるよ。そう、目指せボンキュッボンなセクシー体型!」


フィリアの理想のプロポーションはコーネリアのような、とてもメリハリのきいたパーフェクトボディ(フィリア談)なのだ。

そのため、あの体型の秘密は一体何のかとこっそり彼女に訊ねてみたりもして、隠れて色々と努力をしていた。果たしてその努力に効果が見られているのかは別としても。

決意を新たにしたフィリアはとりあえず、何よりも先にのぼせる前にお風呂からあがることにした。

控えめなサービスシーンにするつもりでしたが、描写力不足の結果で大変残念なことに…。

もう少し勉強しなおして、別のところなどでリベンジしたいと思います。


というわけで、『1日の終わりに』は次回にも続きます。

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