特別な石
翌日、フィリアはいつも通りに開店の準備に取り掛かる。
在庫のチェックや商品棚の品揃えは先日揃えたばかりなので、足りなくなった物を追加する作業と掃除だけを行う。
きちんと整頓された棚と掃除を終えた綺麗な店内を見渡して、フィリアは満足げに頷く。
「あれ? 予定より早く準備が終わってる。うーん、何しようかなぁ」
これでいつでも開店、という段階になって時刻を確認すると、まだいつもの開店時間よりも30巡も早い。
余った時間をさてどうしようかと首を捻ると、今日やろうと思っていたことを1つ思い出した。
「あっ、そうだ。魔石調べよっかな」
両手をポンと打ち合わせると、フィリアは自室においてるベルトを取りに行った。
本格的な解析ならばともかく、昨夜感じた違和感について調べるだけならばそれほど時間はかからない。
彼女は片手に問題の物をぶら下げて戻ってくると、カウンター内にある椅子に腰掛ける。
「さて、この微妙な感覚はなんでしょうっと」
集中して、自身の体内の魔力の感度を上げていく。その魔力を目には見えない糸のような形状にして、周囲に拡散させる。
これで周囲の情報を糸を通して、通常よりも多く手に入れることができるようになった。
そうして魔力の糸をベルトの魔石に集中させる。
「これって…。あー、なるほどね、そういうことだったんだ」
伝わってきた情報にフィリアは納得して詰めていた息を吐き出した。
「特定波長の魔石かぁ。こんな珍しい物、初めて見たよ」
感心したように目を丸くすると彼女は改めてベルトを手に取って魔石をまじまじと眺める。
特定波長を持つ魔石。
そもそも魔力というものは、生き物がそれを持つ場合は個人によってその性質が違う。
感じ方は人によって違うが、フィリアには人が持つ魔力は全員が違う色に見えるのだ。
当てはまらないのは自然に存在する魔力で、これは全て同じ色をしている。
もちろん自然に生まれる魔石の中に内蔵されている魔力も全て同色をしているのだが、特定波長の魔石だけは例外だ。
特定波長を持つ魔石はそれら1つずつに、生き物が持つ魔力と同じく、個別の色を持っている。どうして他の魔石と違うのかは未だによく分かってはいないが、そうそう手に入るものではない。
性能的には他の物と変わらないので、本来は特に意味はないのだが、珍しい物というのはそれだけで価値がある。
他と違うというだけで、特定波長の魔石は貴族が欲しがるのだ。世界でたった1つだけの特別な石というのは、持っているだけでステータスなのだろう。
職人に言わせてしまえば、ただの自己満足なのだろうが貴族には見栄も大事だということだ。
それほど珍しい物をくれたシャールロットを想って、フィリアは知らず笑みを零す。
実はこの魔石、見せびらかす目的以外にも最近は別の意味を込めた贈り物として上流階級の間で流行っているらしい。
「ふふ、『ただひとりの大切な人へ』ってことだよね。でもこれ、ほんとはプロポーズとかによく使われてるらしいけど、シャル様ちゃんと分かってるのかな?」
友人として贈ってくれたのだろうが、あのお姫様は意味を理解しているのかは怪しいところだ。
遠くで見ていたときは完璧に見えた少女も、友人となってよく話すようになってからは、実は天然でどこか抜けたところがあると分かるようになった。
「今度会ったときは、何か面白いモノでも用意しておこっと」
その日は1日中、フィリアは大変機嫌良さそうに仕事をこなした。




