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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第三章 双子とアメジーナの秘法》
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商品発注

  開店してから時間が少し過ぎ、朝一番のピークを抜けた。

 今は店内に人もいない状態で、この店が冒険者にどれだけ支えられているのかがよく分かる。


「ん~、それじゃ、足りない物の発注しちゃおっかな」


 軽く伸びをして、身体をほぐしたあとにフィリアはカウンター下に設置した伝音器コミュットを取り出す。番号をいつもお世話になっている発注業者のものに合わせて、スイッチを入れた。


『はーい、こちら《足りない物はございませんか? ご入用の物は我が商会でお届けします。安心安全、安くて高品質を目指すブルガリ商会》で御座いま~す』

「あ、どうもお世話になっております。《フルハーモニー》のフィリアです」


 騒がしい名乗りと共に向こうから若くて元気の良い娘の声が聞こえて来た。

 この商会はいつもこのような感じのため、最初こそびっくりしたが今ではもうフィリアも慣れたものだ。

 それに商人には愛想も大事なので、逆に学ぶ点も多いなと彼女は考えている。


『フィリア様、ですね。はいはい、こちらこそいつもお世話になってますー。それで本日はどのようなご用件でしょうか?』

「あ、はい。実はいくつか商品の在庫が切れてしまったのでお願いしたいんですけど、今から言う物の在庫とか確認できます?」

『まっかせといて下さいっ。ではではご希望の商品を言ってもらえますか?』


 伝音器コミュットの向こうから何か物を探すような音が聞こえるのは、おそらくメモか何かを用意しているのだろう。

 相手側の準備が整ったような雰囲気を感じ取ると、フィリアは購入希望の商品をいくつか挙げていった。

 アンバル鉱石を含めたすでに在庫も切らしてしまった商品をいくつかと、もうすぐ無くなりそうな物を多めに伝えていく。

 全ての希望を述べたあとにあちらが、今から確認して参りますので少々お待ち下さーいという元気な声と共に席を離れる気配がした。

 しばらく待っていると、向こうがチェックを終えたようでささっと戻ってきたようだ。


『お待たせ致しました。ご希望の商品ですが、1つを除いて全部御座いますー。在庫が無かった物はアンバル鉱石ですね』

「そうですかぁ。それじゃ、それ以外の物をとりあえずお願いします」

『はい~、申し訳御座いません。代金の方はいつも通り、お届けの際に請求をお渡しとなりますー』

 1つ在庫が無いことを本当に申し訳なさそうに、受付担当の娘さんが謝りながら手続きを行う。

「いえ、鉱石系は鍛冶の業者の方々も発注をかけてると思うので仕方がないですよ」

『はいー…。……実はですね、今はアンバル鉱石がどこの商会も品薄なんですよー』


 どうやら商品が無かったお詫びの気持ちというのもあったのか、娘さんは情報を1つサービスしてくれるようだった。


「品薄? 何かあったんですか?」

『はい、フィリア様はアメジーナ赤鋼鉄ってご存知ですか?』

「それなら、知ってますけど。確かほとんど市場に出回らない幻の素材ですよね」

『ええ、あの最上位装備にも使われることがある幻の素材です』



  アメジーナ赤鋼鉄は、市場で最高級素材としても取引されている代物だ。

 それは最高の硬度と共に高い属性耐久値も誇っている。これを使った装備は現在、最高峰の物ばかりで冒険者ならば一度は手にしてみたいと思うような一品ばかりなのである。

 しかし、その知名度とは逆に、アメジーナ赤鋼鉄はほとんど市場に出回らない。

 理由としては、それが人工物であることが大きいだろう。

 自然で採れる物ならば採掘すればいいのだが、色々な学者たちが研究したところでこれは間違いなく人工的に作られた物だと判断された。

 だが、分かったのもそこまで。

 一体何を混ぜ合わせたのか、どのような配合率なのか、製法はどのようなものか、一体誰がこれほどの物を作り出しているのかは全く掴めなかった。

 そのため、アメジーナ赤鋼鉄は未だに幻の素材と呼ばれているのだ。



「……もしかして、それに使われている素材の1つがアンバル鉱石ってことですか?」


 行き着いた想像に、少し驚きを声に乗せながらフィリアが尋ねる。


『はいー。それで、素材の1つが判明したってことで張り切っちゃった方々がそれの作成にチャレンジし始めちゃってるんです』

「………なるほど、そういうことですか」


 もし作成に成功すればあっという間に大金持ちになれるし、名声も手に入る。

 プライドと腕に自身がある者たちが挑戦してもおかしくはない話だとフィリアは納得した。

 だが、1つだけ腑に落ちない点がある。


「……、学者さんたちがすごく研究して分からなかったものが今になって分かるっていうのはおかしくないですか? 今も研究は続けてると思いますけど、素材が1つ分かっただけでそれを公表するほどあちらも商売下手ではないでしょう?」


 学者と言ってもその人たちを雇って研究させているのは商会だ。

 素材がわかったのなら自分たちが囲っている職人達に製法を研究させて、作成に成功すればしばらくの間は利益を独占することができるだろう。

 商人ともあろう者たちがそんなことを考えない訳がない。


『あー、それはですね。どうやら知らせがあったみたいなんですよ。それもいくつもの商会に』

「知らせ?」

『はい、封書で届いたそうです。それで届いた手紙通りに検証してみたら、極小ではありましたけど確かにアンバル鉱石の反応が出たそうでして』


 娘さんが少し声を潜めながら伝えてきた内容に訝しげにフィリアは顔を顰めた。

 知らせを送った人間の狙いが分からないことが不気味だったが、そのあたりは関係ない話かと彼女は思考を中断する。


『そ・れ・で、ですねー。フィリア様は確か冒険者の資格をお持ちだったかと思うんですけれどー』


 急に猫なで声になった娘さんの様子に嫌な予感が背筋を走り抜ける。


「……持ってますけど、何か御用でも?」

『はぁ~い~、実は今度の定休日にでも採掘に行ってもらえないでしょうか? もちろん無理にとは言いませんし、タダでとも言いません。正式な指名依頼として冒険者ギルドにはお願いしますし、今回の購入商品もさらにお安くさせて頂きます』

「うぅ…、安くなるのは確かにいいですけど…」


 まとめ買いで多少相場よりも安くなっているとはいえ、今回の買い物は値段だけ見れば高い買い物なのだ。

 安くなるなら安くなった方がいいなとフィリアの心が揺れる。


「でも、指名依頼ってなんでわたしなんですか? もっと上位の方々もいるじゃないですか」

『あっ、はい~。もちろんすでに他の方々にも依頼を出してありますよー』

「……つまり、わたしもそのひとりって訳ですか」


 情報をくれたのもこれの為か。商品1つ無いという理由から教えるには確かに高すぎる情報だ。

 色々とフィリアからも質問してしまった手前、断りづらい心理状態を作り出している。

 さすがに大手商会の受付を任されているだけあって食えない相手のようだった。


『はい。今はどこの商会も冒険者様たちに指名依頼などを出しているようなので、こちらとしても信頼できる冒険者様にはどんどん依頼を出したいのですよー』


 如何です、と小首を傾げて微笑んでいる様子が目に浮かぶ。


「はぁ~…、こちらとしても安定供給は望むところです。分かりました、依頼をお受けいたします。契約書と条件については冒険者ギルドの集会所で詰めましょう」

『わぁ~! ありがとうございま~す』

 娘さんがパチパチと手を叩く音が向こう側から聞こえて来た。

娘さんのフィリアの呼び方を ~さん から ~様 に変更致しました。

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