雑貨屋的なお仕事
朝起きたときに見た空はよく晴れていた。雲ひとつない青空は昼に向けて気温が上がってくる事は容易に想像できる。
今の季節は初夏。13の枝月に分かれて1年が回っているこの世界で、ついこの間5の枝月になった。
これから夏に向けてもっと暑くなるため、これからは身体を冷やす商品が売れるはずだ。
それはともかく、今日は見事な快晴であるため、冒険者たちからすれば絶好の探索日和である。こういう日は、ギルドから依頼を受ける者以外にも都周辺に薬草などの採集に出掛ける者も多い。
雑貨屋『フルハーモニー』の店主であるフィリアも、そういう客向けの商品を揃えて開店の準備を整えていた。
「ええっと、毒消しは大丈夫。在庫も……、うん、今日は大丈夫そうかな」
彼女は発注表と在庫表を手にしながら、商品の確認を行っている真っ最中だ。
最近、上級薬のおかげで店が繁盛するのは喜ばしいことなのだが、それを作れるのが今のところ自分しかいない状態のため、閉店後の調合作業はそちらにかかりきりになっている。
そのため、他の調合薬は専門の業者に発注して取り揃えている状態だった。悪いことではないのだが、如何せん出費が増えるのが悩ましい。
繁盛しているとは言っても月ごとの生活費と調合用の材料費や商品の発注などで、売上はなんとか黒字といったところである。
しかも、市場にはなかなか出回らない素材を扱う場合には店を休業しなければならないため、その分売上も落ちるのは当たり前といったところか。
「店員、増やしたいけど人件費がなぁ…」
職業斡旋所から店員の募集をしたところで、高い人件費がかかるため、売上が逆にマイナスにいってもおかしくはない。
かといって自分が主体となって、一般の人間から募集した場合は今度は身元の証明が難しいため、余程信頼のおける相手ではない限りは別の危険が伴う。
「……まぁ、それは追々かな。っと、あれれ、アンバル鉱石がない? そういえばこの間切れたんだっけ。発注するの忘れてた…、しまったなぁ」
鉱石系は発注してから届くまで少し時間がかかる。鉱石自体が主に鍛冶職人などに回されることが大きな要因だが、採掘のあとの加工に時間がかかることも理由の1つだ。
「ダメもとであとで連絡してみよ」
店番しながらでも伝音器と集音器で連絡するくらいの余裕はある。
そう考えてフィリアはそのまま開店準備に戻ることにした。
◇
店を開けるとすぐに上級薬目当ての冒険者たちが店に殺到してきた。最近ではもう見慣れた光景だが、最初の頃は目を白黒させたものだ。
そうして、上級薬を揃えた上位の冒険者たちは他の品物もついでに買っていってくれる。
「嬢ちゃんも毎日ご苦労なこった。でも、ま、そのおかげで俺たちも無事に依頼をこなせてるってんだから、助かってんだけどよ」
「もう、ゴルさん、そんなこと言っても安くしませんよ?」
「こりゃ残念だなっ」
大きな笑い声をあげているのは、上級薬が商品に加わってから店に来るようになったゴルディナクという冒険者だ。店を開けているときは頻繁に買い物に来てくれる常連客でもある。
「それじゃ、はい。上級治癒薬5個と同じく魔法薬3個、それと中級解毒薬が3個。……いつも来てくれるからおまけで下級活性剤も2個付けときます。ナイショですよ?」
「お、そりゃありがてぇ。また来ないといけねぇな、嬢ちゃんは商売上手だ」
「ふふ、ありがとうございます。合計で共通貨だと金貨1枚と銀貨84枚ですね。リフェイル貨でもいいですけど、どうします?」
「いや、そのままで構わねぇ。今手持ちにリフェイル貨がほとんどねぇんでな」
通常、平民の4人家族が生活するのに1枝月にかかる平均的なお金は金貨1枚ほどだ。
この世界の共通貨幣では金貨1枚で銀貨100枚程の価値がある。金や銀が多く採れるこの世界ならではの貨幣価値といったところだろう。
しかし、一度の買い物で軽く2枝月分の金を払っていくゴルディナクは相応の稼ぎを出しているはずで、それに見合った力量の冒険者ということが想像できた。
「んじゃ、嬢ちゃん。また来るぜ」
「はーい、どうもありがとうございましたっ」
支払いも早々にゴルディナクが店を後にする。それを見送るフィリアだったが、次の客が待っているので接客対応に戻った。
今更感がありますが、第二章では仕事関係がごっそりなかったので。




