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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第一章 目玉商品とフレイル草》
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警告

 コーネリアにくだんの冒険者に連絡を取ってもらったところ、その相手が今だったら会えるとのことでフィリアは現在、示された待ち合わせの場所へ向かっている。

相手は男性だという話で、コーネリアにはその点についてもよくよく気を付けるように念を押されていた。


「いい? 男はみんな狼なの。絶対に隙を見せちゃダメよ?」


お転婆娘を嗜めるように言われてしまうと自分自身、慌てて失敗する癖があることを理解しているフィリアは何も返せない。

それからいくつか話をして、コーネリアにはまた顔を出すと言ってから別れた。


「まぁでも、確かに用心するには越したことないよね」


独り言を呟きながらフィリアの右手は腰の短剣を撫でている。まったく物騒極まりない動作だ。

そんなことばかりをつらつら考えていたところ、いつの間にやら目的地に到着していたらしい。

辺りを見て歩いていなかったので、危うく行き過ぎることだったとフィリアは胸をなでおろした。


待ち合わせの場所はトルネの酒場という名前らしいことが看板に書いてある。

フィリアが扉を開けると中から軽快な音楽が聞こえてきて、さらに酒場中を賑やかな話し声が満たしていた。

見たところ大体が依頼を終えて戻ってきた冒険者や今日の営業を終えた商人や店員たちのようで、この酒場はどうやらそのあたりの人間たちに人気があるらしい。


「入って奥から3番目のテーブルって言うと、もしかしてあの人かな?」


情報提供者を探して店内を歩いていたフィリアの視線の先にこの賑やかな喧騒の中、一人だけで酒を飲んでいる筋肉質の男性がいた。

歳は見たところ30代半ばくらいで、厳ついながらもどこか人の良さそうな顔をしている。

しかしよく観察してみればその雰囲気の中に年相応に磨き上げられた風格が混じっていることに気付くはずだ。


「あの、すみません。……えと、もしかしてボルドーさんでしょうか?」


訓練のおかげで多少の改善は見られたとは言え、生来の臆病な上に人見知りの激しい性格から内心ではとてもびくびくしつつもフィリアは小声で男性に訊ねてみた。


「ん? おう。俺がボルドーで間違いねぇが、嬢ちゃんが依頼人かい?」


値踏みするように見られたが、それは冒険者にとっての癖みたいなものなので気にしないでおく。

とにもかくにもどうやら間違いではなかったようだ。

ひとまず挙動不審な状態から安心して息をついたフィリアだったが、それを見ているボルドーはなにやってんだこの嬢ちゃんはと内心で思っていたりする。

とりあえず座れとボルドーの向かいの席を示されて、フィリアは大人しく席に着いた。


「それで? あの洞窟のことを聞きてぇそうじゃねぇか。

分かってるたぁ思うが、わりぃが俺も冒険者だ。タダで情報をやったとかで舐められるわけにもいかねぇんだ。

てぇーわけだからよ、さっそくだが交渉といこうや」


フィリアが席に着くとさっそく交渉を始める。

その際に何も言わずに店のメニュー表を渡して、何か食べるように勧めてきたところから見るに格好に似合わず気配りのできる男らしい。

時間も確かに20の刻を過ぎているので、フィリアはその勧めに従って遅い夕食を摂ることにする。

店の一押しは寒い夜にもぴったりという謳い文句のホワイトシチューだそうで、とりあえず頼むものはそれにしておいた。


「見たとこ嬢ちゃん、あんまり腕っ節は強そうに見えねぇが冒険者ランクはどんなもんなんだ?」

「あ、はい。今はDランクです。ただ、1年ほどブランクがあるので結構鈍ってると思うんですが」


ふむ、と頷きボルドーは目の前の少女に情報を渡すべきか思案する。

冒険者の行動は自己責任であることは確かだが、こんな年端もいかない少女がもし自分の売った情報で死んだと聞いたら目覚めが悪い。

とはいえ、こんなところまで一人で来るくらいだ。

なにかしら訳ありなのだろうと判断すると情報を売ることに決めた。

まぁ1年のブランクがあるとはいえ、腐ってもDランクの冒険者だということもその決定を後押しした理由の1つだ。


「そうだなぁ、それならリフェイル銅貨12枚ってところでどうだ? 集会所だと大体18枚かそこらだったろう?」

「そうですね…。なんとかもう少しまかりませんか? 後輩を助けると思って、リフェイル銅貨6枚でお願いできません?」

「冒険者なら後輩も糞もねぇさ、銅貨10枚」

「でも冒険者としてはやっぱりボルドーさんの方が長くやっていらっしゃいますし、そこをなんとか。銅貨8枚で」

「……仕方ねぇなぁ。それじゃ銅貨9枚だ。これ以上はいくら頼まれてもまからねぇよ」

「……分かりました。ではリフェイル銅貨9枚でお願いします」


なんとか交渉をまとめたフィリアは嬉しそうに今にも歌いだしそうな笑みをを浮かべた。

もともと交渉事はヘタレた性格と素直すぎる有り様から全くお話にならないレベルだったため、交渉をまとめられたこと自体が嬉しくてたまらないようだ。

それを見ていたボルドーは、まるでお遊びのような交渉事をまとめられたことにパッと見でも喜んでいるのが分かるフィリアに内心で苦笑していた。

それと同時にまるで娘を見ている親のような気持ちが湧いてきて、なんとなくこの少女のことが気に入ってしまったことを自覚してしまい、自分に対しても苦笑する。

いそいそと差し出されて受け取った銅貨を手の中で遊ばせるボルドーは、心情的にはすでにフィリアに肩入れしてしまっていた。


これから情報を話すといったところで、タイミングよく注文していたシチューが届く。

フィリアはシチューの食欲を誘う香りで頬を緩ませながらスプーンを手に取ると、ゆっくりと器の中身をすくい取った。

そうしてさっそく食べてみると野菜の甘みと肉の味わいに、それに負けないくらい濃厚でクリーミィな風味が口の中を満たす。

これは当たりだ、とニコニコと食事をするフィリアは目の前にボルドーがいることを完全に忘れている。

ご機嫌に食事を続ける自分をどこか暖かい目で見ていたボルドーと目が合い、ようやっとその状況に気づいたフィリアの顔はあっという間に赤くなった。


「くくっ…。とりあえず時間もおせぇから必要事項だけさっさと伝えるぞ。っとその前に変な野郎どうもに聞かれててもいけねぇ。こいつを点けるがいいか?」


込み上げてくる笑いを抑えきることができないまま、ボルドーは腰の袋から防音器を取り出してフィリアに確認を取る。

確認を取られたフィリアはというと、先ほどの自分の様子に未だに恥じ入っていて赤くなった顔を俯けながら頷きだけをなんとか返すのが精一杯だ。

防音器が起動して二人の周りを効果範囲膜が覆ったのを見ると、さらに中の声が周りに漏れていないことを確かめてボルドーは話を再開した。


「あー、そうだな。まずは洞窟の場所だが、塔の西門を背にして北東へ1キロも進んだあたりにある。

森の中っつう条件に加えて、そんなに高くはねぇとはいえ崖の下に入り口があもんだから分かりずれぇとは思うがな。

必要なもんっつたら崖降りる時に必要なもんくらいだろうよ。さっきも言ったが高さはそんなにねぇからロープでも使えばすぐに降りられるだろうさ」

「なるほど、崖下ですか。北東の方には崖なんて前はなかったと思いますから地震の影響でしょうか?」

「さぁなぁ、だがそのあたりは1枝月前と比べてだいぶ地形が変わっちまってるからたぶんそうだとは思うが、そりゃー俺の知るところじゃあねぇさ」


肩をすくめてボルドーは続ける。


「洞窟の中には入ってねぇから詳しくはわからねぇが、見たところ入り口は狭い一本道が続いてたぜ。

ただまぁ、嬢ちゃんの目的もフレイル草か? 詳しく聞く気はねぇが、訳ありだってんなら急いだほうがいいかもしれねぇな」

「えっ、どうしてですか? 近いうちに何かあるんですか?」


洞窟の情報はすでに教えた。

普通ならこれ以上の情報が欲しいならば追加料金が必要だが、ボルドーはすでにこの少女を相手に稼ぐ気が失せしまっていた。

最初の情報を渡す際に金を渡されたことで建前もあるので、そのまま教えてやるかと決めたボルドーはすでに可愛い娘を甘やかす父親の気分だ。


「あぁ、まぁ知らねぇかもしれねぇな。実を言うとな、この情報を売ったやつらは他にも何人かいるんだが、そいつら全員とも街に戻ってきてねぇって話でよ。

さすがに噂程度で片付けられねぇってんで、ギルドの上のやつらが近いうちに上位の冒険者を何人か雇って調査に向かわせるってぇ話だ。

ギルドの公式な依頼で見つかった資材はギルド所有になるからな。急いだほうがいいってぇのはそういうことだよ」


ボルドーの話を聞いたフィリアはまだ赤かった顔を今度は青くした。

せっかく手に入れた領域スペースの手がかりを、払った情報量の元すら取れずに逃すわけにはいかない。

慌てて行動しようとしたが、そこでずっと頭に引っかかっていたことを思い出す。


「集会所で聞いたんですが、洞窟の中が夜でも光っていたっていうことですけど何か心当たりとかありますか?」

「あぁん? あーそうだなぁ。確かな話じゃねぇが、光放石フォースライトのせいじゃねぇか?

あんま知られてねぇが、石そのものが光を出してるっていう話だったはずだぜ」

「そんな物があるんですか!? それってすごく価値があるんじゃ…」


そんな貴重な物の価値を考えたが、ボルドーがさっさとそれを打ち砕いた。


「売ろうって考えてるならそりゃー無理だぜ。光放石フォースライトはその場所ごとに光を出す成分から何からが違うんだ。

つうわけだから、その場所から持って離れたりしたらただの石ころに成り下がるんだよ」


ボルドーの話にフィリアは頭の中で考えていた計画を壊されてがっくりと肩を落とす。

世の中、そう旨い儲け話があるわけがない。

しかし落ち込みから復活するとフィリアは最後に1つ、どうしても聞いておかなければならないことを口にした。


「最後にこれだけ教えてください。

もしかしたらとんでもない宝の山かもしれない洞窟を見つけたのに、どうしてボルドーさんはそこに入らなかったんですか?」


フィリアの質問にそのとき初めてボルドーが真剣な顔になった。

数々の死線を越えてきた冒険者としてのその顔は、威圧感を伴ってフィリアを怯ませるには十分な効果がある。

そうして重々しい空気を漂わせながらボルドーは口を開いた。


「………俺は《直感》のスキル持ちだ。そいつが告げてたんだよ、死にたくねぇならそこには入るなってな。

嬢ちゃん、もし本当に行く気があんならよぉく覚悟して行くこった。恐らくあそこにはとんでもなくやばいモノがいやがるぜ」


そうしてボルドーはフィリアが一旦帰宅するという事で酒場から出るまで決して、その警告を冗談だと否定しなかった。

情報集め回が続いております。

素材集めという名目の冒険に出るにはもう少し掛かります。


本来なら店主自らが素材集めに行く必要はないのですが、残念ながら『フルハーモニー』にはあまりお金がないのです…。

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