王女様とレイビィトの霊薬
シャールロット第二王女殿下。
外交大使を務め、精力的に活動していることでは勿論、絶世の美姫としても名を知られている彼女は、自室のベッドの上で眠りについていた。
呼吸は荒く、不規則で弱々しい。本来なら透き通るような白い肌も青白くなり、絹のようで夜空に浮かぶ月のように輝いているはずの美しい金の髪も力をなくしている。
その様子はすでに限界が近いことが一目見ただけで分かるほどだ。
「王女殿下……」
あまりにも酷い容態にフィリアは呆然とした。
王女殿下は今、自分と同じくらいの年齢だったはずだ。しかし、現在の生気を感じないほどに弱った彼女は年齢よりも上に見えてしまう。
「大丈夫だ。王女殿下は絶対に完治なさる」
王女殿下の様子に顔色を悪くしたフィリアを気遣い、励ますようにネイトがその肩に手をおいて力強く頷く。
「そう…、だよね。薬だって出来たし、殿下だってすごくお強い方だし、きっと治るよね」
パワー溢れるシャールロット殿下の活躍はこの国の人間ならば誰しもが知っている。
そんな彼女が毒なんかに負けるはずがないとフィリアも信じてみた。
「来たか、ロニール」
「陛下、お待たせしたようで申し訳ありませぬ。たった今、薬が出来上がったところですじゃ」
「ロニール…、よろしくお願い致します」
「お任せ下さい、王妃殿下」
娘を心配した王と王妃がすでにベッドの横で並び立っていたが、その顔はやはり不安に満ちている。
ふたりを安心させるようにロニールがその懐から虹色に輝く霊薬を取り出した。
「老師、それが《レイビィトの霊薬》か?」
彼が手に持つ初めて見る色合いの薬に皆が注目する中、ジルオニクスが確信を持った声で確認する。
王子の言葉にロニールは静かに頷いた。
「それでは始めますかの。ロブとレディアンは他にふたりずつを控えさせ、魔法の準備を始めなさい」
ロニールが魔法補助のために待機していた6人の宮廷魔道士に指示を出す。
その彼の表情は、今までの人の良さそうな笑みを一瞬にして消し、生きた伝説とも言われているほどの歴戦の魔法使いの顔になっていた。
老師の言葉に宮廷魔法使いたちは無言で頷くと王女を挟みこむ形で並び、呪紋を唱える。
そして魔法の準備が整うと、ロニールは手の中の薬瓶の蓋を開け、それをゆっくりと王女の口元に寄せた。
「シャールロット殿下、意識の戻られないときではありますが、失礼致します」
薬を口に少しづつ移していく。しかし、意識の無い今、王女は薬を飲み下すことができない。
そこでまず、左に待機していたロブという魔法使いが魔法を発動させる。
弱い肉体操作系の魔法。意識のあるときであれば掛かるはずもない魔法ではあるが、意識の無い相手には少しだが効果が現れる。
魔法の効果で喉の動きを少し操作しやると、王女は口の中の薬を少しずつ飲み下し始めた。
「姫様…、おいたわしい…」
部屋の扉の前に待機してた侍女たちが、自力で水も飲むことが出来なくなっている王女の様子に悲しげに呟くのが聞こえた。
「これは…!」
ゆっくりと薬を飲ませると、王女の体が淡く輝き始めた。
突然のことに思わず王が声をあげる。
「落ち着いて下され、陛下。霊薬の効果が現れ始めたのですじゃ」
慌てて立ち上がろうとした王をロニールが諌める。
そのまま視線を横に待機しているレディアンに向けて彼は指示を飛ばす。
「魔法を発動させなさいっ」
「はい!」
ロニールの声に緊張を保っていたレディアンが待機させていた魔法を発動させた。
回復促進系の魔法が王女の身体を包み込み、淡い輝きが眩しいほどに強くなる。
「霊薬の効果を強めてるんだっ」
光に目を細めながらフィリアが今の状況を正確に読み取る。
回復促進の魔法で身体の毒に抗う力を強めて、薬の効果を受けやすくしたのだ。
やがて光が収まると、そこには先程までとは比べ物にならないほど顔色の良くなった王女が横たわっていた。
その頬は薄くピンクの色が乗り、呼吸もまだ健康なときほどではないが、強く安定している。
「せ、成功したのか?」
「シャールロットは大丈夫なのですか!?」
見た目は持ち替えしたように見えても、やはりまだ確定の言葉を貰うまでは安心ができないと王たちがロニールに目を向ける。
「ええ、もう大丈夫ですじゃ。毒はまだ完全に解毒された訳ではありませんが、それも直に無くなりますでな」
孫に向けるような優しげな笑みを王女に向けながらロニールが断言すると、王とジルオニクスは安心したように力を抜き、王妃は思わず力が抜けて椅子に倒れ込んだ。
「王妃殿下っ」
慌てた侍女が王妃に駆け寄るが、王妃はそれに笑みを零しながら問題ないと告げた。
「あと数日は安静にしていれば、意識も戻りますじゃろう」
容態を軽く診察するとロニールがそう断言する。
その言葉を合図にその場にいた全員が思わず歓声をあげた。




