研究室へ
「さ、フィリア様。お部屋でお着替えいたしましょう」
謁見を終えて客室へと戻ってきたフィリアを待っていたのは数人の侍女たち。
丁寧なお辞儀のあとに口から飛び出したのはそんなお言葉。
人に着替えさせてもらうことになんてまったく慣れていないフィリアからすれば全力でお断りしたい事案である。
「脱ぐくらいならひとりで出来ますからっ!」
「何を仰っているのですか! ドレスは下手に脱ぐと皺になりますっ。それに慣れていらっしゃらないコルセットをおひとりで外せるのですか!?」
侍女たちからものすごい剣幕で迫られてしまい、流石にフィリアもその迫力に怯む。加えて相手はプロ、こちらは素人というのも彼女が強く出られない状況に拍車をかけてはいたのだが。
「うぅ…。はい、それじゃ、お願いします……」
ガクッと音が聞こえそうなほどに肩を落として、結局諦めることになったフィリアであった。
◇
「お待たせ致しました。研究室の方にご案内します」
扉をノックする音のあと、侍女が扉を開くとそこには衛兵がふたり立っていた。
ふたりの話では王宮は広すぎるため、2回来ただけでは迷う人も多いという話で案内役としてきたらしい。
「ネイト殿はすでに研究室の方にお連れしてあります」
「え! それじゃ急がないとダメですっ」
慌てて歩く速度を上げると、衛兵たちも顔を見合わせてその速度に合わせてくれた。
迷路みたいな王宮内を少し歩くと、見慣れた研究室にたどり着いた。
衛兵のひとりが扉をノックして、入室許可がおりると扉を開き、フィリアの入室を促す。
「自分たちはここで失礼致します」
「あ、えと、ありがとうございました」
敬礼をしてくれる衛兵に頭を下げて別れると、フィリアはそのまま部屋の中に進んだ。
「来たな」
「ネイト、お待たせ。皆さんもお待たせしました」
「いや、ちょうど今、薬が出来上がったところじゃから気にせんで良い」
頭を下げるフィリアにロニールが少し疲れた表情で笑う。
ここ最近はずっと薬作りや毒の進行を遅らせる魔法を維持し続けていただけに疲れもあったのだろう。
今までは緊張感からその様子を見せなかっただけで、薬が完成したことでその緊張が少し緩んで疲れが目に見えるようになったようだ。
「すまないが、老師。もう少しだけ頼む」
ロニールの横でジルオニクスがその身体を労わるような表情を浮かべる。
「分かっております。必ず王女殿下をお救い致しましょう」
疲れた表情とは違い、瞳にだけは力強さを宿してロニールが頷いた。
「あれ? ところでカイオールさんは?」
ひとりだけ足りないような気がしてあたりを見回すフィリアだったが、その肩をネイトが叩いた。
「副団長殿ならすで本部に戻った。陛下から訓練に戻るようにとの知らせがあってな」
「そうなの? ……お礼くらい、ちゃんと言いたかったなぁ」
「近いうちに店の方にも顔を出すから、よろしくと言っていたぞ。そのときにでも言えばいいさ」
励ますようなネイトの言葉にフィリアは顔を上げて頷く。
それが終わったのを見てからロニールがおもむろに口を開いた。
「これ以上の時間の浪費は惜しいでな、すまんが行くとしようかの。薬はすでに王女殿下の寝室に運ばれておるからの」
フィリアたちはロニールの声に返事をすると、ジルオニクスとロニールのあとに続いて部屋を出た。




