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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第二章 王女様とレイビィトの霊薬》
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報奨の申し出

 明日からはきちんと更新になります。

お騒がせいたしました。

「ネイト=レイ=ルードス殿、フィリア=グランツェリウス嬢、ご入室っ」


 謁見の間前の衛兵が高らかに告げる。

 フィリアとネイトは今、謁見用の礼服に既に着替えを終えていた。

 初めて登城したときのようにまた、侍女たちに隅々まで洗い上げられて、コルセットで絞られたあとにドレスを着せられたフィリアはもうグロッキー状態である。

 着替える前よりも幾分か顔色が青白くなっているのは気のせいではないだろう。

 しかしこれから謁見というのに倒れる訳にもいかない。気合を入れて踏ん張っている彼女をネイトは少し心配そうに見ていた。

 


  衛兵の宣言から少しすると謁見の間の扉がゆっくりと開き、ふたりは中に粛々と踏み込んだ。

 王族の人間が姿を見せて許可を貰うまでは、礼をしたままの状態を保つ。中腰の姿勢は慣れていない人間からすれば、見た目よりも疲れるが、そこをフィリアは必死に姿勢を維持する。


「陛下、王妃殿下、王太子殿下、ご入室」


 近衛騎士と思わしき人物のひとりが大きく告げると、壇上に3人が現れる気配がした。


(2回目だからか、最初よりは緊張しないかも…?)


 最初はガチガチになってたなぁとフィリアは恥ずかしい記憶を回想する。

 そんな風に記憶に埋もれているうちに渋めな王の声。


「面をあげよ」


 顔をあげる許可がおりるとゆっくりと上体を起こして前を向いた。

 威厳に溢れた王と絶世の美女の王妃に、今回一緒に任務をこなしたジルオニクスの姿が目に映る。


「ひとまず任務ご苦労。見事結果を出してくれたこと、感謝する」

「勿体無きお言葉。私どもは国民として当然の義務を果たしただけにございます」


 王からの労いの言葉にネイトが恭しく応える。

 彼の言葉に陛下はゆっくりと頷いた。


「貴公らのような民を持ち、我は嬉しく思うぞ」


 そのときだけ未だ娘が意識不明状態で、若干疲れたような顔で王は笑みを見せた。

 しかし、すぐにその表情も隠すと王に相応しい威厳に満ちた声に切り替える。


「さて、此度の働きは誠に見事であった。それに対して報奨を与えたいと思うのだが、何か望みの物はあるか?」

「は。……では私は、陛下に王都の孤児院に援助をお願いしたく思っております」


 ネイトが願った報奨はフィリアも予想していたものではなくて、少し驚くような内容だった。

 それはどうやら王たちも同様だったようで、皆が訝しげな表情を浮かべる。


「孤児院に援助、とな? それで良いのか? 騎士に取り立てることもできるのだぞ?」

「は。今、この王都の孤児院は春になったばかりで物入りのところが多く、子らが満足な食事も採れない場所もございます。私の家も援助を送っているのですが、それでも足りぬ状況。陛下のお力添えがありますと、大変助かるのでございます。……それと騎士になるには我が身は未だ未熟でございますゆえ、見合う技術を身につけましたときに、己の力量でなってみせます」

「なるほどな、面白い…。あい分かった。貴公の申し出、確かに叶えよう」

「ありがとうございます」


 面白いものを見たというように王が口角を歪める。

 そしてネイトから視線を外すと、次にフィリアに目を向けた。


「では、フィリア嬢。貴女の望みを聞かせてもらえぬか?」

「は、はいっ! ……わ、わたしの望みは、騎士の見回りのコースに我が家の周辺も加えて欲しいのですっ」


 緊張していないと思ったのにいざとなったら、やはり声が上ずるのが自分でもよく分かった。

 顔を赤くしながらも、必死にフィリアは考えてきた報奨の内容を伝える。

 フィリアの家の周りは住んでいる人間も少なく、そのため騎士の巡回もほとんど来ないのだ。

 しかし、昨日襲われた件を考えれば、巡回のコースに入れてもらった方が安心だろうという考えのもとの申し出である。


「騎士の巡回を…? いや、それなら簡単な事だが、それで良いのか?」


 王が不思議そうな顔で問い返す。

 彼女が雑貨屋を経営していることは王はもちろん知っている。そのため報奨に関しては、金銭の類か素材関係だと考えていたのだ。

 それがまったく想像していなかった内容だっただけに王も驚きの声を漏らす。


「陛下、発言をお許し下さい」


 王の隣に並んでいたジルオニクスが突然そう申し出た。


「うむ、よい。発言を許す」

「はい。帰還後すぐに謁見と相成りましたので、ご報告が遅れましたが、フィリア嬢は昨日何者かに襲撃を受けたのです。襲撃者の正体は不明ですが、なかなかの手練の集団でした。王都でもまた襲撃される可能性があるため、彼女は騎士の見回りを願い出たのでしょう。それと、彼女の願い出た報奨に加えて、襲撃者たちの調査をお願い致します」


 襲撃という物騒な話に王の目が細められる。


「その話、誠であるか」

「はいっ。昨日、王都への帰還前に襲撃を受けたのは事実でございますっ」


 それを聞き届けた王はしばらく思案するように目を閉じて頷いた。


「ふむ、襲撃を受けたとなると見回りでは心元ないか。確かあの周辺は空家が多かったな。宰相、あの周辺の家屋を一部借受け、騎士の詰所にはできるか?」

「可能でございますが」


 突然話を振られた50代半ばと思わしき宰相がしかしすぐさま頷く。


「では、そのようにしろ」

「承知致しました。ではすぐにでも手配を」


 動き出した宰相を呆然とフィリアは眺めていたが、慌てて王に向き直る。


「へ、陛下! わざわざ詰所を作って頂くなど、そんなっ」

「よい、貴女は我が娘の為に動いてくれた相手。その人物に危険があるならば、それを防ぐためには当然の事だ」


 自分が思っていた以上に大事になった自体にフィリアは慌てふためくが、王はそれに笑いかけた。


「未だ疲れは取れていないであろう。客室を用意したゆえ、そこで休むと良い」

「あ、あの…、ありがとうございます!」


 そのまま頭を下げたフィリアをかくにんして、鷹揚に頷くと王は立ち上がる。


「陛下、王妃殿下、王太子殿下、ご退出!」


 ネイトもすぐに礼をとると、それに合わせて王たちは謁見の間をあとにした。

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