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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第二章 王女様とレイビィトの霊薬》
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容態

 昨日は失礼致しました。


  宿を出てから数刻、ようやっと騎士団一行は王宮へと着く。

 騎士たちをまとめて宮内に入れるわけにもいかないため、カイオールを残し、彼らとは敷地内で別れることになっていた。

 そのまま本部へと戻るという彼らにフィリアは馬車から降りて、頭を下げる。


「みなさん、数日の間でしたが護衛して頂いてありがとうございました」


 護衛といえば貴族ばかりで、最近は自分たち騎士にここまで礼儀正しく頭を下げてくる護衛対象などいなかった彼らには、彼女の行動はどこか面映ゆいことだった。


「こちらこそ、貴女を護衛できたことを誇りに思います。何か困ったことがあれば、相談してください。きっと力になりますから」


 代表してここまでフィリアの専任護衛を努めてくれたレミアータが微笑みながらフィリアに軽く騎士の礼をとる。


「はいっ。……レミさん、約束忘れないでください」

「分かっています。時間が取れたらお店に顔を出しますよ」


 元気よく返事をしながら、最後はレミアータ個人にだけ聞こえるような小声だった。

 親しみを込めた声と笑みで温かい気持ちになりながら、レミアータは頷く。


「それではこのあとも予定が詰まっているでしょうから、体調にだけはお気をつけて」

「ありがとうございます。失礼しますね」


 そのままフィリアは騎士たちに背を向けると、宮殿の扉前で待つジルオニクスたちの下に駆けて行った。


 ◇


「まずは謁見の前に研究室に寄ることになった」

「え、それって陛下を待たせることになったりしないの?」


 カイオールとジルオニクスに続きながら歩くネイトとフィリアだったが、方向が謁見の間とはまったく違うことに不思議に思ったフィリアがネイトに尋ねると思わぬ答えが返ってきた。


「指示を出されたのは陛下だから、そこは大丈夫だ。……それに旅から帰ってきて身も清めずに拝謁するわけにもいかないだろう」

「そういえば最初もそうだったもんね…」


 コルセットの痛みを思い出してげんなりするフィリアに、ネイトが苦笑を漏らす。


「フィーが薬学に通じてるという話を陛下が耳にしたようで、今回作る薬は珍しい物だから見てから来るといいと言う話らしい。だが、それは建前で恐らくは王女殿下の容態についての話もあるだろうな」


 王女殿下の容態と聞いて、フィリアは不安になって顔を俯ける。

 毒に侵されてから、もうだいぶ経つ。容態は徐々にだが、確かに悪化しているだろう。

 薬が出来ても手遅れという場合もあることを考えて、フィリアは祈るような気分だった。


「きっと大丈夫だ。皆が全力で事に当たっているんだ。それに殿下もお強い方だ。きっと回復する」


 安心させるように背中を軽く摩るネイトの手に、少しだけ安心してフィリアは顔を上げた。


「着いたよ」


 カイオールはふたりを振り返りながらも厳しい表情だ。ジルオニクスも同じような顔をしていた。

 不安なのは皆同じなようで、それでも王女のことを信じているとその目は語っている。


「王宮騎士団、副団長のカイオールだ。ジルオニクス殿下と客人をお連れした。失礼させてもらう」


 扉をノックしてから彼は大きな声で所属を述べると、扉をゆっくりと開いた。


 

  研究所内は慌ただしい様相を呈していた。

 研究員たちが駆け回り、なにやらレポートやら文献やらを手に抱え、多くの液体を混ぜ合わせている。

 さながら戦場のようなそこの、扉の前に4人が並ぶとそれに気付いたロニールがすぐに駆け寄ってきた。


「よく戻りなさった。……ここは今、騒がしい。奥の部屋に行きましょう」

「老師が抜けても大丈夫なのか?」


 薬を作っている最中に、その中心人物たるロニールが抜けても問題ないのかとジルオニクスが問う。

 それに彼は、研究員たちを信頼している目で頷いた。


「うむ、ここの者たちは優秀ですからな。それに山場は越えたので安心して良いですぞ」


 そうして案内されるままに最初の部屋に連れて行かれる。

 ロニールの部屋に通されると、彼は再びお茶の準備を整えて、それぞれの前に置いた。


「それで、妹の容態は…」


 お茶を前に置かれたジルオニクスが、誰よりも早く最初に質問したのはそれだった。

 いくら王太子、未来の王とは言えどもやはり妹の容態は気になる。まして命に関わることなのだ。本当はこの中で一番焦っていたのも彼だっただろう。


「………、容態は悪い。毒の進行はゆるやかとはいえ、進んでおりますのでな。しかし、今ならばまだ薬が効くでしょうな」


 静かに告げるロニールに少しだけ希望が見えた。


「薬が効いたとして、……助かる確率は」


 戦場に何度も出たことがあるカイオールだからこそ分かっている。薬が効いたとしても助からない場合もあるのだ。

 効果を示すのと、助かるのは別問題だ。


「6割、といったところかの。途中で回復機能促進の魔法もかけるが、あとは王女殿下の気力次第じゃろう」

「五分よりはマシ、といったか」


 ジルオニクスが歯痒い思いから苦い声を漏らす。


「薬はもうじき出来上がる。飲ませるときにはまた呼びますでな、今は他のことを済ましておくとよろしいかと」


 ロニールは少しでもジルオニクスの不安を取り去るために、そう提案した。

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