合流
夜の通りを7つの人影が駆ける。
先を走るふたりも速いが、後ろから追いかける5つの影はそれ以上に速い。その速度たるや疾風の如きと喩えてもおかしくはないほどだ。
「あと少しですっ」
「わ…、分かりました!」
レミアータが背後から迫る刺客に警戒をしながらもフィリアを励ます。
フィリア自身も冒険者ということもあり、体力的には今のところ問題はなかった。
しかし、それ以上に驚きを隠せないのが刺客たちのことだ。
こちらは下級とはいえ、魔法を使った速度で駆けているにも関わらず、影たちは恐らく純粋な能力のみでこちらに迫っている。その身体能力は驚愕するしかないだろう。
「…………」
呼吸一つ乱さない影たちのひとりが、攻撃範囲に入ったのか、懐から毒を塗ったナイフを取り出し、フィリアを護る形で背後についているレミアータに向けてそれを投擲してきた。
「ふっ!」
ナイフを剣で叩き落とし、レミアータは相手の動きを牽制する。
「エラス アルゥ! 風よ、妨げよ!」
フィリアの声が響くと一瞬にして風の魔法が展開。風が影たちを妨げるようにその前方に吹き荒れる。
しかし、その風すらまったく問題としないかのように影たちは切り傷を負いながらも風の防壁を無理に突っ切った。
そうして影たちのさらに三人が攻撃可能範囲に侵入すると、同じようにナイフを両手に3本ずつ構えて投擲してくる。
24本のナイフが、迫り来る壁のように空間に広がり、ふたりに襲いかかった。
「まずいっ」
「ちょ、ちょっとっ」
少しでも掠れば恐らく身動きが取れなくなる類の毒が塗ってあるはずの、それらの多過ぎる数にふたりは焦る。
だが、ナイフはそんなことは待ってくれずに迫りつつある。
当たる、と感じ、思わず目を瞑ったフィリアの耳に届く連続した金属音。
そっと目を開くとそこには見慣れた背中があった。
「――ネイト…?」
「すまない、待たせたようだな」
年齢に合わない厳しさを滲ませた声が聞こえると、フィリアは思わず安堵の息を漏らした。
「ちょっと、危なかったよ。ありがとう」
「……今度は間に合ったようでこっちとしても安心している」
油断なく剣を構えながらもネイトは微笑を浮かべた。
「そうだっ、レミさんは!?」
同じようにナイフを向けられていたレミアータのことを思い出して、慌ててその姿を探すフィリアにもうひとり、優しげな男の声が聞こえた。
「大丈夫、こちらも問題なく防げたよ。レミアータ殿も流石の腕前だったしね」
「お手を煩わせてしまうとは…。申し訳ございません、殿下」
共に剣でナイフを振り払った形で構えるジルオニクスとレミアータの無事な姿が目に映る。
「運良く訓練をしていて良かったよ。おかげで何とか間に合えたようだね」
ジルオニクスがネイトと目を合わせて息をつく。
宿の外で訓練を行っていたふたりは突然聞こえ始めた戦闘音に急いでそちらに向かい始めたのだ。
そうして次には照明弾を上げられれば、騎士の誰かが襲撃を受けているというのはすぐに想像がつく。
焦り、さらに向かえば女性ふたりが見慣れぬ輩共から無数のナイフで狙われている有様が見え、急遽割り込んだ形となった。
「それで? 貴公らは何者かな?」
問いかけるジルオニクスは表情は笑みを絶やしていないが、その目はまったく笑っていない。
「答える気などないでしょう。これらはそういう類の相手です」
横に並び立ったネイトも怒りを隠すことなく、影たちを睨みつける。
「さて、これで4対5。だが、照明弾で気付いた他の騎士もすぐに駆けつける。どうするつもりかな?」
笑いながらも逃がす気はないとジルオニクスの雰囲気からは伝わってくる。
その様子に影たちも分が悪いと判断しのか、姿勢を低く保つと突然に懐からボール状の何かを取り出してこちらに投擲してきた。
それに間をおかず同じ軌道で投げられる1本のナイフ。
「あれは…、しまった!」
ナイフとボールが空中でぶつかった瞬間、ボールが破裂して中から大量の煙が発生した。
「ちっ…! 各自それぞれで集まって警戒っ」
ジルオニクスの声が入る頃にはそれぞれが固まって周囲を警戒している。
しかし煙に紛れての襲撃もなく、それが晴れたときには5つの影たちは忽然とその場から姿を消していた。




