表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第二章 王女様とレイビィトの霊薬》
60/124

宿屋にて

  フィリアは今、麓の町の宿屋で、ベッドに横になっていた。

 まだ、服は寝巻きではなく普通の服である理由は、ついさっき宿の部屋に戻ってきたばかりであったためだ。

 今まで気がついていなかったが、塔を出た頃にはすでに日が落ちていた。

 角自体はカイオールが塔内部で事前に連絡をとっていた別の部隊が王都までの運搬を引き継ぎ、それを受け取るとすぐさま王都に向けて馬を走らせたので問題はない。

 カイオールたちの部隊は戦闘や探索の疲れを癒すため、今日は宿での宿泊となったわけだ。


「フィリアさん、とりあえず入浴致しましょう。今の時間帯なら空いているそうですし」


 ベッドの上でうだうだしている彼女を見かねたレミアータが提案する。

 実際、今日は動き回ったり土煙にまみれたこともあり埃で体がザラザラしていて気持ちが悪かった。


「はーい。分かりました、レミさん。今行きますぅ」


 だらけきって間延びした声を返しながらもフィリアは起き上がり、入浴を準備にとりかかった。


 ◇



「ネイト殿、今日は見事な剣技だったな」


 食堂でネイトが夕食を摂ろうとテーブルにつくと、その正面に同じように食事に来たジルオニクスが腰を降ろした。


「ジルオニクス様。……申し訳ありません、気づかず先に席についてしまって」

「いや、気にしないでくれ。ここは一般の宿だ。まして今はようやっと取れた休息。礼儀無用だ」


 頭を下げて謝罪しようとするネイトを片手を振ってジルオニクスは制した。


「はっ。有り難きお言葉でございます」

「いいよ。とりあえず夕食にしようか。フィリア嬢たちも呼べたら良かったが、どうやら今は入浴に向かったらしくてね」

「今日は埃まみれになりましたから、そのままというのは女性には辛いでしょう」

「そうだね。仕方ないか。ああ、料理がきたようだね」


 ふたりで雑談をしているうちに食堂の店員が食事を持ってやってきた。

 料理の説明と共に並べられる食事の数々を前にジルオニクスは祈りの姿勢をとる。


「我らに今日も糧を頂けることを感謝致します」


 昨日のVIPルームのときもそうだったが、ジルオニクスは食事の前にいつも祈りの姿勢をとって、感謝の言葉を捧げる。

 この感謝の言葉は創造教会の信者が食事の際に述べる言葉だ。

 リフェイル正統王国は創造協会を国教としているので、王子であるジルオニクスもまたその信者なのは当たり前だった。


「ところで今日は別室ではないのですね」


 食事を始めてしばらくしたとき、ネイトが思い出したようにジルオニクスに問うた。

 昨日はVIPルームでの食事であったため、てっきり今日もそうだろうと考えていたネイトは不思議に思っていた。

 問われたジルオニクスは苦笑を零す。


「流石に連日はちょっとね。本来私としてはこちらの方が好みなんだけれど、昨日は宿の体裁というのもあって頼み込まれていたんだよ」


 その答えになるほどとネイトは頷いた。

 王族の人間が泊まりに来た宿というのはそれだけでブランドだ。しかも王族が食事をした特別室となったらさらにその価値は上乗せれる。

 商魂逞しいといえばいいのだろうが、それには本当に苦笑するしかない。


「ところでネイト殿。まだ体力に残りがあれば、このあと剣を交える気はないかな?」


 話題転換とばかりにジルオニクスが突然、ネイトに提案を持ちかけてきた。


「模擬訓練ですか? 私でよろしければ是非お願い致します」

「決まりだね。それじゃ、食事のあと少し休息をとってから外に出よう。私も護衛の者に連絡しなければならないしね」


 楽しそうにニヤリと笑みを浮かべてふたりは食事を再開した。


 ◇


「風が気持ちいいですねー」

「ええ。入浴のあとには丁度いいですね」


 入浴を終えたフィリアたちは一度部屋に戻ったあと、宿の外で散歩をしていた。

 春になったこともあって風は暖かさを乗せているため、上着を一枚羽織れば充分に温かい。


「レミさんともひとまず明日でお別れですね…」


 明日はもう王宮に向かって、早ければ1日で全部の予定が終わりだ。そう考えてどこか寂しくなったフィリアがポツリと声を漏らす。

 そんなフィリアの様子にレミアータは優しく微笑むと軽く頭を下げる。


「大丈夫です。フィリアさんはお店を開かれているのでしょう? 時間が空いたときには顔を出させて頂きますから」

「ほんとですか! 楽しみです。是非遊びに来てください、ってお店に遊びにっていうのもおかしな話ですけど」


 照れたようにはにかむフィリアの頭をレミアータが思わず撫でる。

 レミアータからしてみればここ数日フィリアと行動を共にして、言葉遣いはともかく、まるで妹ができたような感覚が新鮮だった。

 つまるところ彼女にしてみてもフィリアの護衛を務めるのは楽しかったのだ。


「ふふっ。ええ、是非行かせて頂きます」


 思わず笑みを零した彼女にフィリアもまた釣られたように笑った。

 しばらく温かい雰囲気のままでいたが、突然レミアータの表情が切り替わる。


「レミさん?」

「……囲まれています」


 不穏な空気を感じ取ったフィリアが小声でレミアータに尋ねると、彼女も小声で今の状況を伝えてきた。


「……ほんとです。数は5くらいですか」


 すぐさま魔力マナを広げて最低限の人数を確認すると、意識を戦闘に持っていく。

 レミアータも剣に手をかけてフィリアを庇うような位置取りをする。


「出てきなさい」


 すでに走って逃げるには囲まれ方と自分たちの位置がまずい。

 その位置取りからも相手が素人ではなく、その道のプロだと判断したレミアータが誰も見えない通りに声を発する。

 声が夜の中に溶け、一旦の静寂。

 しかしすぐにその闇の中から数人の人影が現れた。

感想で文章のご指摘とご提案を頂いたので、検討の末、修正致しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ