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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第一章 目玉商品とフレイル草》
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ギルド集会所 その2

区切ったので短めです。

「話を戻すけど、フレイル草よね。

ここ数日の事なんだけど、ある冒険者が『リュリダーヒロビアの塔』の近くに、そう、塔内の大迷宮じゃなわよ。

その冒険者が塔の付近に洞窟を見つけたって言っていたそうよ。

それが本当だとしたら、たぶん1枝月しづき前にあった地震の影響で入口が現れたんじゃないかと思うのよね」

「洞窟…ですか? でもそれがフレイル草に何の関係があるんですか?」


コーネリアの語る噂話にフィリアは首を傾げた。

フレイル草の名はフレア、『揺らめく光』という意味から取られている。

フィリアの記憶が正しければ、その名の示すとおりフレイル草の群生地は日光がよく当たる場所で見つかっているはずである。

洞窟の中などその条件の正反対であり、本来ならフレイル草など決して生えることはない。

例外として6つの『神の塔』、その内部の大迷宮では日光が届かなくともフレイル草の群生地帯が存在しているが、それは本当に例外中の例外である。


――『神の塔』。

世界に6つだけ確認されている天に届くほどの巨大な塔である。

創世神話で登場し、この世界の天を支えている柱だと言われているそれは、同じ神話の中に登場する6の神々の名から6柱全てに呼び名が付けられている。

リフェイル正統王国の領内にある『神の塔』は慈愛の神、リュリダーヒロビアの名を冠している。

塔内部には広大な大迷宮が広がっており、階を上がるごとにそこに住んでいる魔物の強さも増していく。

創世信仰教会が大迷宮を神の試練と定めて、迷宮の攻略に乗り出していることはこの世界では有名な話だ。

また、冒険者たちもその危険度に比例して手に入る様々な素材や宝の数々を目当てに日々迷宮に潜っているのである。


「話は最後まで聞きなさい。その冒険者が言うには何でもその洞窟、中から光が漏れていたそうなのよ。

そのおかげで夜でも見つけられたって言っていたらしいわ。それとここからが肝心なんだけど、その入口から中に向かってフレイル草が数本生えていたそうよ。

そうだとしたら洞窟の中に群生地があっても不思議じゃないわ」


にやりと悪戯っぽくコーネリアが笑む。

確かにその話が本当ならそれはとんでもない発見である。

まだ誰の手も入っていない群生地など商人なら誰もが喉から手が出るほどに欲しがるだろう。

しかしそんな旨い話があるのだろうか、フィリアはそこに何か重要な事が隠されているように感じた。


「それが本当なら確かにすごい話ですけど…。だったらどうしてその冒険者の人はすぐに洞窟内に入らなかったんでしょうか?

群生地なんて見つけたらそれを売り払えば、数十年は遊んで暮らせるはずですよ?」

「そこまでは分からないわ。ただ、……そうね。

ここからは仕事じゃなくて貴方の友人として話すけれど、この話を聞いて出て行った冒険者が何人かいたのだけれど誰も街に戻ってきていないのよ。

それぞれがCランクの5人パーティーもいたんだけど、その5人も戻ってきていないわ。

もちろん戻ってきてない冒険者が、ほんとに洞窟を探しに行ったのかは分からないわ。依頼が出ている訳じゃないのだし。

でも戻ってきていないことは確かなの。

このことはまだ調査中の内容だから、できれば内密にしておいてね?」


それを聞いてフィリアは激しい寒気を感じた。

確定情報ではないとはいえ、もし本当の話だとしたならそれはいくらなんでも異常だ。

Cランクといえば冒険者としては一人前、そのパーティーともなれば大迷宮の中級クラスの魔物相手だろうと遅れは取らないような実力を持っているはず。

そのパーティーすら戻ってきていないということは5人全員が身動きが取れない状態にあるかあるいは最悪、全滅している可能性もある。

つまり、それだけの何かがそこにはあるかもしれないということだ。


「話しておいてこんなことを言うのは間違ってるかもしれないけど、私としてはやめておいた方がいいと思うわ。

これは友人としてのお願いだけれど、私はフィリアちゃんには行って欲しくないのよ。なにかあったらと思うと、すごく心配なの」


フィリアはコーネリアのこれほどまでに真剣な、そして不安そうな顔は見たことがなかった。それと同時にそんな様子のコーネリアに、不謹慎かもしれながフィリアは内心どこかでとても嬉しく感じていることを自覚する。

父が亡くなってから自分のことを心から心配してくれる人はさらに少なくなってしまっていたからだ。

こんなに自分のことを想ってくれてる人を心配させたくない、とフィリアは心の底から思ったが、しかしそれでも、ここで退いたらダメだと彼女の中の何かが確かに告げていた。


「心配してくれてありがとうございます、コーネリアさん。

わたしの事を友達って言ってくれてすごく嬉しいし、心配してくれてることも、その、不謹慎かもしれないですけど同じくらい嬉しいです。

でもやっぱりわたし、行ってみます。

それにほら! わたしこれでもDランクの資格持ちですし、何だか危なそーだったらすぐに引き返してきますから!」


おどけたように誤魔化すフィリアに、コーネリアはそれでもしばらく心配そうに彼女を見ていたが最後には諦めの溜息をついた。


「……分かったわ。それじゃ、情報を提供してくれた冒険者にはこっちから連絡するわ。

ただし、本当に危なそうだったら絶対に引き返してくるって約束してちょうだい?

こんな約束させるなんて業務担当者としては失格なんでしょうけど、どうかお願い」

「分かりました。約束します。

それじゃあ、ついでにもし何かあっても絶対に帰ってくることも約束しときますね」


心配してくれるコーネリアにせめてこれくらいはと、フィリアは向日葵のような明るい笑顔で約束した。


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