聖獣の角
保管器の数いっぱいまで粘液を採取した一行はすぐさまもと来た道を引き返し、転移陣で13層まで跳んだ。
戦闘後ということもあって一度、休憩を挟んだが概ね予想通りの時間に13層に到着することが出来た。
そのまま進み、昨日の聖獣の寝床へと辿り着いたところでようやっと足を止める。
「急いで申し訳ないけど…。王女殿下の容態も気掛かりだ。すぐに聖獣殿とコンタクトをとれるかな?」
歩きながらではあったが、魔法薬を飲んで少しは魔力が回復し、身体のだるさも無くなったフィリアにカイオールが気遣うように尋ねる。
彼らの方が前線に出て、直接的に命のやりとりをして疲れているはずなのに、それでも気遣いを忘れない様子にフィリアは安心させるように微笑んだ。
「大丈夫です。任せてください」
昨日会ったときには緊張と不安でいっぱいだった気持ちが、今日は何故か不思議と落ち着いている。
珍しく自信に満ちたフィリアの声にネイトが離れた場所で驚いているのが彼女の目に入った。
「分かった。任せたよ。こちらはその間に早馬の指示を出しておくから」
「はい。それじゃ、行ってきますね」
歩き出した背を見送り、カイオールはすぐに伝音器の準備を指示した。
昨日来たばかりではあったが、何故か懐かしく感じる聖獣の寝床を前にフィリアは、目を閉じて息を大きく吸い、深呼吸をする。
そうしてゆっくりと瞼を開けると、まるでそれを見計らったように遠くの空から大きな翼が近づいてくるところが見えた。
翼はすぐに目の前になり、自然と漏れ出る威圧を放ちながらフィリアの前に降り立った。
『よくぞ参った、フィリアよ』
思念を通して伝えられる威厳に満ちた声にフィリアは自然と礼をとる。
「スレイフォンレイブ様、再びお目にかかれる事を感謝致します」
『よい。用向きは我の角であろう?』
「はい。貴方様の言いつけ通り、彼の魔物を討ち取って参りましたのでご報告にと。証もこちらにお持ちしております。」
『取り出さずともよい。汝らの奮闘、しかと見届けた』
恭しく頭を下げたまま、ポシェットから粘液を取り出そうとしたが、その言葉に驚きを隠せない。
そんな気配を感じ取ったスレイフォンレイブはどこか楽しそうな声で告げる。
『我は遠見も出来るのでな。でなければ、ここから離れた場所にあのような魔物が現れたことも知らないはずであろう?』
言われて見ればそうかもしれないとフィリアは納得する。
ましてや相手は聖獣で、神の使いだ。なにが出来ても不思議ではないのかもしれない。
『見事な戦であった。人の子ひとりでは相手にもできぬ魔の者を力を合わせて討ち取る様は、これこそまさに人間の強さと思うほどであったぞ』
「勿体無きお言葉…。わたしの仲間にも必ずお伝えさせて頂きます」
『うむ。……では、フィリアよ。汝らが約束を果たしたのであれば、我もそれを果たそう』
スレイフォンレイブが瞳を閉じると、額の角が眩い光を放ちながら輝いた。
そうして、光の一部が剥がれると、ゆっくりとフィリアに向かって下降してきた。
「これが……」
胸いっぱいに色々な感情が篭ったまま、彼女は両手を差し出すように前に出す。
剥がれた光がその両手に落ちると、光が収まり、そこには美しい純白の欠片が乗っていた。
『行くがいい。汝が救うと決めた者を救えることを祈っているぞ』
優しげな瞳を向けるスレイフォンレイブをフィリアは正面から見つめ、そのまま無言で頭を下げた。
言葉はなくともその姿には最大の感謝が詰まっていることが聖獣には伝わったため、満足そうに頷く。
そのまま背を向けてその場から去ろうとする背中を見つめるスレイフォンレイブ。
しかしフィリアは寝床から立ち去る直前、再び聖獣の方へと向き直ると、改めて礼をとった。
「本当にありがとうございましたっ」
形式も何もあったものではない礼だったが、その言葉にスレイフォンレイブの目が嬉しそうに細められる。
頭を上げるとフィリアは歩き出し、その背はもう振り返ることはなかった。




