奮闘
「ウオオオォォォォっ!」
轟くような雄叫びをあげながら騎士フレオが防御膜を打ち破ろうと、スキルを発動して切れ味の増した剣で斬りかかる。
フレオだけではない。交代で前に出た他の騎士たちも同様に防御膜に斬ってかかる。
一点集中でかかる者たちや多方向から崩そうとする者たちと、それぞれが行動を起こしていた。
「はああぁぁ…っ!」
カイオールの気合いの一閃、スキル《斬鉄》がその剣より放たれ、防御膜に傷を入れる。
この防御膜を破らなければ今回の作戦の狙いがそもそも達成できないとあって、騎士たちは皆必死だった。
「来るぞっ」
交代で一足先に後方に下がっていたジルオニクスが声を張り上げて危険を知らせると、前衛に騎士たちはすぐさま駆け出して盾の後ろに回り込む。
そうして再びグランレイフィオから術の爆撃が始まるが、しかしすでに何度もこの行動を繰り返しているために騎士たちの対応も慣れてきていた。
時折、フィリアの分身体との戦闘で見せたような肉体変化による触手での攻めも交えられたが、一度見た攻撃ならば対処がしやすいと、皆が冷静に対処をしたので無事である。
「とはいえ、どうするか…」
盾の後ろでカイオールが腰を落としながら呟いた。
このままでは恐らくジリ貧ということは分かりきっている。鍛えているとはいえ、騎士も人間であるのに対し、魔物はその体力の異常さからも魔物と言われいているのだ。このままではいずれ追い詰められるのはこちらだろうとカイオールは冷静に判断していた。
そこへ後ろから回り込んできたのか、ジルオニクスが彼の肩を叩いた。
「カイオール殿、もう少し時間を稼いでくれ。……アレを使う」
「殿下っ、それは…!」
自身の切り札をきるというジルオニクスの言葉に、カイオールは目を見開いた。
「いや、今こそ使わなければならないときだろう。心配するな、皆が協力してくれさえすれば、傷など負わないさ」
自信ありと口角を持ち上げる彼の言葉に、カイオールは瞳を一瞬閉じてから頷く。
「承知しました。御身に一切傷は負わせません」
「ああ、信頼しているよ」
ふたりは目線を合わせると、カイオールがまずは前線に向かって駆け出した。
王子殿下の準備が完了するまでは自身が注意を引き付けなくてはならない。彼は残りの体力の多くを使い、渾身のスキルを発動した。
防御膜へ向けて、下段からそのまま跳ね上げるように高速で剣を振り抜く。そうして上段から再び剣を返し、下段へと振り下ろすというその動作。
スキル《弓月》。
その軌跡が弓の形のようにも、欠けた月のようにも見えることから付けられた名のスキルは、防御膜に一瞬にして亀裂を入れる。
(このまま喰い破る―っ!)
隙を見出したカイオールが再び剣を走らせようとするが、そうはさせまいとグランレイフィオの触手が殺到する。
「く…っ」
バックステップで後退しつつ、剣で迫り来る触手を跳ね除けて回避に徹することで、なんとか耐え凌ぐ。
再び剣を正面に構え直した彼を、グランレイフィオは最大の敵と判断して猛攻を仕掛けにかかる。
(ひとまず狙い通りか。あとは頼みますよ、殿下)
副団長として磨き抜かれた剣技と体術により、グランレイフィオの光弾や触手の猛攻を潜り抜け、防御膜へと向けて攻撃を浴びせるカイオール。
他の騎士たちもできる限り、敵の注意を散漫にさせようと、その隙をついて膜へと向けてスキルを与え続けた。
そうして耐えたところで、切り札たる者の声が戦場に轟く。
「カイオール殿、行くぞっ!!」
声が聞こえたことに合わせて、カイオールと騎士たちが一気に後方へと距離を離す。
その突然の行動に戸惑ったグランレイフィオの隙を逃さず、代わりに走り込んできたのは剣を水平に構えたジルオニクスだ。
「おおおぉぉ――!」
迎撃しようとグランレイフィオが行動を起こそうとするが、ジルオニクスの方が僅かに早い。
彼は構えた剣を駆けながらも強く握り締めた。
片足で地面に力強く踏み込み、踏み込まれた地面が大きく抉られる。
跳ね上がる土や石に構わず、捻った腰と共に剣をそのままバネのように勢いよく振り抜く。
一見ただ剣を勢いよく振っただけのような動作のその技は、カイオールの渾身のスキルでさえも完全に破ることができなかった防御膜をいとも簡単に切り裂いた。
スキル《破砕斬》。
ジルオニクスの誇る、彼の切り札たる技。
その破壊力は剣技系スキルの中でも郡を抜く。習得がほぼ不可能と言われていたそのスキルを、彼は天賦の才とたゆまぬ努力の果てに会得した。
しかしその破壊力と引き換えに、体力のほとんどを使用するために多様はできない。
防御膜を打ち破られたグランレイフィオは怒り狂ったかのように生命核を激しく点滅させて、標的をジルオニクスへと変更する。
「……殿下っ!」
自身のスキルの反動によって膝をついたジルオニクスの前にフォローに入った盾の騎士が防御に回る。
それを見届けると、カイオールは遂に彼女に向けて大きく叫んだ。
「フィリアちゃん、今だ…っ!」
その声に応えるように後方で機を窺っていたフィリアが瞳を大きく開く。
「はいっ」
戦場に不似合いな可愛らしい声を返すと同時、フィリアはその身に溜め込んでいた魔法を発動させた。




