マーカー
今回は短めです…。その上、脇役が活躍する回ですけど…。
想定戦闘を終えたフィリアの顔色が良くないとカイオールが一旦この場から下がって作戦会議を提案した。
副団長であり、現在の隊の指揮者でもある彼の言葉に騎士たちは皆頷く。
しかしそこで当のフィリアが首を横に振った。
「駄目だ、一旦休まないとあれとは戦わせられない」
カイオールが厳しく否、と言われたフィリアは慌てて訂正を入れる。
「違います。このまま引き下がったらあのフィオを見失うかもしれません。擬態があるんだとしたら、また見つけるのは難しいかもしれないです」
「……だけど、仕掛けることはできない。まださっきの対策を立てていないからね」
「それは分かっています。だからマーカーを付けておこうと思うんです」
マーカーという聞きなれない単語にカイオールは訝しげな目を向けた。
「それはなんだい?」
「そう離れていなければ目標の相手がどこにいるか分かるようにする物です。わたし専用ではあるんですけど、念の為に持ってきていたんです」
話しながらも片手でポシェットの中を探っていたフィリアが目的の物を探り当てたのか、その手を引き抜く。
手にはピンク色の丸い小さなボールが握られていた。
「これがマーカーかい?」
「はい。これを相手に投げて当てることができれば、追跡することが可能です。この中にはわたしの魔力が込められていて、付着した相手をそれを辿って見つけることができるっていうアイテムです」
「分かった。とりあえずそれをどうにかしてあれに当てればいいわけだね」
ピンクの球を受け取ったカイオールはすぐに後ろの部下を見る。
「ラインハルト、お前は確か弓の名手だったな。行けるか?」
「任せてくださいよ。弓なら持ってきてますから」
今いる騎士たちの中で唯一、弓を扱うことに長けたラインハルトと呼ばれた騎士が自信満々に頷く。
いつもは剣を扱っている彼だが本来の武器は弓であり、前回の渓谷で空の敵に時間をかけたことで、今回は特例で弓の使用許可を出した。
本来、騎士の装備は皆同じ物に揃えられているのだが、最近の騎士団内部でも得意武器ごとにそれを分けた方がいいという意見も出ている。
「頼んだぞ」
球をラインハルトに手渡すと、カイオールはこの場を離れることを指示する。
もし矢を放ってそれが命中したとしても、相手の術の射程範囲内であったなら意味がないためだ。
「フィー、掴まれ」
「ネイト…、ありがとう」
顔色の悪いフィリアに肩を貸してネイトが姿勢を見つからない程度に上げる。ネイトの手が塞がっている間はレミアータがあたりの警戒を強めていた。
「離れるぞ、遅れるなよ」
騎士たちは警戒を続けながらもその場から静かに離れた。
「充分に距離は取ったが…。ラインハルト、いけるか?」
「問題ないっすよ」
すでに背中から弓を外して構えているラインハルトは精神を極限まで集中させた。
この状態の彼ならばそう滅多なことでは外さないだろうと確信したカイオールは皆にも静かにするように身振りで伝える。
僅かに静寂の時間が流れ、ラインハルトがここだと判断した瞬間に矢を放った。
それは吸い込まれるように魔力を貪り喰うことを続けていたグランレイフィオに見事命中し、矢に取り付けられていたマーカーをその身にぶちまける。
突然の攻撃にグランレイフォオは動揺したようでその身を震わせているが、こちらは予想通り射程圏外だったらしい。
しかしあまりここに長居もできないとすぐさま騎士たちは移動を開始した。
「さすがは名手と呼ばれるだけはあるな」
「お褒めに預かり光栄ですっと」
歩調を早めながらもカイオールはラインハルトの肩を叩いた。




