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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第一章 目玉商品とフレイル草》
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ギルド集会所 その1

とりあえず集会場での会話はあと1回続く予定です。

 夜の街は昼間とはまた違った魅力がある。

ミュントイルスでもそれは変わらず、中央通りの賑わいはさらに顕著だ。

店ごとに煌く、色とりどりの街灯に街に戻って来た冒険者を狙っての美男美女たちによる客引き。

その日に売り切るために食材の叩き売りを始める食品店が通りの客に向かって声を張り上げている。


「うわ~! 相変わらずこっちはすっごいなぁー!」


そんな喧騒の中を人の流れに上手く乗りながらフィリアは歩いていた。

学園にまだ通っていた頃は放課後によく一人で街中を歩き回るのが趣味だったが、店を継いでからは慣れない仕事に追われてなかなかこちらに出てくることも出来なくなってしまっていた。

そのため少しばかり気分が浮ついていたところで誰も責めることなどできないだろう。


「あ、あれ美味しそう! あっちのは飾り付けが素敵! こっちのはすっごく安い!」


あちこちに視線を向けては溢れる品物の数々に目を奪われる。

いくらお店を経営していてもさすがに年頃の女の子、色々な物に興味は尽きないのだ。

しかし一応、本来の目的自体はきちんと頭に残っていたのか、一通り目で見て楽しんだあとは冒険者ギルドの方へ足を向けた。


冒険者ギルド集会所――そこは夢追う者、人生を追い詰められた者、闘いを望む者たちが集う場所。

国のみならず世界中から様々な依頼がそこには舞い込む。

それに比例して人の入れ替わりが激しいそこは外の情報を集めるのには最適とも言える場所だ。

確実な情報から怪しい儲け話、果てはそれこそ絶対に有り得ないような噂話まで何でも揃っている。

だが、もちろん情報という貴重なものは無料タダで貰えないということは常識だ。


「お邪魔しまーす」


集会所の扉を開いたフィリアは言う必要は全くない事を思わず小声で呟いてしまう。

フィリアが集会所に来ていたのは学園生時代、お小遣い稼ぎで依頼を受けていた頃なのでかれこれもう1年近く前になる。

久しぶりに来た集会所はやはり昔と変わっていなくて、賑わいながらもどこか特殊な緊張感が漂っていた。

入ってきた自分を値踏みするようなあからさまな視線の多さに内心では辟易しながらも表情にはそれを決して出さないように注意する。


「さてっと、まずは情報カウンターに行ってみましょー」


目的の情報カウンターは受付のすぐ横にある。

すでに業務終了の時間が近くなっているためにカウンターに居る冒険者はだいぶ少なかった。

5巡ほど待ってすぐにフィリアの順番が回ってくる。


「あら、珍しい顔ね。お店の方はどうしたの?」


フィリアがカウンターに近づくとカウンターの向こうから燃えるような赤毛の長髪をバレッタで束ねた女性が声をかけてきた。


「あ、コーネリアさん! こんばんは! っと、その、相変わらず色っぽい服装…ですね?」

「そうかしら? ありがとね」


褒めたわけじゃないんだけどなぁとフィリアが肩を落とすも女性はそれに気づいているのかいないのか飄々としてる。

赤毛の女性の名はコーネリア=ハウル。

冒険者ギルド、ミュントイルス支部の情報カウンターを担当している妙齢の女性だ。

その服装はミニと呼ぶのもはばかられる様な膝上のタイトスカートにギルド制服用のワイシャツである。

しかしワイシャツのボタンも胸のギリギリ上まで外されており、その豊満な胸の谷間が惜しげもなく見せつけられている。

その抜群のプロポーションに加えて、それを存分に生かしたサービス(主に男に向けてだが)の良さで男性冒険者たちの憧れの的として有名だ。

しかしフィリア曰く、いつもちょっとだけ教育上よろしくない服装をしている人、というのは誰もが確かにと頷いてしまう事実である。


「今日はちょっと用事ができたので早めに閉めてきたんですよ。

夜の中央通りの方に来るのも久しぶりでしたし、色々見ながら来るのもたまにはいいかなーって思いまして」

「そう。そうよね、慣れないお店のやり繰りは大変よね。

たまには息抜きも大切なことよ。……何だったら私が直接教えてあげてもいいけど、いろいろと。フィリアちゃんなら大歓迎よ?」


一体どんな息抜きを教えようというのか。

カウンターから身を乗り出し、獲物を捕らえる猛禽類のように目を細めてふふっ、と妖しい微笑を浮かべるコーネリア。

捕食される直前の小動物のように、いえ折角ですけど遠慮しておきます、とフィリアは首を横に振りながら数歩後ずさる。


「ざーんねん。振られちゃったわ。でも、気が向いたらいつでも誘ってくれて構わないわよ?」


コーネリアは乗り出していた体を戻して今度は悪戯っ子のように子供っぽい笑みを浮かべた。


「それで? ここに来たってことは聞きたいことがあるんでしょう?」

「あ、はい、そうでした。あのですね、ここ最近で領域スペース申請可能地域のどこかに新しくフレイル草の群生地とか見つかってないかなと思いまして。

確実な情報じゃなくてもいいんです、噂話程度のものとかある種の伝説みたいな話でもいいので何かありませんか?」


フィリアは内緒話でもするように小声になった。

情報カウンターには盗聴などを防ぐために防音器が設置してあるが、情報をやり取りする際に小声で話してしまうのはフィリアの癖である。


「フレイル草? ……なるほど、やっぱりお店関係なのね。

ほんとにフィリアちゃんはいつでもお店を大切に考えてるのねー。お姉さん、尊敬しちゃう」

「もうっ、茶化さないでください! コーネリアさんはいつもそうやってすぐにわたしをからかおうとするんですから」


頬を膨らませてそっぽを向くフィリアをコーネリアはまるでやんちゃな妹に向けるような愛情に満ちた目で見ていた。

コーネリアはフィリアが初めてここに来た時から彼女の事を知っており、集会所に来なくなった今でも業務時間外に店まで買い物に来るくらい彼女を心配していた。


「ごめんなさいね、そんなつもりはなかったのだけれど。許してくれないかしら?

それで、フレイル草についてだったわよね。そうね、あるにはあるけど聞いていく?

噂話程度だから対価は共通銅貨なら50枚、リフェイル銅貨なら16枚だけどおまけして14枚にしてあげるわ」

「おまけなんてして大丈夫なんですか? あとで怒られたりしません?」

「心配してくれて嬉しいけど、大丈夫よー。リフェイル銅貨の2枚くらいなら問題ないわ、サービスの一環ってことで片付くから。

そ・れ・に、フィリアちゃん、今あんまりお金ないんでしょ? ネイトくんから聞いてるわよ、そこのところ」


ネイト、お店のことを宣伝してくれるのは嬉しいけどそんなことまで話す必要ないよー…とフィリアは心の中で涙を流した。


「お気遣い頂いてありがとうございます…。ご好意に甘えてリフェイル貨で払います」


フィリアは腰のアイテムポシェットから小銭の入った小袋を取り出してリフェイル銅貨14枚をコーネリアに手渡す。

それをコーネリアは素早く数えて保管箱にうつした。


「はい、確かに。それじゃフレイル草の情報ね。今から口頭で伝えるけど、情報をまとめた用紙もちゃんと渡すから安心してね」

「え! 最近は紙媒体でも貰えるんですか!? 1年前までは全部暗記しなくちゃいけなかったのに!」

「そうなの、最近ラッセル商会が紙の大量生産方法に成功したらしくて紙が安くなったから出来るようになったのよ。便利な世の中になったわよねー」


頬に手を当てながらコーネリアはしみじみと呟いた。

共通銅貨1枚でこちらでの10円相当。

リフェイル銅貨は国内通貨で銅のは配分量などから共通銅貨の約3枚分の価値があります。


その下に青貨という銅よりも金属として一段劣る物が存在しますが、情報カウンターでは取り扱っていません。

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