焼けつく痛み
探し始めてから3刻半が経ち、時間は12の刻半をまわる。
さすがに体力勝負の騎士は問題がないが、初めてくる場所で、しかも湿った地面に足を取られる状況にフィリアは早くも疲労が見え始めていた。
(わたしひとりだけ足でまといになる訳にはいかないよ…っ)
息を乱しながらもなんとか皆についていく彼女だったが、流石にその様子をカイオールに気付かれる。
彼はフィリアの様子からここで無理をして探索を続行するよりも、一旦休憩を挟んで体力を回復させたほうがいいだろうと判断した。
決めたらすぐに付近を見回して、どこか少しでも休息をとりやすい場所を探す。すると少し離れたところに割と湿っていない、丘のような場所を発見した。
「皆、あそこの丘を目指してくれ。時間もいい頃合だ、一旦休憩としよう」
カイオールが指差した先に丘があることを確認すると、騎士たちはそちらに進路をとって進み始めた。
足場の悪さに行軍速度も下がるが、それでも10巡も歩くと丘に辿り着くことができる。
「腰を下ろす場合は毒草などに注意しろ。足は防具で問題ないが、露出した肌に当たると厄介だぞ」
注意を促す副団長の声が聞こえる頃には、騎士たちは慣れた動作で自身の周りに毒草が無いかどうかを確認し終えて腰を下ろしていた。
「副団長、昼食はどうします? ここで済ますようでしたら準備しますが」
騎士のラスが自身の荷物を指差しながら尋ねる。彼は騎士の荷物の一部を管理している立場でもあるようで、今日もその例に漏れていない。
「そうだな。次に休むのは昼時を過ぎているだろうから、ここで済ませた方がいいか」
「了解。それじゃヴィル、さっさと準備するぞ」
ヴィルと呼ばれた騎士はラスに従って立ち上がり、ふたりで荷物を探り始める。
そうして今朝、宿で用意してもらったらしい弁当箱を取り出して、各騎士たちに配給していく。
「フィリア師、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。ここまで俺たち騎士についてこられる一般の方もなかなかいないので、フィリア師は充分やっていると思いますよ」
フィリアもラスから弁当を貰ったので頭を下げたが、どうやらラスにもフィリアが自分たちの行軍速度を落としてしまっていると気を落としていることがバレていたらしい。
優しく気遣いの言葉をかけられて、フィリアは恥ずかしいやら気まずいやらで大変だった。しかし、もちろんそれが嬉しかったのも事実ではあるが。
(とりあえずお弁当だよ。せめてちゃんと時間内に食べないと)
むんっと両手を握って頷くと、フィリアはさっそくお弁当の蓋を開けた。
「うわっ、すっごい」
さすがは高級宿のお弁当といったところか。
お弁当はチキンの照り焼きに生野菜とベーコンのサンドイッチ。半分に割られた煮タマゴなど他にも綺麗に飾り付けられた料理とフィリアが作ったのとは大違いの、美味しそうな物が詰められていた。
「これは美味そうだな」
隣の声に振り返れば、そこでは同じく蓋を開いたネイトが感心したように呟いていた。
「………やっぱりこれくらいじゃなきゃダメなんだね」
彼の感嘆の声にフィリアはひとりでぼそっと声を漏らした。
早く料理の腕を上げて、食べた人をあっと言わせてやると彼女は内心で改めて決心する。
「さて、それじゃあ、いただきますっ」
使い捨てのフォークを手に握って今まさに食べ始めようとしたとき、その声はあたりに響いた。
「ぐあぁっ」
急に聞こえた苦痛に満ち声にフィリアは身をビクッと竦ませる。
それと同時にレミアータとネイトがすぐさまフィリアの横に回り込み、周囲を警戒する様子を見せた。
「なんだっ」
「敵襲ですか…っ」
声のした方向を皆が向けば、そこに騎士コルベが片腕をおさえて蹲っている。
「コルベ! どうした!?」
カイオールが駆け寄るとコルベが顔をあげる。
その顔は苦痛に歪み、額には脂汗が浮かんでいた。
「副団長…っ。腕に毒虫が…」
「なにっ。見せてみろ」
息も絶え絶えに訴えるコルベの腕をカイオールがひくと、その腕はすでに赤黒く酷く腫れていた。
「フィリアちゃん、こちらにすぐ来てくれ! それからあとの者は周りに毒虫などがいないかすぐに確認しろっ」
「はいっ! 今行きますっ」
呼ばれたフィリアは横に置いていたポシェットを引っつかみ、コルベ騎士の横に駆け寄る。
横に膝をおとした彼女へカイオールはコルベの腕の状況を見せた。
「これが何の毒か、分かるかい」
赤黒く変色した皮膚に酷く盛り上がって腫れた患部。コルベの様子からしてみて激痛も伴っているようだ。
以上の条件からフィリアは心当たりのある毒を脳内で検索した。
「……確証は持てませんが、恐らくレッドポイズリーリリットの毒だと思います。湿気の多い場所に生息してて、強い痛みとこの腫れ具合からしてたぶんですけど」
「分かった。それなら中級の解毒薬がいいか。用意は?」
「してあります。今出します」
ポシェットの中に手を突っ込んで探ると、目的の物に指が当たる。それを急いで取り出して、軽く振って一応状態を確認すると、フィリアはコルベの口元にその瓶を持っていった。
「ゆっくり飲んでください。一気に飲むと中毒症状がでますから」
「あり…がとう……、ございます」
少量ずつ飲ませると、コルベの呼吸が落ち着き始めた。
毒の正体は未だ判明していないが、どうやら中級で当たりだったようだ。
「もう少し楽にしてて下さいね」
「はい、ありがとうございます…」
少し良くなった顔色に安堵の息を漏らして、フィリアはカイオールに振り返る。
彼も状況が落ち着いたと判断したのか、微笑を浮かべて頷いた。
「容態は安定したので、あと少し休憩を入れたら動けるようになると思います」
「そうか…、分かった。助かったよ、本当にね」
素の表情が垣間見えたカイオールにフィリアはクスっと笑みを零したが、今の事件から毒の凶悪性をより実感してもいた。




