朝起きたら
「あれ? ……ここ、どこっけ?」
目を覚ましたフィリアは見慣れない天井を眺めながら呟いた。
「えーと、そう…。昨日は……、あー、塔に登ったからここ、宿屋だ…」
寝ぼけた頭で思い出すが、何故か深夜に遅い夕食を食べている最中から記憶がない。一体どうしたことだろうと、とりあえずベッドから這い出てカーテンをめくってみる。
日はすでに上がっていたが、傾き具合から見てまだ早朝、7の刻ほどだろうか。
「んん?」
フィリアが首を傾げていると、ドアノブがかちりと音を立てた。
「起きられていましたか。おはようございます、フィリアさん」
中に入ってきたのはレミアータだった。すでに騎士服を着込んでいるところを見ると、だいぶ早く起きたらしい。
その手にはパンと果物の入ったバスケットを持っていた。
「おはようございます、レミさん。早いですね。……もしかしてわたし、寝言とか煩かったですか?」
普段はそんなことはないはず、と思っているが旅先では不安だ。慣れない環境での就寝などはいつもやらないことをやらかすこともある。
現に今、昨日の記憶が途中で途切れていることもあって、それは余計に増していた。
「いえ、とても静かにお休みになられていましたよ。ただ私は早朝に自主訓練を入れているので、早い時間に起きたというだけです」
柔らかく微笑みながらレミアータが、手に持っていた物を部屋の端にある小さなテーブルの上に置く。
そうして、フィリアの方に振り返りながら少し困ったような顔になる。
「ところでフィリアさんは昨日のことをどこまで覚えていらっしゃいますか?」
先程までフィリア自身が気になっていたことを尋ねられて、彼女は目を丸くした。
やはり何かまずいことをやらかしたかと戦々恐々とする彼女の背に冷や汗が流れる。
「実は、夕食の途中から記憶がなくて…。やっぱりなにかやりました?」
「ああ、やっぱりそのあたりですか。いえ、これといっていけないことはしていません」
「本当ですか…? 気遣いだったら無用です…!」
優しい声で語りかけてくるレミアータにフィリアは覚悟を決めたような声音で唇を引き結ぶ。
「本当です。実は昨日、夕食の途中で出てきた飲み物が水かと思っていたのですが、どうやらお酒の類だったようでして。私たちがそれに気づく頃にはすでにそれなりの量を飲んでしまったあとだったんですよ」
「お酒ですか? わたし、お酒って飲んだことがないので全然…。確かに飲んでたお水が甘くて美味しいなって思ってましたけど、あれってお酒だったんですかっ」
レミアータが言うにはあれはユカ酒と呼ばれる果実酒で、同じ果実酒の中でも芳醇な香りとほのかに甘くとろけるような味わいが特徴なのだそうだ。
アルコール飲料の中でも割とアルコール度数が高いことも有名で、また、高級酒としても愛好家に親しまれているらしい。
「フィリアさんはどうやらお酒に弱いようですね。私たちが気づいた頃にはすでに意識が怪しかったですから」
「えぇっ! もしかしてわたし、ジルオニクス様の前で酔ってしまったんですかっ」
「ええ、ですが酒乱という訳でも無く、ただそのままお眠りになってしまったのです。流石にご飯の途中で突然、意識が無くなられたときは心配しましたが、様子からして酔っているだけのようでしたからすぐに安心しましたよ」
王子様の前で酔って意識を無くすなんて醜態を晒すとは思ってもみなかった事実にフィリアは頭を抱える。
「あぁ~…っ。そんな…、それって結構やらかしちゃった部類ですよねっ!? ジルオニクス様、怒ってなかったでしょうか…」
ひとり悶えるフィリアを温かい目で眺めながらレミアータは首を振る。
「怒ってはいらっしゃいませんでしたよ。疲れもあったのだろう、とご自分で部屋に運ばれようとしました、が殿下にそんなことはさせられないとネイト殿が申し出て、彼に部屋に運んで頂きました」
「ネイト、ありがとう…! あとでちゃんとお礼を言っておかなきゃ」
「そうですね、そうした方が良いかと思います。とりあえず朝食を持って来ましたから、着替えを済ましたらいただきましょう」
話しながらもいつのまにやら準備を終えていたのか、レミアータがテーブルの上の朝食を指し示した。




