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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第二章 王女様とレイビィトの霊薬》
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食べ過ぎ注意

「フィリア嬢、レミアータ殿、こんばんは。夕食かな? もし良かったら一緒にどうだろう?」


 声を掛けられたのは偶然だ。

 入浴を終えたフィリアはこれまた自分が用意するからというレミアータに無理言って、一緒に食事を取りに宿の食堂へと向かっていた。

 この宿はランクの高い冒険者も利用するため、食堂が深夜でも空いているという今回のような場合は助かる仕様になっている。

 そこにふたりが入ったとき、ちょうど同じように食事を摂りに来ていたのか、なんと王子殿下がいらっしゃったわけだ。

 護衛も付けずにどうして、と尋ねれば一応食堂入口には護衛騎士が待機しているとのこと。離れてはいるが、確かにジルオニクスの実力を考えればあれくらいの距離でも充分護衛の範囲内なのだろう。

 そうして夕食に誘われたわけだが、流石に王子殿下が直接誘ってくれたのに断るわけにもいかない。


「はい、それではご迷惑でなければ是非」

「殿下とご一緒できるなど、光栄の至りです」


 ふたりの了承を得るとジルオニクスはにこりと今日の疲れを感じさせない軽やかな笑みを浮かべた。


「そういえば、フィリア嬢は少し緊張が抜けてきたみたいだけれど、まだ固いね。……そうだな、折角だしネイト殿も呼んでみようか」


 良いことを思いついたというようにジルオニクスは楽しそうな声を漏らすと、すぐさま護衛騎士のひとりに近づき、ネイトの都合を訊ねて大丈夫なようなら呼ぶように指示を出した。


「それでは先に席についていようか。それではお手をどうぞ、レディ?」


 悪戯っぽく微笑みながら差し出された手に、フィリアは戸惑いながらも自身の手を重ねる。

 学園生時代に開かれていた学園主催の舞踏会や夜会にも参加したことがなかった彼女は、ここまで丁寧にエスコートされることに慣れていない。

 ネイトとふたりで遊びに行くときは、彼がさりげなくエスコートしてくれていることは分かっているし、すごく嬉しくもあるが王子様というものにされるとまた違うものだ。

 そのままジルオニクスに案内されたのは宿の大食堂ではなく、食堂の扉の向こう側。そこはどうやら所謂いわゆるVIPルームというものらしく、雰囲気の良い個室になっていた。


「わたしこんなところ初めて来ました」

「フィリア嬢は要職の人間ではないしね。こういうところが初めてでもおかしくはないよ」


 瞳をきらきらさせながら部屋を見回すフィリアに、ネイトは苦笑しながら応える。


「それでは、こちらへどうぞ」


 部屋の中央にあるテーブルへフィリアを連れてくると、ジルオニクスは椅子を引いてそこへ座るように促す。

 本来は王子がするようなことではないとフィリアは慌てたが、ここは人の目もないので気にしないようにとジルオニクスは微笑んだ。


「さ、レミアータ殿もどうぞ」

「いえ、大変光栄なことでは御座いますが、大衆の目が無いとはいえ私は騎士です。仕えている王族の方よりも先に席に着くことはできません」


 同じように椅子を引いて、レミアータに座るように促したジルオニクスだったが、レミアータの騎士としての矜持を感じて、微笑みながらも黙って頷いた。


「それでは先に席につこうか。でも、そのまま立ったままは駄目だよ、落ち着かないからね。仕えている主と席を一緒に出来ないっていうのは本来ならば分かるけど、だからこそ今は個室にしたのだからね」


 先に逃げ場を封じられたレミアータは少々苦い表情になりながらも大人しく席に着いた。

 そこで個室の扉がノックされる。


「ジルオニクス殿下、ネイト=レイ=ルードスです」

「ああ、どうぞ。入って構わないよ」


 入室の許可が出たため、扉が静かに開かれてネイトが部屋に入ってきた。

 どうやら入浴を終えたばかりだったらしく、髪が少し濡れているのが遠目でも分かる。


「突然呼んでしまってすまなかったね。ラス殿から聞いているかと思うが、一緒に食事でもどうかな? フィリア嬢がまだ緊張気味だから知り合いがいた方が安心するだろう?」


「はっ。是非にも」


 そのまま軽く頭を下げて簡易の礼をすると、自身も三人を待たせないようにすぐに席に着く。

 全員が席に着いたのを確認するとジルオニクスはテーブルの横にあった呼び鈴を押して、ウエイターを呼び出した。

 部屋に入室したウエイターは王子の顔を知らなかったようで、全員が同じ卓についているのを何の疑問にも思ってはいないようだ。

 それにもし彼が王子の顔を知っていたとしても、この部屋の中のことを漏らすことは禁じられていて、それをウエイターたちも弁えているために誰かに話すことはないはずである。

 そのままジルオニクスはいくつかメニューを注文してから、ウエイターが去るのを待ってフィリアに視線を向けた。


「さて、フィリア嬢。今日は本当にご苦労様。聖獣との直接の相対は相応に負担が大きかっただろう」

「そう…、ですね。さすがにあの魔力マナの波には疲れなかったというと嘘になります。でもジルオニクス様も今日はお疲れなのでは?」

「いや、ただ歩いていただけだしね。戦闘はほとんどが騎士の皆がこなしてくれていたからこちらも安心していられたよ」


 レミアータとネイトに視線を変えて、ジルオニクスは楽しそうに笑う。


「いえ、殿下をお守りすることは当然です」

「未だ見習いの私には勿体無いお言葉です」

「そういえばネイト殿は学生だから見習いだったね。しかし、アリヴィードとの戦いの時はそうとは思えない見事な剣の腕だった。流石は騎士の貴族、ルードス家の後継だな」


 ジルオニクスからの絶賛に、ありがとうございますと返しているネイトはよくよく見れば嬉しそうなことがよく分かる。

 彼は騎士の貴族という自身の家系に誇りを持っているし、自分もそうありたいと努力を重ねているので、それがまさか王子殿下に称えられるとは思ってもいなかった。


「明日はさらに厳しくなるだろうが、どうか最後まで力を貸して欲しい。よろしく頼むよ」


 改めて真剣な顔で三人を見つめる今のジルオニクスは、王子というよりも妹の身を案じる兄の顔だ。

 その真剣様子に三人は改めて誓いの言葉を述べると、それを見計らったように扉がノックされて料理が運び込まれる。

 運び込まれた料理はどれもこれも美味しそうで、フィリアの空腹をさらに加速させたのは言うまでもない。

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