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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第二章 王女様とレイビィトの霊薬》
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入るか入らないか

  フィリアたちはあれから無事に拠点である麓の町の宿に辿りつた。

 途中何度か魔物に襲われたものの、相手は下位クラスの魔物だったので危なげなく対処したのは流石の一言だ。 

 宿についた頃にはすっかりあたりは真っ暗で、無数の星が頭上で輝いているのがよく見える。

 すでに時刻は日を跨ぐほどになっていて、強行軍に慣れていないフィリアの体調を考慮して次の出発は少し遅めの9の刻となった。


「申し訳ありませんが、護衛の関係上で相部屋となっております。息苦しいかもしれませんが、ご容赦願います」


 決められていた部屋に入って扉が閉められると、後ろから付いて来ていたレミアータが腰を折ってフィリアに頭を下げた。

 急な彼女の行動にフィリアは目を丸くしてから頭に疑問符を浮かべる。


「えと、別に大丈夫ですよ? 護衛の仕事だって言うのは分かってますし、それにわたしもレミさんがいた方が安心できますから」

「ありがとうございます。それでは先に入浴に致しましょう。身を清めてから食事にすると良いかと思います」 


 確かに今日一日歩き通しで流石に汗で体がベタついている。服はできれば洗濯したいが今の時刻からでは明日の出発に間に合わないので、そこは魔法で済ましてしまうのがいいだろうとフィリアは考えた。

 この宿は町でも有数の高級宿であるため、なんと部屋ごとに浴室が用意されている。そのため、夜遅くなっても安心して入浴は可能だ。

 それに予定よりも宿に戻るのが遅くなっていたため、言われてから急に空腹を感じ始めてもいる。


「そうですね。それじゃ先にお風呂にしましょう」

「はい、ではフィリアさんが出てくるまでに夕食を手配しましょう。時間も遅いので少し軽めの物にしておきます」


 そう言ってレミアータが頭を下げて出ていこうとすると、フィリアは慌てて彼女の腕を掴んだ。


「えっ、ま、待ってくださいっ。レミさんはお風呂入らないんですか!?」


 フィリアの心底慌てた様子に、今度はレミアータが首を傾げる。


「え、はい。さすがに護衛対象の方よりも先にお風呂に入ることなどできませんし、食事の準備などもまだしておりせんから。私はあとでの入浴になりますが」


 それは女性とはいえ騎士としては当たり前であったし、すでに身に付いた習慣としての行動だ。

 確かにお風呂は魅力的だが、騎士としての職務より優先するものではない。

 そう思ってフィリアを見返すと、彼女はそこでむっと眉を上げて自分を見つめていた。


「ダメです。それなら食事の準備はあとで良いですっ。それよりお風呂です! さっきチラッと見えたんですけど、ここのお風呂はふたりなら充分入れる広さでしたよ」


 一瞬フィリアが何を言っているのか理解できなかったレミアータは、恐らく傍から見れば間抜けな顔をしていただろう。


「……何をおっしゃっているんです? 私にはよく分からなかったのですが」

「何をって決まってるじゃないですか。お風呂です、一緒に入りましょうっ」


 胸の前で両手で握り拳を作る形でレミアータを見つめてくるフィリア。

 レミアータは女性の中でも長身ということもあり、その身長差から上目遣いで見つめられる形となっていた。


「く…っ! だ、駄目です。私は護衛騎士ですので一緒に入ることは出来ません…!」

「えー、でももしわたしが寝てしまうとレミさんがお風呂に入ってる音で起きちゃうかもしれません。護衛対象の眠りを妨げるつもりですか?」


 必死に断ろうとするレミアータをフィリアがぐいぐい攻める。

 普段は人に無理矢理迫ることなどしないフィリアだが、今日はどうやら慣れない隊列を組んだ探索や聖獣との対話による緊張感などで羽目が外れてしまっているらしい。


「それなら私は入浴はしません…! それならば問題ないでしょう」

「嫌ですっ。護衛って事は明日もレミさんは主に私に付いていてくれるんですよね? わたし、汗でびっしょりなのに入れるときにお風呂入らかった人に隣にいて欲しくないです」


 完全な我侭である。しかし我侭とはいえ、護衛対象の人間にそこまで攻められるといくら誇り高き騎士といえどもレミアータにはそれを断る手段はなかった。


「くぅ……。分かりました。私も騎士ですから覚悟を決めましょう…っ! さぁ、一緒に入浴をしましょう!」


 まるでこれから戦場に赴く戦士のような覚悟に満ちた表情でレミアータが頷いた。

 誰がどう見ても混乱状態だ。だがフィリアにはそんな事は関係がない。

 レミアータがお風呂に一緒に入ってくれると決めてくれたので大はしゃぎだ。

 そのままふたりは浴室へと向かい、『仲良く』入浴をおこなったそうな。

 ちなみに服は脱いだ時にフィリアが同時に魔法をかけて清めたことは蛇足である。

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