両断
今回は会話が少ないので、少なく見えるかもしれません…。
飛び散る破片、吹き荒れる風がフィリアの髪を流す。
アリヴィードとの戦闘はすでに始まっている。その巨大な翼から繰り出される風は、それだけで強く踏み止まらなければ、人ひとり簡単に吹き飛ばせるほどに強い。
前線に出ている騎士たちはその風に負けじと剣を振りかざして、遠距離まで届くようなスキル技を繰り出していた。
「しかし、このままではジリ貧だな…」
護衛対象であるために前線から離されているフィリアの横で、同じ理由で前線に出られないジルオニクスが呟いた。
だが、実際のところ彼の言う通りだ。
相手は空を自由自在に舞うことができるが、こちらから空への攻撃手段はスキル一択。しかもスキルとは言っても元は剣術の技を鍛え上げたものである。つまり遠距離攻撃はその本分ではないのだ。
剣術分野の遠距離スキルは直線的なものがほとんどのため、空を駆けるアリヴィードにはなんとか掠らせることが精々だった。
「レミさん、魔法使用の許可を下さいっ」
厳しい戦闘の様子に、自身の能力ならば状況を打開できると踏んだフィリアが問いかける。
しかし、フィリアの申し出にレミアータは首を横に振って否と示した。
「なんでですか!? このままじゃ、そのうち誰かやられますっ」
「まだです。大丈夫、副団長が何も考えずに渓谷に来るなんてことはありえません。ただ、念の為に魔法を待機させておいて頂けますか?」
カイオールへの絶対の信頼、それは王宮騎士団の人間ならば誰もが向けている。彼は伊達に副団長を名乗ってはいないと、騎士の全員が知っているからだ。
「……っ。分かりました、魔法を待機させておきます」
レミアータの言葉の真意はフィリアにも伝わっていた。もしここで魔法を使えば、今の戦闘自体は楽になるかもしれないが、フィリアの消耗は避けられない。
彼女の魔法は切り札なのだ。いくら渓谷上位の力を持つ魔物が相手でも、今回はそれが1体だけしかいない。だが、さらに進んだ先でこのレベルの相手が複数同時に現れたときに、切り札が切れなければその意味がなくなってしまう。
それが理解できたフィリアは呪紋を唱えずに、魔力を集中させるだけに止めた。
◇
「《風切り》、来るぞっ。前のやつらは盾持ちの後ろに回れっ!」
カイオールの号令に合わせてスキルを上空に向けて放っていた騎士たちが一斉に戦線を下げる。そうして《シールド》を使用してい騎士の後ろに回り込み姿勢を落とした。
それと同時にアリヴィードが両翼を外側に向けて力の溜めに入る。そうして一瞬の後、その刃の如き翼を力いっぱいに振り切った。
そうして魔物の強靭な生命力を込めて放たれた風は、複数の刃となって盾をかざす騎士たちに襲いかかる。
「ぐおおぉぉお……っ!」
いくら盾で防いでいるといってもその圧力は尋常ではない。地面を踏みしめるが、単純な力だけで足元を削りながら盾を持つ騎士が後ろに押し込められる。
「くっ!」
それを盾の後ろに回った騎士が、後ろから支えて風の刃を抑え切った。
途轍もない威力の攻撃、このスキルこそが異名そのものであり、何人もの人間が屍を晒してきた技である。
しかし、その攻撃の直後にカイオールがその双眸を光らせた。彼らは相手が切り札を切るのをただひたすらに耐えて待っていのだ。
攻撃の余波が収まると同時、カイオールが力の限り叫ぶ。
「総員、縄をかけろっ!」
大技を繰り出したことによって、その巨体の動きが鈍るアリヴィード。常ならば吹き荒れる嵐のような風で届かない縄も、今ならば投げてかけることができる。
号令に合わせて、騎士たちが一斉に腰に下げていた縄を投げる。
普通の縄ならば力で引き千切られてしまうのだが、これは宮廷魔道師たちがその力を奮って作成した特注品だ。例え上位の魔物とて引き千切るのは難しい。
しかもこれには捕縛の力が込められているため、投げられた縄は自動的に相手に絡まり、その身を拘束する。
身体に縄を括りつけられたアリヴィードは、けたたましい鳴き声を上げながらそれらを振り切ろうとするが、騎士たちもそうはさせじと力の限り大地を踏みしめた。
「耐え切れっ」
カイオールの声が響き渡ると、それに僅かに遅れてアリヴィードが浮力を無くして地面に落下した。
それを見越した者がひとり、誰よりも早く落ちた魔物に走り寄る。
「ふっ――!」
落ちたことによってさらに大きな隙を作ることになった相手に、ネイトがそれを逃さず息を詰めて、その手に握りこんだ剣を一閃。
その洗練された剣の軌跡がアリヴィードの首をなぞった。
スキル《斬鉄》。剣技系のスキルの中でもトップクラスの切断力を持った一撃が、硬い毛で覆われたアリヴィードの首を見事に両断した。




