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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第二章 王女様とレイビィトの霊薬》
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風を切る

 東へと向かいながらも、辺りを見回してスレイフォンレイブを探すカイオールたちの部隊は渓谷の荒れ道を歩いていた。

 渓谷は荒れた道と細くて長い道が続いているところが厄介な点だ。横に広がってもふたりが限界という広さは、集団戦闘時には大きなかせとなる。


「谷の方から鳥類系の魔物が来る場合があるから、とにかく気をつけないといけないわけだ。特に護衛対象がふたりもいるとなると余計にな」


 集団戦闘も渓谷のような難しい地形の場所での立ち回りも、まだ経験したことがないフィリアに、自身が谷側を歩くことによって奇襲を受けた場合でも対処できるようにネイトが警戒している。その前ではカイオールが同じようにジルオニクスの護衛についていた。


「なるほどね…。狭い場所だと攻撃できる人も少ないし、無理すると同士討ちになっちゃうもんね」


 確かに奇襲なぞ受けたら、こちらの体勢が整う前にやられてしまうかもしれないと、フィリアは魔法使いである自分の弱点を思いながら頷く。

 そこへ何やらふたりの会話に興味を持ったのか、前を歩いていたジルオニクスがそちらへ振り返った。


「そういえば魔法使いは術の発動前に隙ができるんだったね。奇襲に特に警戒するのは必要か。フィリア嬢はこういう場所での戦闘は初めてなのかな?」

「は、はいっ。えと、そうですね、学園に行っていた頃でもこういう場所には来たことがなかったです」


 多少慣れてきた感じはあるが、まだまだ王子様と会話をするには緊張が抜けきらない彼女を見て、ネイトは思わず苦笑する。


「ジルオニクス様、フィーは学園では商業採取科にいましたから、王都周辺以外はあまり行ったことがないのですよ」

「そうなのかい? 冒険者をしていると聞いていたから他国などにも行ったことがあるのかと思っていたよ。それにしても商業採取とは、元々雑貨屋をするつもりだったのかな?」

「はい、お父さ、いえ、父の店をいつかは継ごうと思っていましたから」


 なるほど、それでかと内心でジルオニクスは納得していた。

 魔法使いは、それというだけで例え技量がどうであれ、かなりの高給取りの職に就くことも可能だ。それなのになぜ彼女は王都の端で雑貨屋を営んでいるのかを、彼はフィリアの話を聞いた時から不思議に思っていた。しかし家業を継いでとなれば、それは納得する理由に足るし、その心の有り様はジルオニクスにも好ましいものだ。


「お店が大事なんだね。きっとお父上もお喜びになるだろう」


 父がやっていたという店を今は彼女が継いでいるということは、きっと何かしらの事情があるのだろうと、そこは深く追求しないことにする。

 ジルオニクスのそんな気遣いが伝わったのか、フィリアは王子様の言葉に思わず笑顔になった。


「ありがとうございますっ。わたし、いつか絶対にお店を王都でも1番……、は無理かもしれませんけど、それくらい大きなお店にしてみせますっ」

「今でも充分に有名にはなってるけどね、フィリアちゃんのお店は」


 魔法使いの営む店として、上級薬の影響から特に冒険者たちの間で現在急激に知名度を上げている『フルハーモニー』の名は当然ながらカイオールも知るところである。どうやら周囲を警戒しつつも自身も少し話に加わりたかったようだ。


「ロニール師も褒めてたよ、フィリアちゃんの薬。かなり品質が良いってさ」

「ほんとですかっ!? ロニール師に褒めてもらえるなんて…、夢みたい……」


 憧れの魔法使いに褒められていたと聞いて、フィリアは夢心地だ。その顔は緩みきっていて、普通は他人に見せるようなものではなくなっている。


「おい、フィー。呆けるのはいいが、警戒だけはしろよ。俺たちもしているが、お前自身もしていた方が安全なのに変わりはないんだからな」


 本当のところは今のような愛らしい顔を他人に見せたくないだけなのだが、それを正直に言うのは躊躇われるためにネイトが、別の理由から注意をする。

 しかしそんな思惑などフィリア以外のふたりには分かってしまっているようで、ふたりともどこかにやにやと嫌な笑いを口元に浮かべていた。


「ネイト殿は、見た目に反して照れ屋なのだな」

「だけどせっかくならもう少し直接言ったほうがいいよ。フィリアちゃんには伝わってないみたいだから」

「なんのことですかっ」


 さすがに下手なことは言えない、人生の先輩であるふたりにからかわれてネイトが思わず声を荒げる。そんな三人を見て、フィリアは頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、不思議そうに首を傾げた。

 そうしてしばらくは何事もなく穏やかな空気のままあたりを探索していた一行だったが、渓谷の中腹で少し足場が広めになったあたりに差し掛かったところで突然その歩が止まる。

 一瞬にして張り詰めるような空気を纏う騎士たちにフィリアも事情を察して、すぐに動けるように姿勢を低くする。


「くるぞ」


 カイオールの呟きから一拍おいて、谷からそいつが飛び出した。

 刃物のように鋭い羽を束ねた両翼と蜥蜴を思わせる長い尻尾。その先は槍の穂先のように尖っている。顔には鶏のようなくちばしがあるが、禍々しい血の色をしたふたつの瞳が自分たちを獲物として捉えているのが分かった。

 風切りという異名を持つ魔物の中位種、アリヴィード。

 渓谷の中でも上位の力量を持つ相手だ。


「レミアータはフィリア師を、ラスは殿下をお守りしろ。盾持ちは《風切り》に対処、他の者は俺に続けっ」


 カイオールが声を張り上げると同時に、総員がすでに抜き放っていた剣を構える。

 盾持ちといわれた者たちはそれに加えて、《シールド》というスキルにより、腕に巻いてある腕輪を寄り代にして光の盾を作り出した。

 そうしてそれぞれが、何かあった時に互いのサポートに入れるように位置を取る。命懸けの戦闘特有の緊迫感があたりに満ちていた。

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