転移陣
すみません、今回は少し短めです…(いつも短いですけど…)。
「お待たせ致しました! 確認が取れましたので中へどうぞ」
書状を手に戻ってきたもうひとりの衛兵、アレックスと名乗った彼は一行を案内する形で建物の内部へと足を向ける。アレックスに続いて中へ入ったフィリアは、研究所とも詰所とも言えるような不思議な内装を面白そうに眺めていたが、黙って皆のうしろからついていく。
「こちらです」
アレックスに通されたそこは、建物の中でも一際広い空間となっていた。ドーム状の天井が特徴的で、部屋の中央には光り輝く大きな呪紋陣が窺える。しかし部屋にはそれ以外に物はなく、その周辺に兵士が数名立っているだけだ。立ち姿や様子から見て兵士たちは呪文陣の見張り役と見て間違いはないだろう。
「あれが、転移陣…」
フィリアはその陣を一目見ただけで、そこに畏敬の念を感じた。それほどに凄まじい代物だと直感で感じたのだ。
どのような原理かは想像もできないが、術者もなく呪文陣を展開、維持するなどこれを作った人物はやはり想像以上の天才のようだ。
「そう、あれが転移陣だ。実際に見ての感想はあるか?」
ネイトがフィリアの横に並び立ちながら問うてきた。彼の言葉にフィリアは首を左右にゆるりと振りながらお手上げといった様子で肩をすくめる。
「あれは…、さすがにどうやってるか分からないねぇ…。わたしも魔法石とか作って、技術面とかは少し自信あるつもりだったけど、あれ見たらまだまだ全然だなぁって思うもん」
「フィーでも理解できないとはな。魔法に関しては素人の俺たちからしたら、それこそ次元の違うお話か」
魔法に関してはフィリアのことは誰よりも信頼しているネイトだったが、その信頼を向けている彼女すら分からないという技術に改めて感服していた。
確かに魔法についてなど、使えない人間からすれば対策を練れる程度にしか学ばない。特に騎士は対魔法について以外は本当にまったく知らない者の方が圧倒的に多いのだ。
「おふたり共、先へ進みますよ」
転移陣を初めて見たフィリアに合わせて立ち止まっていたレミアータが、ふたりを急かす。他の騎士たちはすでに陣の近くに集まり、先ほど決めた三人一組に別れ始めていた。
「あ、はいっ。すみません」
慌ててフィリアは他の騎士たちに追いつくために早足でそちらに向かう。遅れていた三人が合流したのを確認してから、カイオールが改めて部隊の全員を見回した。
「それではこれより、第12層まで順番に転移する。転移後は守護結界の中で待機。全員を確認次第、作戦行動に入る」
了解と騎士たちの声がドームに響く。そうしてあらかじめ決められていたらしい順番で転移陣の中へ立ち、次々と視界から消えていく騎士たちをフィリアは好奇心に満ちた目で観察している。
「フィー、楽しそうだな…」
「そりゃ、そうだよ! だって人が転移するところなんてそうそう見られるものじゃないもんっ。同じ空間系でも異空間創造とかの魔法は使えるけど、空間転移はわたし使えないし」
両手を握り締めて、子供のように瞳をキラキラさせる彼女にネイトはもはや呆れ顔だ。
「魔法使いからしたら興味深いものなのですか?」
「えっと、そうですね。こういうのも見てると色々と勉強になりますし、空間転移の原理は難しいので理論だけだと厳しいんですよ」
畑違いながら随分楽しそうにしているフィリアに興味を惹かれたのか、珍しく不思議そうな顔でレミアータが訊ねる。それに顔は転移陣に向けながらも、意識を半分彼女の方に向けてフィリアは答えた。
「ネイト、レミアータ、フィリアちゃんは俺たちの前に転移してくれ。すでに向こう側に転移しているやつらが安全は確認してくれているはずだ」
道中の戦闘から信用を勝ち得たのか、いつのまにやら他の騎士たちと同じようにネイトを呼び捨てするようになったカイオールが三人に指示を出す。
本来ならいつも最後に転移するはずのカイオールだったが、今回は同じ組にジルオニクスがいるために護衛の関係で半ばあたりの順番で転移するらしい。それに合わせてもうひとりの重要護衛対象であるフィリアも転移させるようだ。
「了解、フィリア師は必ずお護り致します」
レミアータが誇りに満ちた声で、カイオールたちに敬礼する。
そうしてさらに何組かが転移を完了すると、フィリアたちの組の順番が回ってきた。
「行くぞ」
「準備はよろしいですか、フィリアさん?」
「はいっ、行きましょうっ!」
そうして三人は声を揃えて、転移陣発動の言葉を唱えた。
「「「転移陣発動、慈愛の塔、12層、転移っ」」」
言葉を紡ぐと同時に三人は光に包まれて、その場から姿を消した。




