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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第一章 目玉商品とフレイル草》
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『フルハーモニー』緊急会議

「それでは、第1回『フルハーモニー』お客様呼び込み会議を行いたいと思います!」

「だいぶ突然だな。まぁいいか、とりあえず始めよう」


気合十分のフィリアに呆れた声で返事をするネイト。

まだ営業時間中だが、他にお客が来ないのでこんなことをしていても何も問題はない。

大変悲しい事実であるのは確かだが、フィリアはそこから全力で目を背けた。


「とりあえず呼び込み以外のやれる事はやったと思うんだよね。

チラシも作って宣伝した。商業ギルドにも登録してガイドブックにも……ほんとにちっちゃくだけど載せてもらった。

お店の前もお掃除を欠かさずやって綺麗だし、店内だって見やすいようにディスプレイを整理したよ!――それしかやることがなかったからだけど…」


まず手始めとしてフィリアは今までにやってきた事を頷きながら列挙していく。

フィリアの言う商業ギルドとは商人同士の集まりで、簡単に言ってしまえば組合組織のようなものだ。

ギルドは国に認可されており、そこに登録すると年会費を支払うことと年に一回ギルドごとに規定されている連絡事項をギルドに対して報告する義務が付いてくる。

しかしそれと引き換えにギルドからは登録者へいくつかの特典が送られるのだ。

商業ギルドとしてはその一つとして毎月一度発行している、王都の商店をまとめたガイドブックで店の紹介がしてもらえる。

このガイドブックは観光者や冒険者などに無料で配られているため大変人気がある。

広告としては十分に価値あるものだが、如何せん年会費の支払い料金に合わせて紹介スペースの大きさが決まるためにお客が来ない、つまりお金のない『フルハーモニー』のスペースは記事の端の端で大変小さなスペースしか取れていなかった。


「あの豆粒みたいな紹介スペースではあまり広告の意味もないと思うが…。だが確かに何もやらないよりかはマシなのかもな」

「だってお金がないんだもん! お客様が来てくれないんじゃ仕方ないでしょぉ!」


豆粒とネイトに称された店の紹介スペースに対して、自分でも確かになぁ、と思ってしまうものの気力で反論するフィリア。

経営状況の拙さについては彼女自身が一番自覚しているのである。その自覚に結果が伴うかは別としても。


「それなら学園の頃の他の友人に頼んでみてはどうだ? その友人に他の知り合いに紹介してもらえるように頼むとか」


ネイトが一つ思いついた案を提示してみるが、フィリアのげそっとした顔を見て思い出す。


「……そういばフィーは友人がいなかったんだな。すまないことを言った。許してくれ」

「真剣に謝らないでー! いたよ、友達! 

試験前だけだったけど勉強教えてって頼まれたり、ノート貸してって頼まれたりしたもの!

たまにお願いされてご飯を食堂まで買いに行ったりもしたんだから!!

……その、ただ皆わたしが学園をやめたら連絡が取れなくなったけど」

「おい、それは本当に友人だったのか? というかお前、それは友人ではなくてパシリというんだぞ…。

というよりもそういことがあったなら、なぜすぐに俺に言わない!」


話を聞いて何故か不機嫌な表情になったネイトの激しいツッコミにフィリアはうっ、と言葉に詰まって怯む。

学園に通っていた頃のフィリアはそれはもう社交性の低さが極まっていた。

誰かに話しかけたいが、話しかけた瞬間に嫌な顔をされたらどうしようなどと考えてしまってタイミングを逃し続けてきたのだ。

そうして勉強に走った挙句の果てが、少し話しかけられただけで舞い上がってしまうようなアガリ症の性格だった。

舞い上がってしまったせいで冷静に物事を考えられずに、その状態のまま頼み事をされて引き受けてしまう。

そうしてあとで気付くも引き受けてしまったために断ることもできなくなってしまうという連鎖反応である。

そもそもあとから断ることができるような社交性があるなら最初からそんなことにもなっていなかっただろう。


「今は大丈夫だよ、お店やる前に地獄の特訓をしてもらったから。……たぶん」


なんとも情けない返事だが、確かに店を継ぐまでの期間にフィリアは叔父にあたるクレアスからその辺りを叩き直された。

色々なパーティーやら何やらに連れ回されてようやっと人並程度にはなったのである。


「そ、そんな話より! 会議脱線してる! さぁ本題に戻ろう!」

「明らかに話を逸しているのが分かるが、そうだな。時間もそんなにある訳ではないし進めるか」


素直に話の本筋に戻ってくれるというネイトにフィリアは内心で安堵の息を吐いたが、そのことはネイトにしっかり気づかれている。


「友達紹介はネイトがやってくれない? ほら、ネイトは交友関係がそれなりにあるし、お願いしちゃダメかな?」

「それならお願いされるまでもなく、前からもうやっている。だが、その状態で今のままなんだ。俺の方はあまり期待しても無駄だろうな」

「そっか…、それなら仕方ないか…。でも、ありがとね。紹介してくれてるなんて思ってなかったから嬉しい」

「――っ、いや、別に構わないぞ。友人なら当然のことだしな」


少し照れたように顔を赤らめつつもはにかみながらお礼を言うフィリア。

美少女とはいかないものの普通よりも整った顔立ちのそれは破壊力抜群であり、加えて身長差のせいで上目遣いになっているためにその破壊力が上乗せされている。

ネイトはそれに対して顔が赤くなるのを抑えられずに思わずそっぽを向く。

と、そこでネイトはふと他の友人たちが言っていたことを思い出した。


「……そういえば、紹介した一人が言っていたな。

別にここに来る理由がない、ここで買えるようなのは中央通りでも買える、と。

つまるところそれが一番の理由じゃないのか?」


ネイトのその言葉にフィリアはまるで目から鱗がとれたかのように目を見開いて驚きの表情になった。


「そっか、そうだよね。確かにウチで買えるものは中央通りで揃っちゃう。

値段は他より多少とはいえ、安い自信はあっても立地条件的にわざわざ値段のためだけにこんな遠くまでくる理由がないんだ」

「ああ。つまり重要なのは客に来てもらうのではなく、以下に客にここに来たいと思わせるかということだな」


その結論に行き着くと同時に、フィリアの頭の中に一つの案が思いつく。

お客様がここに来たい思う方法、それは中央通りでは揃わない品物を用意すること!

それすなわち、


「目玉商品っ!! それしかない!」

「そうだな。確かにここに来たいと思わせるならば、ここでしか買えない物を用意するのは定石だ。

それで? 物は何を用意するんだ。それこそ戦争のような中央通りの商業争いに勝てるような物を用意しないと意味がないぞ」

「ふっふっふ、それはもう考えてあるよ。わたしは魔法使いだからね、それを生かした物を提供するよ」


フィリアはものすごい自慢げな顔をしながら、大変控えめな胸を反らした。

だが、その自信にはちゃんとした理由がある。

フィリアやネイトのようなヒューマン族と呼ばれている種族には総じて魔法使いが少ないのだ。

それこそ10万人に1人などという確率の希なる存在なのである。

他種族の、森の民と呼ばれるウッドレスト族ならば逆に魔法使いの方が多いのだが、ウッドレスト族はその数自体が少ない上にヒューマンとそれほど繋がりを持っていない。

そのため魔法使いという存在は魔法使いであるというだけで一種の強力なステータスを持っていることになる。

だが、それは同時に多方面から狙われることになるという危険性も含んでいる。

そのため学園に通っていた時にはフィリアは自身が魔法使いであるということを隠していたし、その事実を知っていたのもネイト以外ではごく一部の教職員のみであった。


「おい、フィー。分かっていとは思うが、自分が魔法使いだと喧伝するような真似をすると余計な厄介事を招くことになるぞ。

一人でなんとかできる事ならいいが、俺だっていつも側にはいてやれないんだからもう少し慎重に考えたらどうだ?」


ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に不安を隠しきれずに眉を寄せた表情でネイトが促すもフィリアの表情は変わらない。


「うん、きっと色々大変なことが起きるかもしれないのは分かってる。

でもこのままじゃきっと、このお店は潰れちゃう…。それだけは嫌なの。お父さんが大事にしてきたこのお店だけは絶対に潰したくないの」


静かに、だが決して曲げられないだろう事を理解させる決意を込めた声でフィリアは自分の考えを述べる。

その声を聞いて数秒の沈黙、ネイトとフィリアの視線が交差する。

やがてネイトが諦めたように息をついた。


「分かった。ならもう言わない。ただし、何かあったなら絶対に協力するからちゃんと言ってくれ」

「ん、ありがとう。頼りにしてるね」


フィリアはそうしてネイトにふふ、と微笑を返した。


「それで用意する物なんだけどね。魔法使いにしか作れないとっておき、最上級の魔法薬と治癒薬を作るつもりでいるの」

「なるほどな。確かにそれなら宣伝には持ってこいの品物だし、上位の冒険者は喉から手が出るほど欲しがるだろうな」

「うん、だからそれを作成して直接販売するのを目標にするよ!」


元気いっぱいに大きな黒い瞳を輝かせながらフィリアはそう宣言した。


※変更点

 知人からこのぐらいの年代設定ならば人口はそう多くはないと助言を頂きましたので、魔法使いの人間の割合を変更致しました。

 ・変更前→100万人にひとり

 ・変更後→10万人にひとり

 以上です。よろしくお願い致します。

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