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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第一章 目玉商品とフレイル草》
23/124

『フルハーモニー』再開

 第一章の大元の話はこれで最後となります。

次の話はちょっとした裏のお話です。

 製薬作業を始めてから3日後、在庫も随分と溜まったということでフィリアは店を再開することにした。しかしただ開けただけでは今までと変わらないため、その3日の間に街中へ出て宣伝活動もやってきたのである。

目玉商品はもちろん上級魔法薬と治癒薬で、それらを全面に押し出して宣伝してきた。チラシはさすがにお金がもうないので、刷れなかったために口頭での宣伝となったのが残念なところであったが。

その成果か、今フィリアの目の前には夢にまで見た光景が広がっていた。



「ふふふ~、あ! いらっしゃいませー、上級治癒薬と中級魔法薬ですか? おひとり様につき、上級は3個まで、中級は5個までとなっておりますー」


隠しきれないにやけ顔を出しながらフィリアは客の会計に回っている。現在、『フルハーモニー』の店内は客で溢れかえっていた。そのため彼女も唯一の店員として休む間もなく働き続けているわけである。


「店員さーん、これはどの程度の効果があるの?」

「煙玉ですね! そちらはキャンプ周りに撒けば虫や獣系の魔物除けになりますし、戦闘中に使えば攪乱にもなりますよっ」


商品の説明も行いつつも、その手を止めずに同時に作業をこなす姿に一部の客からは称賛の目で見られていたりするのだが、いっぱいっぱいのフィリアはそんなことには気づかない。

今は15の刻過ぎだが、朝からこの状態が続いているのでそろそろ上級薬系の当日分の在庫が怪しくなってきていた。明日の販売もあるため、その分の在庫を今日売るわけにはいかない。夜に新しく作らなければならないと考えて、合わせて素材各種の発注についても思案する。


(まだ発売初日だから売れてるけど、のちのちになると少し落ち着くし、そのあたりのタイミングは読みだなぁ)


「店員さーん」

「はぁーい、ただいま~」


そうして忙しいまま、しかし瞬く間に時間は過ぎていった。


 ◇


「あ~、疲れたぁ~」


1日の営業時間が無事に終了して、気が抜けたフィリアはカウンター内の椅子に崩れ落ちるように腰掛けた。

今日1日だけで、『フルハーモニー』の売上は今までの3ヶ月分にも匹敵する結果を出している。だが、それに見合う分の客が来たということで、本当に休む暇もなかったのも確かだ。


「でも…、売れたなぁ。在庫は途中で切れちゃって申し訳なかったけど、もっと頑張って用意しないとなぁー」


上級薬自体はあれからすぐに売り切れてしまい、やってくる客には謝り倒すしかなかったので、そのあたりが改善点かとフィリアは今後の課題としてあげておいた。


「はふぅ、さてっと。少し休憩したら明日以降の分を作っちゃわないと。あ、発注分も伝音器コミュットでお願いしておこうかな」


フィリアが伸びをしながら今日の最後の業務について考えていると、店の扉が軽くノックされた。


「ん? 誰だろ、こんな時間に」


いそいそと近づいて行って覗き穴から外を見てみると、扉の前にはよく見知った顔がある。

その人を確認すると、彼女は扉を開けて笑顔を浮かべた。


「ネイトっ! どうしたの? こんな時間に」

「…っ、フィリア! 急に扉を開けるな、驚くだろうが」


突然扉が開いて、開いた先には満面の笑みを浮かべる少女という不意打ちにネイトは軽く息を飲んでから応える。

そんな彼の様子にフィリアはクスクスと控えめに笑ってからネイトを見た。


「ごめんごめん。それで、どうしたの? 何か用があるんだよね?」

「ん、ああ、そうだ。あー、とりあえずこれだ。受け取れ」


日が沈んであたりが暗いので分かりづらいかったが、ネイトは若干顔を赤くしながらフィリアに手に持っていた色とりどりの花束を差し出した。


「えっ、どうしたの、これ!? すっごい綺麗なお花だけど、いいの?」

「当たり前だ、家族とフィー以外に誰にこんな物を渡すと思っているんだ…?」


素でこういうキザなこと言うネイトは天然だ、と思いながらフィリアも顔を赤くする。しかし当のネイトは自覚があってやっているのだから天然とは違うものではあるが。


「あ、えと、うん。ありがとう…。でも、どうして?」

「……今日からだろう? 店の再開。それと退院祝いもまだだったから合わせてだな」


そっぽを向きながら答えるネイトは照れているのかさっきよりも真っ赤になっていた。

だが、その答えを聞いたフィリアは一瞬きょとんとしたあと、言葉を理解して嬉しさでいっぱいになって顔にはさっきよりも何倍も良い笑みが浮かんだ。


「――ありがとっ! ネイト!」

「あ、ああ。とりあえずこれからは入院しないようにしてくれ」

「うんっ」


花束を受け取り、そのまま宝物でも抱くようにフィリアはそれを胸に抱え込んだ。

そうしてもう少しだけネイトと話すと、もう遅いからそろそろ帰ると彼は帰宅することにしたらしい。

ルードスの屋敷に向けて帰っていくその背中が見えなくなるまでフィリアは手を振り、ネイトを見送った。


 ◇


 そこは雑貨屋『フルハーモニー』。

魔法使いの少女が毎日一生懸命に働くその店は、今日も1日の営業を終えて明かりを消した。

 お礼の言葉は次の裏の黒いお話の最後にします。

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