工房で作成
生産系?のお仕事を書いてみました。
ちょっとした小話みたいな感じです…。
ネイトと契約を結んでから2日後にフィリアは無事に退院した。王都まで戻るときにはひとりでも戻れるとフィリアは言っていたのだが、そこは病み上がりであることを心配したネイトが強制的に馬に乗せてふたりで帰ってきた。
王都に着くなり、コーネリアに出くわして危険な目にあったことを叱られたりもしたが、フィリアにはそれがまた嬉しかったことは心の中の秘密である。
そして『フルハーモニー』に帰宅後、もう1日休んでラスト先生から禁止されていた魔法使用の使用許可がでた当日。フィリアは店の工房に作業着のツナギを着て立っていた。目の前にはフレイル草の山。これは入院中に正式に許可が降りたらしい領域スペースから、ネイトの家の者が採ってきたものだ。
自分の行動が先読みされているなぁとフィリアは一時的に遠い目をしていたが、素材がすでにあるのは好都合である。ということで彼女はこれから工房で上級薬の作成を開始するところだった。
「ふぅ、それじゃ作ろっかなぁー。えーと準備はよし!」
目の前にある素材と器具一式を確認してからフィリアは気合を入れて作成を始めた。
「まずは精錬魔石と結晶から準備しますかー」
腕まくりをして、机の上の大きなガラス瓶から魔石と結晶石をいくつか取り出す。
魔石とは大気中に微量に存在する魔力が時間をかけて石に馴染んだ物だ。
魔力集中地点と呼ばれる場所が世界中にあり、そこの周辺の石は特に良質で魔石になるまでの時間も短く済む。
結晶石は大地に宿る世界の生命力が集まり、固形化した物である。
これも生命力集中地点と呼ばれるように、特に生命力が多く溜まる場所があり、そこでよく見つかっている。
魔石と結晶石は自然発生以外には作れないのだが、それなりの数が採れるためにそこまで値段も高くはない。
作れない理由としては人から発せられる魔力や生命力には人それぞれで癖や混じり物が入っているためで、ある程度純度の高いものでしか魔石も結晶石も作れないからだ。
「まずは精錬から始めますかー。――リメント クレース アルゥ。純粋なる物よ、現出せよ」
――《リメント》 司るのは純化精錬。
呪紋を唱えるとクレースで増幅をかけているために発動までの一瞬、足物に呪紋陣が現れてすぐさま魔法が発動する。
魔法をかけられた魔石と結晶石がそれぞれ色とりどりに輝き、光の中でその形を変えていく。
そしてそれが収まった場所には一回り小さくなった魔石と結晶石があった。だが、その純度は先程までとは比べ物にならない。もともと良質な魔石と結晶石だったが、そこからさらに不純物を取り除いたそれらは、一目見ただけでその存在感が伝わってくるほどの代物に早変わりしている。
「う~ん、良い出来だね! 成功成功っと」
できあがった双方を光に当てて、それぞれがちゃんと目的通りに上級クラスの物になっているのを確かめると、フィリアは満足そうに頷く。
そしてまた、瓶から新しい物を取り出して何度かそれを繰り返す。30巡もすればあっという間にちょっとした量の山が出来上がった。
「とりあえず今回はこれくらいにしとこうかな。まだまだ魔力も本調子じゃないし」
作成にはまだ魔法を使うので、ひとまずこのあたりで済ませることにする。本来ならば精錬もスキルでなんとかするのだが、フィリアはそのスキルを取得していない上に魔法だとスキルと違ってある程度の数をいっぺんに精錬できるので魔法頼りになっていた。
「次は卸してもらったばっかりのクリームフィオさんとこの間のブルーフィオさんの粘液を準備しないと」
工房の隅に置いてある大鍋を2つ取り出して、その中に作成試験用分のフィオの粘液を入れる。まずはフィリアはブルーフィオの粘液の方に杖を向けた。
「ウォー アルゥ。生命の水よ、湧き出てよ」
詠唱と合わせて魔法が発動し、大鍋の中に透き通っていて、さらには輝いている水が満たされた。それは魔法で作り出した生命の水で、それ自体に魔力が混ざり、生命力も多く宿している。
フィリアは1メートル近い長さのかき混ぜ棒で、生命の水とブルーフィオの粘液をよく混ぜる。10巡もそれを繰り返せば、鍋の中には2つが完全に混ざり合って青みがかって薄く粘り気が残った液体が出来上がった。これが上級魔法薬の基本となるものだ。
「次に治癒薬の方だね。――クラージュ アルゥ。癒しの力よ、宿れ」
クリームフィオの大鍋に魔法をかける。中に入っている粘液が魔法によって淡い緑の光に包まれ、鍋から空気中に粒子が舞う。癒しの力を与えられた粘液はクリーム色に淡い緑の色が混じった物になっていた。
出来上がった両方をフィリアはひとまず自分で開発した、冷凍器に移して保存する。
「さぁ、ここからが重労働だねっ。気合入れていかなきゃ!」
そうして先ほど作った精錬魔石と結晶石を作業中の台から隣の台に持っていく。その作業台にはついこの間市場で購入したばかりの大きな砕物器があった。
そこにまずは魔石を流し込み、砕物器の蓋を閉じて、その上についている取っ手に手をかける。
「せーのっ!」
掛け声と同時に取っ手を思いっきり回し出す。ぐるぐるぐるぐるとひたすら回すと、その下から砕けて粉末状なった魔石が出てきた。
しかしこの作業は、回すだけでもかなりの力がいるために相当な重労働である。フィリアもすぐに汗だくなっていくが、それにも構わずただ一心不乱に回し続ける。ある種、狂気的でもあった。
「くぬぅー…っ! うぅ、よい…しょっと」
15巡も回してやると中の魔石は全て粉末状になっていた。フィリアは額の汗を軽く拭うと、砕物器の中身を一度綺麗に拭き掃除する。次の結晶石に魔石の粉末が混じらないための作業のため、念入りに掃除をした。
「続いては、結晶石さんですよー」
結晶石も同じような流し込み、また作業を繰り返す。全てが終わる頃にはツナギも汗でぐしょぐしょになっていた。
まだ春先であるために室内は少し冷えるということで、彼女は一旦作業を止めて部屋に着替えに戻ることにする。
「お風呂に入りたいけど、どうせこのあとも汚れるかもしれないしなぁ。終わったらゆっくり浸かろう…」
作業が終わったあとの至福を思い、頬を緩ませながら着替えを済まして作業場に戻る。
そうして冷凍器に入れていた液体類を取り出して、その中に苦労して粉末状にした魔石と結晶石を少しづつ足していく。足しては混ぜて、馴染んだらまた足してをいう単純作業を何度も行う。
やがて出来上がった物はすでに中級クラスの薬と同等の力を持っていた。
「ここに~、蜂蜜をいれてっ」
鼻歌混じりにこれもまた市場から卸してもらったノインヴィーの蜂蜜を混ぜ込んでいく。ノインヴィーの蜂蜜はとても甘くて、また栄養価も高いことで有名だ。滋養強壮の薬などにもよく使われている
「ふんふふ~ん」
かき混ぜ棒でゆっくりと混ぜ込むのは、急ぐと配分バランスが崩れて失敗し、薬の効果が半減してしまうからだ。丁寧に作った液体はそれぞれが独特の輝きを持っていた。
「さっ、最後の仕上げです! ――フォンへイル クレース サニィ。我が前のものに聖なる祝福を与えたまえ」
両方の大鍋に向かって祝福の魔法を唱える。中級の魔法のために発動までには少々時間がかかるものの、大したものでもない。
フィリアを光が包んで無事に魔法が発動し、大鍋を白く眩い光が満たす。
光が収まったところには極上の酒のように甘やかなで香り高い匂いをあたりに広める液体があった。
「えーと、……うん! 最高にいい出来っ! これなら大丈夫そうだね」
匙に少量すくい取り、口に含むとその味わいと効果の高さに満足そうな表情をフィリアは浮かべる。
そうして出来上がったそれぞれを販売用のガラス瓶に移していけば、その数はそれぞれ25本になった。販売用には少し足りないが、また少し休んでいくつか作り足せばいいだろうとフィリアは出来た魔法薬と治癒薬を保管庫にいれて鍵をかける。
「んー、とりあえず一旦休憩~。お茶にしようー」
身体を伸ばすと、彼女は工房から台所に移動していった。
第一章は大元の話は次回でラストです。
明後日は少し、裏?の話を載せますが…。
第二章についてはまた明日くらいにお知らせします。




