表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第一章 目玉商品とフレイル草》
17/124

叫び狂う者【※多少の残酷表現あり】

 今回から3日ほど、戦闘回ですので痛々しい表現が出ます。

やり過ぎないように気をつけましたが、苦手な方はお気を付け下さい。

 けたたましい音と共に現れた"それ"は8つの巨大な瞳でフィリアを捉えた。

瞳と同じ数の8本の槍のように鋭く尖った脚、大きく膨らみ脈動を繰り返す腹。

口にはまるで死神の鎌を思わせる大きな捕食武器を生やしている。それはポイズリーレニエなんてものとは桁違いに巨大すぎる蜘蛛。

 フィリアの倍以上の巨体を持ち、あまりに毒々しい色をした体を震わせるのはレニエ系の魔物でも上位に存在するもの。


『シャウラーレニエ』

 

またの名を、叫び狂う者、という。


「えっ、なんで王都の近くにこんなやつがいるの!?」


愕然とした表情のフィリアが返ってくるはずのない問いかけを投げる。

そもそもシャウラーレニエは大迷宮でも上層階から極希に下層階へ降りてくることがある魔物ではある。

その際には上位の冒険者や騎士団たちが協力し合って討ち取りにかかるのだが、しかし、何を間違っても迷宮の外に出てくるような魔物ではない。

だがフィリアの目の前には確かにその凶悪な魔物がいて、今にも彼女に襲いかかろうとしている。


 突然のシャウラーレニエとの遭遇に、体を一瞬とはいえ強ばらせてしまったフィリアの隙を突いて強大な魔物が行動を開始する。

大地を8つの脚で突き刺すように踏みしめ、その巨大な口を蜘蛛としてはありえないほどにさらに開く予備動作。

それを見た瞬間にフィリアの背筋を戦慄が駆け抜ける。


「セグロ アルゥ! 障壁よ出でよ!」

 

ほぼ反射的に彼女は腰に下げてあった杖を抜き取り、自身の魔力を普段よりも多く流し込みながら魔法を発動した。

タイミング的には間一髪、フィリアの前方に下級の結界魔法が展開される。

それが展開されたのとほぼ同時、しかし刹那の遅れを持ってシャウラーレニエから姿なき攻撃が、その口より放たれた。

――それはまるで断末魔の声。

あらゆる物体を叩き割るかのような途轍もない衝撃波を伴い、物理的な破壊力を宿した絶叫がフィリアに襲いかかった。


「――っぁああぁ―――っ!」


いくら結界を展開したと言っても、所詮は下級魔法。

しかも重呪紋も挟まず、まったく強化していない最低レベルの結界ではシャウラーレニエの絶叫を完全に防ぐことはできずに、結界は一撃で破壊された。

声の余波を受けて数メートル先まで吹き飛ばされるフィリア。

地面に何度も叩き付けられながら転がされて、ようやっと止まる。飛ばされた際に腕や足を擦りむいたせいで少なからず出血し、少し体を動かしただけで全身に打ち身からくる痛みが走る。

一番酷いのは左の鎖骨あたりだ。折れてはいないようだが、何もしていなくとも痛みがあることからひびくらいは入っているだろう。

しかし致命傷ではないため、フィリアはすぐに起き上がって体勢を立て直した。


 衝撃波を伴う波動系の絶叫攻撃。

シャウラーレニエが叫び狂う者と呼ばれる由縁だ。

もしフィリアが最初の結界を普段よりも多くの魔力を使用して発動していなければ、最初の一撃で結界ごと体をばらばらにされていただろう。


先の攻撃を防がれたシャウラーレニエが怒りの声を上げてフィリアを見た。

次の瞬間、シャウラーレニエは突然あらぬ方向に糸を吐いて、その糸を洞窟の岩肌にはり付ける。

そして地面を抉りながら跳躍すると、糸に引っ張られるかの様にその巨体が空中を走った。


「早いっ。そっち!?」


あまりの速度に驚愕するフィリアに構わずシャウラーレニエは疾走する。

壁から壁へと飛び移り、そのスピードをさらに上げていく。すでにその速度は視認することも難しいほどだ。

糸と自身の強力な脚力を用いて繰り出される立体的な高速移動で、獲物を攪乱して自身の姿を見失わせる。それと同時に張り巡らされていく粘着性の糸が獲物の逃げ道を塞いでいくのだ。

フィリアが完全に自分の姿を見失ったことを認識すると、シャウラーレニエはその速度のまま彼女へ向けて跳びかかり、その鋭い脚を振りかざした。


「――っ! エラス アルゥ! 風よ我が身にっ!!」


《戦時直感》のスキルにより、ぎりぎりのタイミングで殺気を感じ取ったフィリアは移動力上昇の魔法を自身にかけた。

そして周りを確認するのも忘れて、その場から転がるように跳んだところへ、尖った脚が先ほどまで彼女が立っていた場所に突き刺さる。

その光景を見て冷たいものが背中を流れるのを感じたフィリアは、さらに距離を取ろうとするが、しかし自分の右足が動かないことに気づいて愕然となった。


「……! あっ、糸がっ」


回避する際に周りを確認しなかったことに、フィリアは今更になって後悔した。

彼女の右足、革のブーツにシャウラーレニエが張り巡らせていた糸が絡みついている。強力な粘着性を持ったその糸は人間一人の力では引き剥がすことができない。


「フィア アルゥ! 火よ、出でよ!」


 ――《フィア》司るは燃焼


「うっ…! ぃっううぅぅぅ……っ!」


魔法によって現れた火が、靴ごと糸を焼き払う。だがそれは同時に、フィリアの足をも焼くことを意味している。

肉を焼かれる激痛に歯を食いしばりながら耐えるも、彼女の目からは涙が溢れた。糸が絡んでから焼けるまでは一瞬、シャウラーレニエがまだ体勢を立て直していないことを見るとフィリアは跳躍して距離を取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ