輝く洞窟
伝音器と集音器、保管器の読み方が決定しました。
各本文内でも修正してあります。
闇の中で輝く入り口は確かに目立った。
太陽光とは違う青白い光。どちらかというと月光に近いかもしれない。
「ほんとに光が…。あったんだ…」
キャンプを片付けて、崖下の洞窟入口まで降りてきたフィリアが呆然と呟く。
嘘だと思っていたわけではない。しかし、実際に見るまではどうしても信じきれていなかったのだ。
「あっ。そうだ、フレイル草!」
しばらく見入っていたフィリアだが、はっとして当初の目的を思い出す。
周囲を見回すと、それは直ぐに見つかった。
「あった、フレイル草! うわぁー、嘘みたいっ」
他の植物とは明らかに違う色。まるで揺らめく炎そのモノのような真紅の葉。
その色を血の色と連想し、別名『生命草』とも呼ばれる、フレイル草。
フィリアは何本か生えていた内の1本だけを摘み取り、目の前でかざす。
「はぁ~、野生のフレイル草なんて貴重な物、まさかこの手で採れるなんて…」
フレイル草を眺める彼女の表情はいつもの溌剌とした雰囲気とは真逆の、恍惚とした艶めかしさがある。
しかしそれも一瞬。手の中にあるフレイル草を保管器に入れ、ポシェットにしまう。
「とりあえず入る前に安全確認、と」
そうして彼女は洞窟の入り口を検分していく。ボルドーの警告や複数の冒険者が行方不明という情報があるだけに慎重に行動しすぎても悪いことはないだろうと判断していた。
「一通り見た感じでは異常ないみたいだけど…。ひとまず入ってみますか」
腰のベルトから杖を取り出し、いつでも戦闘に入れるように準備をした。
そうして、フィリアはゆっくりと洞窟へと進んでいく。
100メートル程、緩やかな下り坂が続いた。岩壁に囲まれた道は狭く、人がすれ違うのがやっという程の幅しかない。
外から覗いた時から分かりきっていたことだが、岩壁の所々が確かに光っている。おそらく光を放っている岩がボルドーの言っていた光放石だろう。その光量は太陽ほどではないが、十分すぎるほどに明るい。
「はぁー、灯り要らずとは便利だねー。すごいなぁ」
感心したようなフィリアが辺りを警戒しつつ、さらに歩みを進めるとようやっと道の終わりが見えてきたようだった。
「……あれ? なんだろ、今の。気のせい…?」
ふと、道の途中で何かが引っかかったような気がしたために、後ろを振り返るもフィリア以外の影はない。
なにか落としたのかとも思い、辺りを見回してみるが、何も目につかなかった。
「……やっぱり気のせいだったのかな?」
そう結論付けて、彼女は洞窟の最深部に踏み出した。
「…………、まさかこんなところがあるなんて。信じられない…」
入口に続いて呆然とするフィリアだが、その衝撃の度合いは比べるまでもない。
今通ってきた道が繋がっている場所は、洞窟内部でも高い場所にあったようでその全景が見渡せる。
洞窟の奥は、地下としてはありえないほどに広かった。
目算でも1キロ近くの広さがあるだろうか。さらに、その壁はほぼ全てが光放石で出来ているらしく、まるで昼間の屋外のように明るかった。
さらに、地下水が湧いているのだろう。ところどころに水気がある。地面にも岩が出ているがそれも一部だけで、あとは通常の土壌だ。
それらの奇跡的な要素のおかげで、そこには信じられないことに一つの森が出来上がっていた。
「地下に森って、普通ありえないよ…」
フィリアは神秘的なその光景に圧倒されていた。彼女にしてみれば風景でここまで感動したことなど数えるほどしかなかったのだから、それも仕方のない話だ。
「とりあえず、まわりの探索からしよう」
しばらくその感動に身を浸してひとまずは満足したのか、彼女は探索に乗り出した。
フレイル草の群生地を見つけるなら特に光の強い場所、それでいて水源がきちんと確保できるところがベストだろうと当たりをつける
遠目からでも数箇所、光放石が集中していると分かるような、とても明るい場所に目をつけた。
そうして目的地点を目指して森をかき分けて進む。
「あー!シュリ草だっ、あれはレムネスの蕾だよねっ!」
その間にも多くの薬草や武器防具に使う素材、格式高い料亭で調理される高級食材などが多く目に入る。そこは特定の職の人間からしたらまさに天国のような場所だ。
斯く言うフィリアも雑貨屋を経営している以上、各種生産系スキルは身につけているために素材の価値が分かりすぎるゆえにその表情は生き活きとしている。
保管器が次々といっぱいになってはしまわれた。もちろん、貴重な物が多いので採りすぎないように細心の注意は払っているが。
そうしながらも当たりをつけた場所の内いくつかを周り、数カ所はハズレを引いたものの、やがてフィリアは目的の物を見つけた。
見渡す限り一面の赤。見事なほどのフレイル草の群生地だ。ここまでの規模のものはそうお目にかかれない。
「ほんとにあったよ、群生地。……はぁー…っ、すっ…ごく綺麗ー!」
群生地を目にした途端、万歳の格好で喜びをあらわした。念願叶ったのだから当然だが、彼女はまるで子供のようにはしゃぎまわって飛び跳ねる。
だが、喜びに満たされていた彼女は、すぐ傍にあった'ある物'に、そのときは気が付くことはなかった。
素材採取と戦闘ばかりになり始めてますが、一章の最後あたりでちゃんと生産のお仕事も入れる予定です(地味ですが…)。
読んで下さって、どうもありがとうございます!(感想にてご指摘?がありましたので、あとがきを修正しました)。