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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第一章 目玉商品とフレイル草》
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その頃の彼

 フィリアが王都を出たのと同日。ネイトは朝からずっと、何か嫌な感覚を覚えていた。

一体何が、と聞かれてもはっきりとは答えられない。だが、彼が持っている《直感》のスキルがずっと警告をならしていた。


「まったく、何だというんだ。この感じは…」


初めはウィンアーデ教官が、いつものように急に決めた野外訓練で何か起こるのかとも警戒していた。しかしどうにも違うようだと彼の《直感》が告げている。

そしてその嫌な感覚は消えないまま、ネイトたち騎士科は野外訓練から15の刻に王都まで帰ってきた。

いつもならばこのまま学園で訓練結果の確認として模擬戦や座学を行う。しかし今日は学園に、会議のために王都から出ていた学園長が戻ってきていた。

学園長は正式な許可もなく、生徒を連れて訓練に行っていたウィンアーデ教官に対して怒り、教官を職員棟に引っ張って行く。


「今日はこのまま解散とします。皆さんは帰宅してよろしいですよ」


にっこりと微笑んで学園長は去って行ったが、彼女の笑顔に騎士科の生徒たちは、何故か全員震えが走るのを感じる。大人しく帰った方が懸命だと判断した彼らは、それぞれ無言で帰路についた。

予定よりも訓練が早く住んでしまったため、ネイトは学園からの帰り道でこれからの予定を考えてみる。


「こういう日は家にいるのがいいのかもしれないな。いや、しかしフィーに会いに行くのもありか。フレイル草についてなにか進展があったかもしれんしな」


フレイル草については確かに気になる。しかし彼が本当に気にしているのはフィリアだ。


 

 彼女が学園にいた頃から、ネイトは友人としてその隣にいた。

だが、最初はただ単にフィリアに何かあったら助けてやりたいとだけしかと思っていなかった。

しかし、そう伝えたら彼女はそれを拒否したのだ。


「ありがとう、でも大丈夫! わたしはちゃんと助けて欲しかったらそう言うよ。ネイトはわたしなんかのことを友達って言ってくれる。だからわたしはネイトの友達として恥ずかしくないように、ネイトと対等でいられるように頑張るからね」


その言葉に、ネイトは友人とは一方的な関係ではないと教えられた気がした。

そして、どんなに周りから落ちこぼれだなんだと言われようとも、自分の友人として対等であるためという理由で研鑽を続ける彼女を、ネイトは異性として初めて尊敬したと同時に意識した。

彼女が学園から去った今もそれは変わらない。

それからというもの彼は、研鑽を続ける彼女と対等であり続けるためにさらに自身を磨き上げることに必死になった。

 


「……一旦帰って着替えでもしたら見に行くとするか」


だが、どんなに取り繕ってもやはり年頃の男子。意中の相手に会いに行きたいと思うのは当たり前だ。

予定を決定したネイトは、早足で家へと向かった。


 ◇

 

 屋敷の扉を開くと、すぐにネイトを筆頭執事のクロムウェルが出迎える。

この執事はネイトが生まれた時からすでにルードス家に仕えていた。そのためネイトのことを赤ん坊の頃から知っているため、ネイト自身も彼のことをもう一人の父親のように感じている。


「お帰りなさいませ、ネイト様」

「ああ、今戻った」

「今日はお戻りが深夜になるとのことでしたが、何かあったのですか?」

「ウィンアーデ教官が学園長殿に連れて行かれてな。それで解散となった」


早く戻って来れた理由を告げるネイトに、クロムウェルが苦笑する。


「それは…、お疲れでございましたな」

「教官もそろそろ懲りた方がいいとは思うがな」


つられて苦笑する彼を見て、クロムウェルはとある少女から連絡があったことを伝えることにする。


「ネイト様、昨夜遅くにフィリア様よりご連絡がございました」


だがそれを聞いた瞬間に、ネイトは自身のの中に渦巻いていた嫌な予感が急激に大きくなっていくのを感じた。


「……フィーから? 何の用件だったんだ?」

「分かりません。ですが、どこか焦っているかのような雰囲気が混じっておりました。そのため、訓練部隊の伝音器コミュットのナンバーをお伝えしようかと伺いましたが、大丈夫だと言って断られました」


クロムウェルからそう伝え聞いたと同時、カチリとネイトの中で何かが噛み合った。

――これだったのか…っ!

ただそれだけが彼の頭に浮かんだ。


「クロム、フィーは今どこにいる?」


ネイトはフィリアがすで王都にいないことを確信していた。故に、どこにいると訊ねる。


「フィリア様なら今朝早くに王都を出られたようです。衛兵の話では北東の森へ素材採取に行くと言っていたと、塔の詰所より連絡があったそうです」


昨夜の僅かながらではあったが、焦りを滲ませたフィリアの声が気になったクロムウェルは、密かに彼女の動向を探っていた。

それはどうやら間違いではなかったと、突然雰囲気の変わったネイトの様子に確信する。


「城門の前に馬を用意しておいてくれ。そのまま王都を出る」

「承知致しました。共の者は如何いたしますか?」

「時間が惜しい。支度が終わるまで待ってはいられない」


共も付けずに単身で王都を出るというネイトに、クロムウェルは半ば諦めたように息をつく。


「……仕方がありませんね。それでは伝音器コミュット集音器コレクトをお持ち下さい。引き続き情報を集め次第、ご連絡致します。しかし、貴方様はルードスの跡取りなのです。それだけは決して忘れませぬように。どうかくれぐれもお気を付けて下さいませ」

「分かっている。あとは頼むぞ」


そう告げると飛び出すようにネイトは自宅を飛び出した。幸い、装備は訓練に行った時のままだ。

彼女に何か危険が迫っている。間に合え、と祈りながらネイトは城門へ向けて疾走した。

 いつも読んでくださって、ありがとうございます!

視点がフィリアから外れましたが、次回にはまたフィリアの方に戻りますのでお待ちくださいませ。

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