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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第三章 双子とアメジーナの秘法》
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再開と子供ふたり

  あれから数日――、フィリアは無事に『フルハーモニー』を再開させた。

 今まで休んでいた分の反動か、再開初日には冒険者が殺到することになったが、再開までの間に作り溜めておいた上級薬のおかげでなんとかなった。

 作った分は完売。その他の雑貨類もついで買いのおかげでそれなりにたくさん売れた。そしてようやっとその忙しさも落ち着いたというわけだ。

 店のカウンターに座り、店の帳簿を確認しながらフィリアはお茶を飲む。


「ふー…、癒されるぅ」


 ほうっと息を付きながら、カップを傾けるフィリアの頭から未だに心配事は抜けることがない。

 数日経った今もまだ、アルタットたちについての報告は来ていないのだ。

 レミアータは勝手に退院予定日を早めたことを上司に知られてお叱りプラス謹慎という名目の療養を取らされている。そのため、そちらからも連絡が来ることはない。


「どう…、なったかなぁ」


 あれから先はフィリアの手を出せる話ではないと理解してはいるが、それでも心配せずにはいられない。

 どこかの貴族が後見人となって暮らすのか、それともあのまま王宮預りとなるのか。なんにしてもあのふたりが幸せになれる道に行けるといいと思っていた。


「とりあえずわたしに出来ることはないもんね」


 フィリアはそこで一旦思考を打ち切ると、カウンターから立ち上がって店内をぐるりと回ることにした。足りない商品がないかの確認のためである。

 きょろきょろと商品棚を見回して、品揃えのチェックをしていると、店の扉を叩く音が聞こえてきた。


「なんだろ? お店開いてる間はノックとか必要ないんだけど」


 ひとまず出るべきだろうとフィリアはそちらに駆け寄ると、はーいと元気よく扉を開いた。

 そして開いた途端に自分に抱きついてきた小柄な影に身を固くする。


(ふぁっ!? な、なにぃっ?)


 不審者っ!? と驚いたのも一瞬。すぐにその影の正体に気がついた。


「メイちゃんっ。えっ、どうして?」

「……フィリアお姉ちゃん、やっと会えたの」


 お腹のあたりに頭を押し付けながら、メイルディアが力いっぱいに抱きつく。

 その向こう側からもうひとり、少年が走り寄ってくるのが見えた。


「フィリア姉ちゃん!」

「えぇ!? アルくんまでっ。どうしたの!?」

「あのなっ、俺たち、フィリア姉ちゃんと一緒に住みたいんだっ! ダメかな?」


 とんでもない爆弾発言だ。フィリアにしてみれば聞いてない話である。


「え、えと、どういうことかな…?」

「おふたりとも、何の説明もなくそのようなことを言っては彼女が驚いてしまいますよ」


 クエスチョンマークを飛び回らせているフィリアに救いの手が差し伸べられた。

 渋い男性の声、そちらに視線を向けると執事姿の壮年の男性が立っている。男性は優雅にフィリアに向かって礼をすると、優しげな笑みを浮かべた。


「突然の訪問、誠に申し訳ありません。本来ならば事前にご連絡を差し上げるべきでしたが、今回は警備上の関係でこのような形となってしまいましたことをお詫び申し上げます」

「あ、いえいえご丁寧にどうも。ええーと、それじゃあ、とりあえず中にどうぞ? お茶……、すいません安いものしかないんですがって、そうでした! えと、わたしはフィリア=グランツェリウスと申します。先に名乗るべきでした……」


 明らかに貴族関係のお偉い方だと分かる風貌の人間に、市場でまとめ売りされていたお茶は出さない方が良いかもと思いながらも念の為に尋ねる。


「これはこれは、どうもありがとうございます。私はアルツィーラ公爵家に執事として仕えさせて頂いております、ドルネドと申します。そうですね、話の内容も少々内密にしたいものですし、それではお言葉に甘えさせて頂きましょう。メイルディア様、アルタット様、中に入りましょう」


 未だにフィリアのお腹に抱きついて離れないメイルディアをドルネドが促す。メイルディアはそれでもしばらくの間、頭をふるふると振りながら抵抗していた。


「メイ、姉ちゃんが困ってるぞ。とりあえず中に入ろうぜ」


 アルタットの説得もあり、ようやっと、渋々ながらメイルディアはフィリアのお腹から離れて家の中に向かう。

 それに引きずられてフィリアも家の中に戻ることになる。なにせお腹から離れてはもらえたが、メイルディアの手はしっかりとフィリアの手を握っているのだ。どうしようもない。


「す、すみませんドルネド様っ、お店の外の札を裏返しておいてください!」


 慌てて最後に家の中に入ったドルネドに頼み込むフィリアの様子を、彼は微笑ましそうに眺めながら扉に掛かっている札を裏返した。



  リビングについた一行は、フィリアに勧められるままに席に着く。

 ドルネドだけは執事が世話をしている者と同じ席に着くわけにはいかないと行っていたが、メイルディアの無言の視線に負けて座ることになった。


「……フィリアお姉ちゃん」


 表情はほとんど変わっていないのだが、声色に嬉しそうな風を滲ませてメイルディアが隣に座ったフィリアを見上げる。


「なに? メイちゃん」

「……なんでもないの」

「そうなんだー」


 まるでバカップルである。にこにことメイルディアの呼びかけに答えるフィリアだったが、こんな懐かれていたかなぁと疑問にも思う。


「メイ、姉ちゃん……、なんだかなー」


 ふたりのちょっと残念な感じにアルタットが項垂れる。だがそれも仕方ないかもしれない。誰が好きこのんで惚気るやつらの前にいたいと思うのか。


「あー、ごめんね、アルくん」


 バツが悪そうに笑って誤魔化すフィリア。そんなことで誤魔化されはしないが。


「ええっと、それで! なんでふたりがここにいるのかって話なんだけど」


 話を逸らそうと(ある意味そちらが本題なので本筋に戻そう、と言ってもいいかもしれない)フィリアが焦った様子で口を開く。


「そちらについては私からご説明を」


 本題に戻ったところでドルネドが話を引き継ぐ。もともとそのためにこちらにいるようなものだ。


「あ、はい、よろしくお願いします」

「はい、では。まず最初にアルタット様、メイルディア様のおふたりを貴女の方で預かって欲しいのです」

「ええっと、さっきアルくんたちが言ってた話ですよね? なんでそんなことに?」


 単刀直入に本題を切り出したドルネドの言葉にフィリアは首を傾げる。

 それこそ貴族、アルツィーラ公爵家などが後見人となった方がいいのではないかと思っていた。


「はい。理由としましては、アルタット様は鉱石命令(ストーン・コマンド)のスキルを使いこなしたい。また、私たち側の人間もそれを望んでいます。しかしそれには工房で修行を積まなければなりません。

 もちろん、後見人となった貴族の方で工房を作り、指導者を雇えばよいという話も出たのですが、それでは修行の意味合いも薄く、スキルの伸びがあまり期待できません。そこで工房に出向くことになったのですが、貴族街から工房がある一般市街まではかなりの距離があります」


 貴族街とは王都住まいの貴族たちが生活している特区のことである。警備上の問題で一般市街とは離れており、馬車で30巡はかかる場所にある。


「そのために毎日工房に向かうこともできません。それに比べましたら、フィリアさんの居住は徒歩で15巡程度で工房のある中央通りに着けますから」


「えーと、でもそれなら中央通り沿いで家を借り受けたらいいのでは?」


 フィリアの疑問も最もである。貴族の力があれば、家の1軒や2軒は借りることは可能だろう。


「その点は警備上の問題ですね。フィリアさんも知っての通り、ここには近くに騎士の詰所がありますから、比較的に警備もしやすいのです」


 確かにこの店のすぐ近くには騎士団の詰所もある。というか前の事件で作ってもらったと言った方がよいだろう。

 フィリアも狙われている以上、狙われそうな顔ぶれは1箇所に集めたほうが守りやすいといった利点は確かにある。


「騎士の方に護衛についてもらって中央通りに向かうというのも可能になりますので、その点も重要です。また、ご自宅ですが防衛用の魔法を用意しているでしょう?」


 続いたドルイドの言葉にフィリアは息を呑む。しっかりと隠蔽しているが、確かにこの店には特殊な防犯・防衛の魔法をかけている。

 だが、まさかばれるとは思っていなかった。


「先日、先立ってロニール様にも下見をして頂いたのですが、その時に驚いていらっしゃいました」

「ロニール師ですか。それなら気付くのも当たり前ですね」


 憧れの魔法使いが見に来ていたと聞いて、それならばばれても仕方がないとフィリアは納得する。


「安全面はそれを聞いて私の主も納得しておりました。それと、メイルディア様からの要望もありまして」

「メイちゃんの要望ですか?」


 突然方向の変わった話に、フィリアはメイルディアの方に視線を向けた。


「……ん、働きたいって頼んだの」


 メイルディアは小さく頷きながら呟く。


「働きたいの?」

「ええ、お話を聞いた限りでは兄上様が修行をするというのに、自分が何もしないのは駄目だと仰られていまして」

「な、なるほど」


 どこか頑固なところのあるメイルディアらしいとフィリアは自然と納得してしまった。


「それで、もしよろしければフィリア様のお店のお手伝いでもさせて頂ければと思いまして」


 その言葉にフィリアは考えを巡らせる。

 情で流されて雇うのは簡単だが、店のことで妥協することはできない。ここは父の残してくれた店だ。その責任も人一倍フィリアは感じていた。


「メイちゃん、お店で働くのはすごく大変な時もあると思う。それでもいいの?」


 フィリアは真剣な表情でメイルディアの目を見つめると、メイルディアは一瞬それに気圧される。

 だが、すぐに自分もフィリアの目を見つめ返すと、しっかりと頷いた。


「……頑張るの。だから、お願いします」


 精一杯の様子にフィリアはふっと、表情を和らげるとその頭を撫でた。


「分かったよ。それじゃ、よろしくね」

「……うんっ」


 珍しく表情を綻ばせるメイルディアにきゅんきゅんしてしまうフィリア。普段表情を変えない子が、可愛らしい表情を見せた時のギャップは物凄いものがある。


「では、おふたりを住まわせることは宜しいのですか?」

「えーと、そうですね。ふたりが本当にうちでいいならいいですけど、空いてる部屋もありますし。あっ、もちろん警備を増強していただけるのが前提でっ」

「それはもちろんでございます。警備騎士の増強と巡回の回数を増やすことはすでに決定しております。また、週に1度ですがアルツィーラ公爵家より生活上の問題を確認する者が参る予定です」

「それなら大丈夫ですね。――ふたりも本当にいいの?」


 警備上は問題なさそうだとフィリアは安心すると、そのままアルタットとメイルディアの方に顔を向ける。

 ふたりはフィリアに向かって元気よく頷いた。


「もちろんだぜ、姉ちゃんっ!」

「……お姉ちゃん、ありがとなの」


 そうしてふたりがフィリアの家に住むことが決定した。

 その日はふたりとも引越しの準備も兼ねて一旦、現在仮住まいとなっているアルツィーラ公爵家に戻ることになった。

 ふたりが来ることになったフィリアは慌てて、空いている部屋を掃除したりして住めるように整えた。



  後日、雑貨屋『フルハーモニー』には念願の店員がひとり増え、近くの工房には少年がひとり見習いとして働き始めたそうだ。

 遅くなりましたが、これにて第3章は終わりです。

第4章は仕事が終わり次第、ということになりますので、再開近くなりましたら活動報告にてお知らせいたします。


ひとまずここまでお付き合いありがとうございました。

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