アメジーナの力
最後のゴレムスたちを倒して、戦闘が終わると同時にフィリアは3人の下に駆け出した。そしてそのままの勢いで、レミアータに抱きつく。
「レミさんっ。無事で良かったですーっ!」
「フィリアさんも。ご無事な様で本当に安心しました」
ぎゅぅっと自分をを抱きしめるフィリアの頭を撫でながら、レミアータは微笑む。一時は命の心配すらもしたが、彼女の体には傷らしい傷が無いようで安心した。
ほっとしてるレミアータを、一瞬だけぎゅぅっとより強くフィリアは抱きしめた。そうして満足したのか、次はアルタットとメイルディアをふたりいっぺんに腕の中に囲い込む。
「アルくんもメイちゃんも助けに来てくれてありがとうー!」
「あ、当たり前だろっ。約束したんだからな!」
「……無事で、よかった」
アルタットは顔を赤くしてそっぽを向くが、メイルディアはフィリアを抱き返す。
そんな4人の下に、指揮官を務めていた騎士が近づいてきた。
「無事なようでなにより。私はこの隊の指揮官を務めているブレンド=トリファールだ。ブレンドと呼んでくれて構わないぞ」
「ブレンド様ですか。この度は助けに来て頂いてありがとうございます。わたしはフィリア=グランツェリウスと申します。王都で雑貨屋を営んでいる者です」
ブレンドと名乗った騎士に、フィリアは頭を下げて礼を言う。
「いや、民が助けを求めているならば助けるのが我々、治安維持騎士部隊の役目だ。気にしなくていい」
「いえ、本当に助かりましたから、お礼を言わせてください」
「分かった。では、礼の言葉は隊を代表して私が確かに受け取った。団員にも伝えておこう。―――さて、では部下にこの内部を探索してきてもらわねばならないのでな。少々失礼するぞ」
ブレンドは言葉遣いとは裏腹に、きっちりと騎士の礼をすると、団員の下に戻って行った。
「フィリアさん。お疲れでしょうが、ブレンド殿たちの隊が戻るまではここで待つことになります。床に直接になってしまいますが、お座りになったらどうでしょう?」
「あっ、はい。ありがとうございますっ。実は急に動いたからから、すごく疲れちゃってたんですよね」
レミアータの気遣いの言葉に対してフィリアも素直に頷く。実際、傷はほとんどなくても倦怠感が身体にまとわりついていた。
フィリアはその場に腰を下ろして、ふうっと息をつく。
視線をそのまま騎士たちの方に向ければ、3人ほどがこの広間に残り、その他の者たちがいくつかのグループを作って探索に当たるようだ。
指示をまとめておくるブレンドは、広間に残ることになったらしい。
「それにしてもアルくん、すごいねぇ~。さっきって何したの?」
座り込んだフィリアは、今度はアルタットに視線を移す。
戦闘中に使ったあの不可思議な技、あれが魔法によく似ていたので気になっていたのだ。
尋ねられたアルタットの方はというと、少々バツが悪そうな表情で頭を掻く。
「えっとなー、あれは“鉱石命令”って言うスキルで、えっと」
説明しづらそうな彼の様子にフィリアは覚えがあった。
あれは自分のやっていることを感覚では理解しているが、原理的にはまったく分かっていない人間の様子だ。
「あっ! わかってないと思ってんだろ!? ちげーからなっ! ちゃんとわかってやってるっつーのっ!!」
呆れたような表情のフィリアに半眼で見つめられて、アルタットがさっきとは別の理由で顔を赤くする。
子供らしいその姿に思わずフィリアの口が綻んだ。
「ごめんごめん。それで、とりあえずさっきのはレアスキルってやつなんだね?」
「レアスキルってなんだ?」
「………それも知らずに使ってたんだ」
フィリアが謝ってから話を進めようとしたが、最初からまた躓いた。
だが人里離れた場所で暮らしていたというのならば、知らなくても仕方のない話なのかもしれない。それを教わる前に両親が他界してしまったとしたなら尚更だ。
「えーと、ユニークスキルっていうのはね」
ひとまずフィリアはレアスキルについての解説をすることから始めた。
レアスキルとは特定の人物、一族の人間ではないと使用することの出来ないスキルだ。例えば、どこかの武術の流派に伝わる一子相伝の秘技などがそれにあたる。
まだどのようなスキルかよく分からないが、恐らく鉱石命令という技もレアスキルなのだろう。
分類的には、血族に伝わる遺伝系のスキルに含まれるのではないか、というのがフィリアの考えである。
それならばアメジーナ赤鋼鉄が未だに作られていないことも理解できる。
あれは素材はもちろんだが、それらの配合率や混合パターンなどがほとんど解明できていない。しかし一部判明している配合率などの複雑さから、作成不可能とも噂されている。
だが、スキルでそれらに、簡単に変更できるというのならば話は別だ。
戦闘には向かないかもしれないが、製造系のスキルではこれほどに強力なスキルも少ないだろう。まさに希少価値の高い能力である。
「―――っていうのがレアスキルなんだがけど、分かった?」
長々とした説明を終えたフィリアが、アルタットとメイルディアに改めて尋ねる。それに対して、ふたりは感心したように頷いた。
「……レアスキル、すごいの」
「はぁー、物知りだな、フィリア姉ちゃん」
これくらいのことで感心されてしまっては、フィリアとしては気恥ずかしいものがあるが、悪い気はしない。照れて、はにかんだ顔でふたりの頭を撫でた。
「それでここからが聞きたいんだけど、鉱石命令っていうのはどういう効果のスキルなの?」
「あー、んっとなぁー」
改めて説明してくれないかと言われて、再び悩み始めるアルタット。そんな兄の様子を見て、妹が溜息をつきながら話に割り込んできた。
「……鉱石命令は、今はお兄しか使えないの。お父さんも使えたけど、今はいないから」
「あ…、そうなんだ」
両親がもういないということについては、ふたりは気にしていないという風だが、他人からしてみれば気を使う話題である。
ただ、それも度を過ぎるようなら相手に不快感を与えてしまうために、フィリアとしては未だに距離感を測りかねていた。
「……ん。鉱石命令は鉱石さんに自分の意思を伝えるスキルなの。お父さんが言ってた」
「自分の意思を伝える?」
「……そう。お兄はいつも鉱石さんにこうなってくださいってお願いしてるって言ってたの」
「あっ! そうそう、そうだぜ! 鉱石をいじるときはいつも、こうなってくれーって頼んでるんだ」
妹の言葉に反応するかたちで、アルタットも同意する。
「って言っても、頼みを聞いてくれる鉱石は今んとこまだ数すくねーんだけどさ」
「なるほど。つまりは鉱石命令は鉱石に頼みごとができるってすきるなんだね」
鉱石に意思があるとは思えないので、たぶん鉱石に混じっている極僅かな魔力に指示を与えているのだろう。
鉱石自体は、魔石ではない。しかし、本当に僅かながら魔力は混じっている。それが防具に加工されたときなどに、多少の魔力耐性を人に付与するのだ。
アメジーナのスキルはその魔力に指示を与えることによって、鉱石の容易な加工を可能にしているのではないか。
「ちなみにアルくんが今、頼みごとができる鉱石っていうのはいくつあるの?」
「あーっと、4つくらいかな。そん中でも一番硬いのが、金剛石だったから今回はなんかの役に立つかもしんないって思って持ってきてもらったんだ」
それを聞いてフィリアも納得する。
自分が拉致されたときには、アルタットは鉱石を持っていなかった。
もしかしたらポシェットの中には4つのうちのどれかがあったのかもしれないが、自分もスキルのことを知らなかったし、状況的にそれらを探している時間もなかった。
だから、あの状況でそのスキルを使えなかったことは仕方がないことだったのかもしれないと。
「なるほどねー。あれ? でもなんでメイちゃんはスキルが使えないの?」
「……このスキルは、アメジーナの中でも男の人しか使えないの」
「男の人しか使えないスキルっていうのも珍しいね」
「……ただ、そのスキルが使える子供を産めるのはアメジーナの女の人だけ。男の人が次の子供を産んでも、スキルは継がれないの」
「血族的なスキルの役割分担ってことかな。まぁ、それなら確かに珍しくはないのかも?」
そういう性的な話は、一族の根幹を成しているだけあって、きちんと説明されているらしい。
あのアルタットでも、それはちゃんと理解しているのか頷いている。
「ということはもしかして、アメジーナの人って女の子が少ない?」
「……すごい。どうして分かったの?」
「あー、もし女の人が多かったら、もうちょっとそのスキルが外に広まっていてもおかしくないかなぁーって思って」
スキルを子供に継がせることができる女性が多いならば、いくらなんでもここまで閉鎖的な一族にもならなかっただろう。
血族的なスキルの覚醒一族にはそのあたりはよくある話だったりっもしたので、予想するのは簡単だった。
「ひとまず、そのスキルはあまりひと目のあるところでは使わない方が良いでしょうね」
今まで黙って話を聞いていたレミアータが真剣な顔で兄弟を見つめた。
「どーしてさ?」
「……お兄。狙われるからだと思うの」
理由を理解できないアルタットをメイルディアがフォローする。
「ええ。もし人前で使えば、再び狙われることになりかねません。アルくんはスキルが使用できますから、鉱石さえあればなんとかなるかもしれません。
しかし、メイちゃんはそうもいかないでしょう。ましてやその身自体が希少な存在です。危険なことに巻き込まれてしまう可能性は充分にあるでしょう」
「わたしもそれには賛成かな。アルくんは今後、お父さんの跡を継ぐっていうなら、スキルを使用するのは修行場所の工房内だけとかにした方がいいだろうね」
妹が狙われるかもしれない、と聞いてアルタットも真剣に頷いた。
「しかし、王都には私たち騎士団の本部もあります。貴方たちふたりの身は絶対に護ってみせますから、安心してください」
必要以上に怖がらせることはないと、レミアータは自信を声に滲ませて兄妹に笑いかけた。
その笑みにアルタットたちが、ほっと息をついたことをフィリアは横目で見ながらとある可能性に思い至る。
(スキルを子供に引き継ぐことができないはずの父親がスキルを持っていたってことは、お母さんの方もアメジーナの一族だったってことだよね。
肉親での交わり、ってことは遺伝子的なスキルの引継ぎに異常をきたす場合が多いって言うし、可能性は低いだろうしなぁ。
と、すれば他にもまだアメジーナの一族は残ってる…? 今回の騒動に巻き込まれたんじゃないっていうことがあったなら、他国にはいる可能性があるのかな?
母方の家系か、父方の家系かは分からないけど、アルくんがもしスキルを使いこなしたいっていうなら、探してみるのも手かも)
王都に帰れたら、そのあたりを調べてみてもいいのかもしれないと、フィリアは考えていた。
1日遅れてしまって申し訳ありません…。




