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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第三章 双子とアメジーナの秘法》
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脱出決行と救出戦闘

  フィリアが再び意識を取り戻したとき、すでにそこは牢ではなかった。

 王都にある宿屋の一室のような個室。彼女はそこにあった1つのベッドの上で目を覚ました。


「牢じゃない…? どうして……」


 体を起こして自身の服装をチェックしてみるが、それだけは牢で気が付いたときのままだ。


「わたし、薬飲まされて…、そのあとはどうしたんだっけ?」


 荷物は相変わらず取られたままになってしまっているようで、部屋を見回した限りではそれらしいものはなかった。

 記憶を辿ってみるが、薬を飲まされたあとに意識を失ったのは確かで、それがとても嫌な感じだ。

 だが、記憶に無いことを考えていても仕方がないと、フィリアは思考をすっぱりと切り上げて部屋中を改めて眺める。


「ひとまず脱出を考えないとね」


 フィリアは物音を立てないようにゆっくりとベッドから降りると、部屋にあるただ一つの扉に近づく。


(牢にいれられてたときには信じらなれないほど身体が軽い。痛みも無いし、魔力(マナ)も完全じゃないけど7割方は戻ってる。あとは杖さえあれば…)


 実は杖がなくても魔法はある程度ならば使える。しかし、杖があれば魔力(マナ)の効率的な運用と使用できる術の幅を広げることができるのである。

 特にフィリアの杖、『ベルクフォーレの魔杖』は魔力(マナ)と相性の良い上位魔物の素材を使っているので、その効果はあると無いでは大違いだ。


(外に見張りはの気配は無い、みたい?)


 そっと扉に張り付いて、耳をそばだてる。話し声など聞こえないかと試してみたが、外からは何の音も聞こえない。

 扉の壁が厚いのか、それとも見張りも立てていないのか。後者だとしたら相手は相当に自信があるとしか思えない。

 フィリアはゆっくりとドアノブに手をかけて、扉と慎重に開いた。


「………本当にいないとは思わなかったなぁ」


 僅かに開いた隙間から外の様子を窺い、そして扉をさらに大きく開けて部屋の外に出る。左右を見渡すと長い廊下のような造りになっていた。


「ここってほんとに隠し洞窟? もう洞窟っていうか建物の中みたいになってるけど」


 宿屋だと言われてしまえば信じてしまうような内装の廊下に、フィリアは思わず呆れたような溜息を漏らす。

 だが、それと同時に警戒心も強くなる。あの蛇のような男が言っていたことが本当だとするならば、ここはどの都市からも離れた場所にあるはずだ。

 そんな場所に宿屋のような内装を整えた場所、しかも洞窟を改装して用意したとなると、相手はそれなりに資金面、人材面でも大きな物を持っているということになる。


「少なくとも、個人でやれることじゃないよね…。組織的なものが動いてるって考えていいかも」


 フィリアはそう呟くと、廊下の左に向かって進み始めた。左右どちらが正しいのか分からないが、進まないわけにはいかない。ならば、と彼女は自身の勘に頼って移動を始めた。

 真っ直ぐな廊下を道なりに進んで、途中で直角の曲がり角。さらに歩を進めると分かれ道が何度かあったが、その度に魔力(マナ)で人には見えない印をつけていく。


(こんなに進んで未だに誰とも会わないなんて。魔物がいないのは、ちょっと助かるけど)


 途中に扉もいくつかあったので全て開けてみたが、フィリアが最初に眠っていたような個室ばかりで、中には誰もいなかった。

 同じような装飾の道ばかりが続き、さすがにフィリアも辟易してくる。


「……はぁ、これが狙いなんだとしたらお見事としか言い様がないよー」


 魔物はいないが、この作りでは迷宮(ダンジョン)のようだ。目的地が分からないというところで、さらに精神的にも負荷をかける点はいやらしいとしか言えない。ここを作った人間はかなり嫌な性格をしているのだろう。


「まぁ、でもあの蛇男さんなら納得だけどさぁ…。こう、変なところでしつこそうなのがイメージ通りすぎるというかねー」


 あの不快感しか覚えなかった男を思い出して、フィリアは心底嫌そうな表情(かお)をした。


「あの薬……、変なものだったらただじゃおかないんだから」


 無理やり飲まされたあの薬が良い物でないことくらいは分かっている。無事に王都に帰れたら、診療所で検査を受けた方が良いだろう。

 思い出して苛つくフィリアだったが、通路をさらに進んだところで立ち止まった。


「これは……、金属音?」


 この数日、毎日のように聞いていた音が耳に微かに届いた。

 それは金属武器同士をぶつけ合う音。つまるところ戦闘音だ。


「―――誰かが戦ってるっ」


 フィリアは弾かれた様に音が続く場所へと走り出した。


「まだ聞こえるっ」


 走る速度をそのままにして、何度か通路を曲がる。音はまだ響いており、そして段々と近くなっていく。

 戦闘の音から判断するなら、恐らく戦っている者たちはどちらも複数だ。音の種類は大きく分けて2種類ほど聞こえてくることからそれが分かる。

 そしてその片方は確証はないが――、


「たぶん、騎士っ。助けに来てくれたのかも…!」


 重く、響くようなその音は、レミアータが使っていた騎士用の剣とよく似ていた。

 戦闘の音はもう間近。最後の角を曲がって、フィリアは広間に飛び出した。


「うっわ…っと、と」


 勢いよく広間に出たところで、フィリアは目の前にあった石造りの手すりに掴まってなんとか止まる。

 彼女が出たのは広間の2階だった。2階は中央部分を吹き抜けにしたような作りになっており、その周りが通路になっている。そして、その吹き抜け部分から1階の様子がよく見えた。


「やっぱり騎士の皆さんだっ」


 1階では、騎士と仮面のゴレムスたちが争っている。騎士の数は10人を超え、見たところ6体程度のゴレムスたちを押していた。

 騎士側にも少ないが負傷者は確認できるものの、幸いにも死者は出ていないようだ。広間の端にはすでに倒されたゴレムスたちが転がされている。


 ◇


「フォローをしあえっ! 敵は少ないっ、こちらが有利だぞ! 左右から回り込んで一気に落とすのだ!!」


 騎士を率いていると思われる部隊長風の男性が指示を出す。


「了解っ」


 騎士たちは指示に従って統率の取れた動きで、ゴレムスたちを圧倒していく。

 ゴレムスの軽業師のような身のこなしから放たれる連続攻撃を、ひとりが剣で弾き返し、その隙をついて数人が一気に距離を詰める。


「遅いぜっ!」


 ひとりの騎士が剣を横に振るう。それをなんとか躱すゴレムスだったが、そこにさらに飛び込んできた騎士がその身を斬り裂く。

 そうしてゴレムスたちの数は徐々に減っていった。


 ◇


「さすがに本職(プロ)の皆さんは違うねっ」


 圧倒的な速度で戦場を掌握していく騎士たちの動きにフィリアは驚嘆の声をあげた。だが、そこで不穏な動きを見せている1体のゴレムスに気が付く。


「あれは…っ」


 残っていたゴレムスは6体ではなかった。広間の端に倒れていた十数体のゴレムスの残骸。しかしその中で1体だけ、動きを見せているものが混じっている。

 仲間の残骸に紛れていたゴレムスは、騎士の多くが左右に別れ、指揮官の守りが薄くなったところを狙って動き出した。


「危ないっ!!」


 思わず大声で叫んだフィリアの声に反応して、指揮官の騎士も敵の急激な接近に気が付く。


「くっ!」

「隊長っ!?」


 しかしその時には距離が近すぎた。禄な対処もしようが態勢になった指揮官は無防備そのものだ。

 そして次の瞬間、迫ったゴレムスの凶刃が指揮官の首元目掛けて振るわれる。



「―――鉱石命令(ストーン・コマンド)っ!!」


 

 刃が指揮官の首を捉える直前、少年の声が広間に響き渡った。


「えっ!?」


 そして次の瞬間、フィリアは信じられないものを見た。

 輝くような光沢を放つ鉱石の守り。それが指揮官の首周りに現れ、ゴレムスの刃を防いでいた。


「これはっ!?」

「指揮官の兄ちゃんっ。やっちゃえ!!」

「―――っ!!!」


 突然現れて、自らの身を救った鉱石の守りに動きが止まっていた指揮官だったが、少年の声に我を取り戻した。

 そしてその体は考える前に動き出し、剣を振るう。剣は眼前のゴレムスの胴を容易く両断した。


「助かったぞ、少年よ!」

「へへ、俺も役に立てたぜっ!」

「……お兄。頑張った」

「金剛石を持ってきてくれ、と言っていたのはこれが理由でしたか。しかし素晴らしい技ですね」


 にししと笑う少年と、少年を褒める少女の姿。その傍らにふたりを守るようにして立つ女性騎士を見て、フィリアは喜びと安堵に包まれた。


「アルくんっ、メイちゃん…っ! レミさんもっ」


 心配していた3人が無事だったと知って力が抜けるような思いをフィリアは味わった。彼女の黒い瞳に薄く涙が滲む。

 そんなフィリアの姿をレミアータたちも見つけた。


「フィリアさん、ご無事でしたか…!」

「フィリア姉ちゃんっ」

「……良かったの」


 3人もそれぞれフィリアの無事を喜ぶ。アルタットとメイルディアのふたりは、互いに抱き合って飛び跳ねているほどだ。


「フィリアさんっ、今から荷物を渡します! 杖も括り付けてありますからしっかりと受け取って下さい!」


 レミアータはフィリアに向かって叫ぶと、自身の腰につけていたポシェットを振りかぶった。


「うえぇっ! わ、分かりました!!」


 フィリアは突然の宣言に慌てるが、受け取るための体勢をしっかりと準備する。


「行きますよ!」


 レミアータは声と共にポシェットを2階のフィリア目掛けて投げた。


「うわわぁっ」


 真っ直ぐに飛んでくるポシェットをフィリアは危なげなくキャッチ。ふう、と額を拭った。


「ありがとうございますー!」


 すぐさま受け取ったポシェットを腰に通し、しっかりと装備する。

 そしてポシェット部分の横に括られていた杖を取り出して、手すりから身を投げ出した。

 突然の行動に、周りで残り2体となったゴレムスを追い詰めていた騎士たちがぎょっとする。


「エラス アルゥっ! 風よ、支えよ!」


 フィリアの声に応じて風がその身を包み込む。そして1階の地面へとふわりと着地した彼女は、そのまま顔をゴレムスに向ける。


「ウォー バンスィ アルゥ。清らかなる水よ、戒めとなれっ」


 ゴレムスたちの足元に突如として水が溢れ出す。そして、その水は鞭のように何本も纏まっていく。

 水の鞭は猛スピードでゴレムスたちの手足を、縛るとその動きを押さえ込んだ。


「………!!?」


 動きを押さえ込まれたゴレムスは、水の戒めをなんとか振りほどこうと力を篭めるが、それに対して鞭はびくともしない。


「これ、下級の魔法にしては結構魔力(マナ)を食うからこの間は使えなかったんだけど、今回は仕返しってことで」


 にこりと微笑んだフィリアの声を合図に、動きの取れないゴレムス2体を騎士たちが容赦なく叩き斬った。

 謎の技については次回説明します。

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