信じながらも、焦り駆ける者
レミアータの状況。少々短めです。
西の山道側の森の中。夕闇に紛れて走るひとりの女性の姿があった。フィリアたち3人とはぐれて、彼女たちとの合流を急ぐレミアータだ。
彼女の格好は、傍から見れば騎士とは思えない様子になっていた。胸当てなどの鎧は所々が歪み、布地部分も血のあとが残り、さらに穴もあいてぼろぼろだ。
だが、治癒薬を飲んだのだろう。見たところ、ほとんど怪我らしい怪我はない。
「フィリアさんたちが無事ならば、野営地点へ向かうはずです」
何度も口に出しては、自分に言い聞かせるように呟く言葉。
本当ならば落下地点へ向かいたい。しかし、もうすぐ日が落ちるという時間に記憶だけを頼りにして、この森の中で落下地点を探すのは無理がある。
無闇矢鱈に探し回るよりは、可能性の高い方にかけた方がよいとレミアータは判断した。
「大丈夫、フィリアさんたちなら無事です……、きっと」
焦燥感に駆られながらも走るのだが、思いに反してその速度は普段とは比べ物にならないほど遅い。
だがそれも当然である。フィリアたちとはぐれたあと、レミアータはただひとりでアリヴィードと相対していたのだから。
◇
「―――来なさい」
アリヴィードに堂々と剣を構えたレミアータは、そのまま戦闘に突入した。
襲い来る強敵に、彼女は最小限の動きで対処する。いや、せざるを得なかったのだ。
道は狭く、また、傷は深いものはなかったが1日の総出血量が多すぎた。まさに追い詰められた状態で、相手の隙を見て治癒薬を飲む、という真似もできるような敵ではない。
ゆえに戦闘は自然と短期決戦を目指すものとなり、自身の動きは出血を最小限に抑えるものになった。
アリヴィードの放つ暴風の如き攻撃や、刃の嵐のような羽の雨の中をレミアータは避けて、時には耐え切って敵の隙を窺った。
「まだ…っ。まだです……!」
そうして、30巡近く耐えただろうか。もう限界が間近というときになって、彼女はついに光明を見出した。
アリヴィードは自らから見れば虫のような相手に、延々と攻撃を躱し続けられることに苛立ったのだろう。視野の狭くなった思考のままに、攻撃後の反動の大きい《風切り》のスキルを繰り出した。
(ここでっ!)
レミアータはそれを冷静に対処。見事に捌ききることに成功し、アリヴィードの隙をついた。
通常ならば防御に使うスキル《土隆》を使用し、土砂によって自分の身を覆い隠す。そして、その影からかつてこの難敵を討ち取った道具、拘束縄をアリヴィード目掛けて投げつけた。
縄は見事にその首に絡みつく。だが、彼女はそれに一瞥もくれることなく、縄の反対を山道から飛び出すようい生えていた気に向けて投げた。木に絡みついた縄は、空中にアリヴィードの首へと向かうための足場を作り出す。
レミアータは落ちることを考えもせずに縄に飛び乗ると、アリヴィードの首めがけて全力で駆け上がった。
ここに至り、ようやっと反動から体の自由を取り戻したアリヴィードであったが、何をするにしてもすでに遅い。
我武者羅に暴れようと翼を振ろうとした時には、眼前にレミアータの剣が迫っていた。
「はあああぁぁぁっ!!」
そうして彼女は、ここまで溜めていた力を全て解き放つ。
スキル《斬鉄》。
かつてもアリヴィードの首を両断した剣技が、再びかの敵を討ち取った。
◇
その後、転がるように地面に降りたレミアータだったが、思ったよりもその消耗は激しかったようだ。
這いずるように山道の岩陰に移動してから中級治癒薬を口に含むと、そのまま気絶するように意識を失ってしまった。
ようやっと意識を取り戻した時には日がほとんど暮れており、傷は癒えていたが体力は全快とはいかなかった。
だが、彼女はその身に鞭を打って立ち上がると、野営地点を目指して駆け出した、というのが1刻ほど前になる。
落下地点を目指さなかったのは、その場所を探すまでのリスクの高さに合わせて、時間が経ち過ぎていたということも理由の1つだった。
焦りだけが募る中、レミアータはその気持ちを理性でもってなんとか抑えつける。
「どうか無事で――!」
レミアータは祈るように森の中を疾走した。
ちょうど100部目だったみたいです。
ここまで書いてこられたのは、読者の皆様のおかげです。
完結目指して、これからも頑張ります!