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初任務と内事情

誤字、脱字などありましたら報告のほど、よろしくお願いします

 「むぉ……なんだフェルか……また箒を壊したのか」


 フェルに叩かれて目を覚ました中年の男、ヴィンハイス。

 叩かれた場所を撫でながら、起きるなりいきなり失礼な事を言い出した。


 「まだ3回しか壊してないわよ、今日はあんたに本業の方で頼みに来たのよ。この男に扱えそうな剣を選んでほしいの」


 しかもこの3回はフェルが冒険者を始めてからの回数だ。それ以前を合わせると二桁にも上るだろう。


 「……本業ねぇ」


 ヴィンハイスは表情に真面目な雰囲気を漂わせ自らの無精髭を触りながら、玲を見る。どうやら玲に合う武器を思い浮かべているようだ。

 ヴィンハイスの性格からはイメージしにくいが、彼は職人だ。その人の体格や年齢、肉付きから見てどのような武器が合うか、大体見抜く事が出来るのだ。


 しばらく玲を見た後ヴィンハイスは壁に立て掛けてあった、細身の剣を取り出した。

 波打つような刀身が特徴的なフランベルジェと言われる剣だ。


 「持ってみろ」


 ヴィンハイスがその剣を玲に渡す。本物の武器を手にするのに恐怖していたのか受け取る一連の動作がぎこちない玲だった。


 「どうだ?」


 「……軽い……かな」


 玲が感想を言う。どうやら加護を受け、強化された彼の肉体には合わなかったらしい。


 「あ、言い忘れてたけどそいつは小石でゴブリンを木っ端微塵にする奴だから。重い武器をお願いね」


 「先に言ってくれや」


 フランベルジェを玲から返してもらい、次の武器を探すヴィンハイス。

 その探す片手間、玲を再び見て率直な感想を貰うヴィンハイス。


 「あんたにそんな力、なさそうに見えるんだがなぁ……」


 「……ですよね」


 細身の彼はよく痩せている、と言われるが実際は筋肉トレーニングが趣味のアウトドア派の青年なのだ。


 と、言うか小石でゴブリンを木っ端微塵にするってどんな筋力してるんだ、と疑問を持ちながら武器を見ていく。


 「こいつはどうだ?」


 次に取り出してきたのはかなりの長剣だ。いや、むしろ大剣に分類しても良いとも思われるほどの剣、バスターソードだ。


 「一応、剣の中じゃそいつが一番重いんだが、どうだ?」


 刃渡りだけで1メートルはありそうな剣を玲は片手で持つ。


 「うーん、まだ少し軽い感じがするけど……まぁ良いかな」


 「流石にこれ以上は戦斧や鎚になるぞ」


 ヴィンハイスは驚きながら玲に突っ込みを入れる。


 「じゃ、それで良いわね。ヴィンハイス、その剣はいくら?」


 「金貨2枚だ」


 「よし、無理ね。レンタルに切り替えるわ」


 諦めの早さにヴィンハイスと玲がずっこけそうになる。

 フェルははっきり言って貧乏人だ。

 出会ってまだ1日しか経っていない玲の為に大金を使う気にはならない。

 そんな簡単に信用しないのだ。


 「……まったく、レンタルになると大体20分の1が相場だから銀貨1枚だ」


 フェルはヴィンハイスに金を渡す。そしてバスターソードを玲が受け取った。


 「あ、期間は1ヶ月だ。良いな!?」


 店から出るとき、忘れていたのかヴィンハイスが叫ぶ。

 玲はなんか気持ちの良い人だな、という印象を抱いた。


 「了解です! さて任務に行くかなっ……ぶっ」


 「待ちなさい、あんたは」

 フェルに首を絞められ咳き込む玲。


 「……ゴホッ……まだ何かあるの」


 「あんたが任務に行くユドラルの森とはまったく逆の方に行こうとするからでしょうが」


 「なるほど、それじゃ今度こそ!」


 任務に行く前から不安になってきたフェルに対して、行きたくて行きたくて仕方ない玲、とても対象的なコンビだった。










 ――――――――――――――――――――――――










 さて、話は変わるが玲が受けた任務はランクEの薬草の採取任務だ。

 しかし、玲には薬草の事はさっぱり分からない。

 だから……


 「なんで私が……ついてこないといけないのよ」

 「だって、俺に薬草学はないし……」


 仕方ないのでフェルが着いていく事に成った。納得はしていないがそれほど文句を言わない辺り、理解はしているのだろう。


 森に生えている薬草を抜き、玲の背負っている籠に入れるフェル。玲は持ち前の力で枝や草を折ったり、または踏みならしていく。

 フェルが薬草を探し、玲が邪魔な木の枝を除去するという作戦を取っているのだ。


 「そう言えばさ」


 「ん?」


 フェルは手を動かしながら玲の方を見ないで口を開いた。どうやら2つの作業を同時進行できるようだ。


 「あんたの役割は神の落とし物の回収よね?」


 「うん、後ついでに魔物も倒すように頼まれたよ」

 玲は要領が悪いのか手を止めて話している。この男、色々と残念である。


 「うん、それはある程度聞いたから分かるんだけどさ。あんたの世界の神具ってどんなものがあるの?」


 フェルが聞いたのは好奇心からだ。魔女である彼女は目の前にある謎に対して追究せずにはいられないようだ。


 「そうだなぁ……」


 玲は神々の武器ってなんかあったかなぁ……と記憶の中から探す。

 玲はファンタジー小説やゲーム等が好きでそういった類いの物はよく知っているが、その起源や伝承等については詳しくない。だからしっかりとした知識を持ってはいなかった。

 だから分かりやすい、かつ一番強力な武器の玲を上げていく事にした。


 「……えっと、神殺しの槍とか、滅びの魔剣とか……」


 「ちょっとヤバいじゃない!!」


 有名なやつはそんな感じかな、と玲が付け足す前にフェルが声を上げた。


 「あんた何て危険な物を持ち込んでくれてるのよ!?」


 「えぇ!? 俺の所為じゃ無いでしょ!?」


 「そんな事知るかぁ!」


 フェルは聞いて失敗だ、と後悔した。これじゃあいつ世界が終わってもおかしく無いじゃないか、と恐怖した。と、言うかそんな規模の神具がこの世界にボンボン来ているのかと思うと正気を保てそうにない。


 「いや、それは俺の知ってる中では一番だから。

 そ、それにそんなのが来ているなんて保証なんか無いわけだし!」

 フェルをなんなとか宥めようとする玲。確かに彼女の不安は最もだが、現状はどうしようもないのだ。


 それを理解したのか、フェルも大人しくなる。いやむしろ諦めが入ったのだろうか。


 「はぁ……それもそうね。レイ、今薬草何本採ってる?」


 「えっと……14本。ノルマは15本だから後1本だよ」


 「じゃ、これで終わりね、帰るわよ」


 「あ、ちょっと待って!」


 フェルは玲の背負う籠に薬草を乱暴に突っ込み箒に跨り、帰路に着く。

 玲はその後ろを全力疾走し、追い掛けるという形になった。










――――――――――――――――――――――――――



 










 いくら玲の肉体が強化されていようと、流石に空を飛ぶフェルよりは遅いようで、フェルが街に戻って来てから10分後に玲が戻ってきた。

 玲はギルドに薬草を納めて報酬を受け取った。

 銀貨5枚という、ギルド最低ランクには相応しい金額だが初めて自分で稼いだ金に玲は感動した。


 ……まぁ、この後フェルに「宿代とレンタル料金とアシスト料金」という名目の元、奪われるのは別の話だ。

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